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国境突破!

 ラルクは改めて見張り台の上からハミマの地を眺める。


 右手に門があって、左に向かって坂が続いている。

 見た目はラーソンと大して変わらない風景だが、坂道の途中にテントが並んでいる。


 所々に資材が積まれていて、馬車の出入りもある。

 おそらく、そこが軍の拠点なのだろう。

 だが、昨夜の敗戦の影響なのか、人の動きは少ないように感じられた。


 門の反対側のラーソン領では砲弾を並べた所が小さく見える。

 さっき準備した砲弾だ。


 ピピカを肩車から降ろして、ラルクが小石を手にする。

「とりあえず……ほいっ!」


 適当な方向に投げると、小石は放物線を描いて視界から消えた。


「あれ? ピピカ?」


「は、早いでしゅよ! それじゃ間に合わないでしゅ」


 ピピカのスキルは、交換する対象物を交互に目視しなければならない。

 なので、急にやれと言われても対応できないのだ。


「そっか。すまん。じゃあ、先に砲弾を見てから合図をくれ」

「あい。それじゃ……弾を見て……あい!」


 ピピカの合図で「ほいっ!」と、小石を放るラルク。

 それを確認したピピカの「えい!」で小石が砲弾に変わった!


 砲弾は放物線を描いて坂の脇にある林に落下する。

『ドガァーン!!』


「うわっ!」

 光に続いて爆音と爆風が押し寄せてきた。


 爆発地点が近い。

 素手で小石を投げているだけなので、思ったほど遠くまでは届いていない。

 

「くそ! 敵陣までは届かないか。けど、ドンドン行くぞ!」


「あい」「ほいっ!」「えい」

「あい」「はっ!」「えい」

 

 何度かそれを繰り返しているうちにタイミングが合ってきた。

 時々、間違えて地面ごと交換して砲弾と土が一緒に飛んで行ったりもしたが、爆撃は順調に進んだ。


 砲弾による攻撃は、範囲は狭いが峠に展開していたハミマの軍隊を慌てさせるには十分だった。

 馬が驚いて暴走し、テントから飛び出した兵士達が右往左往する。


 門に向かって坂を駆け上がってくる連中には、鼻っ面に『ドガーン!』と食らわせて撃退する。


 敵は、門の向こう側から砲撃を受けていると勘違いしている様子だ。

 まさか、自陣の見張り台から攻撃されているとは思わないだろう。


 やがて、テントから我先にと逃げ出してきたハミマの兵士達が、坂の下に向かって撤退していくのが目に入った。


 ラルクが門の向こう側に向かって叫ぶ。

「みんな! 今だ! こっちに来い!」

 

 それを聞いたファンクとギルバートが門の前で戸惑っている。

「ファ〇ク! 来いっつっても、どうやって? 俺はゴキブリだからいいけどよ?」

「どうしましょう? 僕のスキルでは、こんな扉……」


 チキは、拳で鉄扉をコンコンとノックして「うん。これなら」と、頷く。

「任せて!」

 そう言ってチキはポシェットから黄色い草を取り出して口に含んだ。


 ファンクとギルバートが見守る中、チキはモグモグと口を動かす。

 それも念入りにモグモグと。


 なかなか咀嚼そしゃくを止めないチキに苛立ったファンクが突っ込む。

「フ〇ック! いつまでモグモグしてんだ? 早く出せよ!」


 チキは、チラリとファンクを見て、ごっくんと飲み込む。

 そして「うっ」と、眉間に皺を寄せて、鉄扉に顔を向ける。 


「うげっ」 『デロデロデロッ』

 チキが盛大に吐いたゲロが、広範囲にわたって鉄扉にぶちまけられる。


『ジュウウウウ!』

 ゲロは鉄扉に触れた瞬間に煙をあげて、それを溶かした。


 チキの吐き出したゲロは強酸の魔法だった。

 みるみるうちに強烈な酸が鉄扉を溶かしていく。


「ファ〇ク! すげえな! おい!」


 ギルバートが鼻をスンスンして顰め面をみせる。

「なんだか、酸っぱい匂いがします」


「当たり前でしょ! 酸なんだから」


 鉄が溶ける音が収まる頃には、人ひとりが通れるぐらいの穴が鉄扉に開いていた。


「ファッキン・アシッドだな! こいつはゴキゲンな強烈さだぜ!」


「当然ですわ。私の魔法は、草を噛めば噛むほど強力になるんですのよ」

 そう言ってチキは胸を張る。


 しかし、ギルバートは嫌そうな顔で言う。

「いやだぁ。その分、唾液が多く混じるってことじゃないですかぁ。なんか汚い……」


『ドスッ!』

 チキの蹴りがギルバートの脇腹に食い込む。


「はがががが……」

 脇腹を押さえてしゃがみ込むギルバートに、チキが『ぺっ』と、追い討ちで唾を吐く。


 それはギルバートには、かからなかったが、地面に落ちたと同時に『ジュッ!』と、煙を上げた。


「ひいいいい!」

「あら。ごめんあそばせ。まだ口の中に酸が残ってましたの」


 少量とはいえ、鉄扉を溶かす程の『痰』を飛ばされては、たまったものではない。

 ギルバートは、信じられないといった表情でチキを見るが、ぐっと言葉を飲み込んだ。


「さ、行きましょ」

 チキを先頭に、鉄扉の穴を抜けてハミマ領に入る。


 門を抜けると、ちょうどラルクとピピカが見張り台の梯子はしごを降りてくるところだった。


 ラルクが坂の方面に顔を向けながら言う。

「さあ、今のうちに峠を下ってしまおう。今なら軍に見つからずに行けそうだ」


 辺りには硝煙しょうえん臭い煙が立ち込めていて視界が良くない。

 

「了解ですわ! 行きましょう」

「ファッキン・潜入だな! 面白くなってきたぜ」


 ハミマ共和国に入国したのはドワーフの里を訪れる為だ。

 目標ターゲットは女ドワーフのリッツだ。

 

 彼女には『ざまあ』するだけでは足りない。

 ラルクを追放した勇者グランと黒魔導士バルガードの居場所を聞き出さなくてはならない。


 ラルクは気を引き締める。

「よし! 早速、目的地に向かうぞ!」



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