それもまた『ざまあ』
ギルバートは得意げに『ざまあ』したと言う。
ファンクが首を傾げる。
「ファッキン『ざまあ』だと? どういうことだ?」
そこでラルクは思い出した。
「ひょっとして、父上を侮辱した人って、あの大佐のことか?」
「そうです。だからさっき、大佐が休んでいるテントの隙間にお尻を押し付けて、流し込んでやったんです」
「フ〇ック? テントに屁を?」
「ええ。遠慮なく出しました。なので、スッキリしましたよ」
ラルクが、うええ……という表情で尋ねる。
「で、何色の屁を?」
「茶色です」
澄まし顔で答えるギルバートとは対照的に、ファンクとラルクが青ざめる。
「ファ、ファ、フ〇ック!? ちゃ、茶色だと!?」
「ほ、ほんとに? 茶色を使ったのか!? な、なんてことを……」
茶色の屁と聞いて恐れおののく二人を見て、チキが不思議そうな顔をする。
「あら? 茶色のガスは、どんな効果があるんですの?」
「ファッキン! こ、効果なんてねえ! 普通の屁だ! ただ……猛烈に臭い!」
ラルクはゲンナリした顔で呻く。
「毒ではないが……死を覚悟させる匂いだ」
「ファ〇ク! おまけに一週間は匂いが取れねえ!」
「ああ。精神を病む。確実に」
二人の反応にチキとピピカは戦慄する。
だが、当の本人は照れくさそうに笑う。
「いやだなあ。それじゃまるで僕のおならが、とてつもなく臭いって言われてるみたいじゃないですかぁ」
「「臭いんだよ!」」と、ラルクとファンクの言葉が被る。
ラルクが坂の下を眺めながら、ため息をつく。
「まあ、当分、王立軍は機能停止だろうから、今のうちに作戦を実行するか」
「そうですわね。では、ダーリン、ご指示を!」
「よし。ピピカとファンクは、その辺で適当な小石を拾い集めてくれ。残りの皆は砲弾を等間隔で並べる作業だ」
ラルクは簡単に作戦を説明した。
狙いは地面に並べた砲弾を門の向こう側の敵陣に送り込むこと。
見晴らしの良い場所でラルクが門の向こうに小石を投げて、ピピカがそれを砲弾と交換する。
敵陣に落下した砲弾は次々と爆発を起こすはず。
それで敵陣を混乱に陥れようというのが概要だ。
大砲の弾は、ひとつ抱えるのにも一苦労する重さだった。
木箱から取り出して持ち上げ、ヨタヨタと運んで平地にそっとおろす。
チキは、さっきドーピングでパワーアップしたので、滞りなく作業をこなしている。
力自慢ではないラルクは結構、苦戦してしまう。
「思ったより重労働だな。これは」
ひ弱なギルバートは、ラルク以上に悪戦苦闘している。
「ひっ、ひっ、ふぅ……重っ」 『プスッ』
「ちょっと! 隣で漏らさないでよね!」と、隣でチキが怒る。
「ひいい、ごめんなさい。まだ出きっていなかったのかも?」
「私に匂いをつけたら穴を塞ぐわよ!」
「ひ、ひいいい! ごめんなさい!」
そう言ってギルバートは内またを、ぎゅっと締めた。
小石を拾い集め終わったピピカとファンクが戻ってくる。
捗らないラルク達の作業風景を見てファンクが呆れる。
「フ〇ック! おいおい。全然、進んでねえだろ?」
「重いんですわよ! そう簡単には……んっ!」
「思ったより重労働なんだ……よっと!」」
「そうですよ。無理に持ち上げようとしたら、何か……むっ!?」
そこでピピカが無言で、並べている砲弾の所にテケテケ歩いていく。
そして、小石をポトリ、ポトリと落としながら、その周りを歩く。
「フ〇ック! あいつ、何やってんだ?」
ファンクが首を傾げていると、ピピカは両手を前に突き出してスキルを発動する。
「えい!」
するとチキが抱えていた砲弾が『ポフン』と消え失せた。
代わりに小石がポトリと足元に落ちる。
「あら?」と、チキが砲弾を探すが、周りにはない。
続いてピピカが「えい、えい」と、連続で強制交換のスキルを使用すると、ラルクやギルバートが運ぼうとしていた砲弾が立て続けに消失する。
それを見てラルクがピピカの意図に気付く。
「あ、そっか! その手があったか」
ピピカは強制交換を続ける。
ピピカが撒いた小石は、次々に砲弾と入れ替わっていく。
「ファッキン! 頭いいじゃねえか! ピピカの奴」
「なるほど、ですわ! 最初からこうしておけば良かったですわね」
「そうですよ。最初からそうしてくれれば、僕も余計なモノを漏らさずに済んだのに」
そうボヤくギルバートをチキがキッと睨みつける。
「あんた! 何回も漏らしたの!?」
「そ、そんな、大した数じゃないですよぉ」
とにかく、ピピカのおかげで、木箱から出した砲弾は野ざらしで並べることができた。
その数、50はくだらない。
ラルクが頷く。
「よし。じゃあ、小石を集めて建物に上るか。俺とピピカで屋上に上がるから、みんなは門の前で待機しててくれ」
門に隣接する建物は1階が出入国管理の窓口で、2階が国境警備隊の詰め所になっていた。
屋上に上がると門の高さには、だいぶん近付いたが、向こう側を見渡せる高さには足りない。
「うーん。石を投げこむには何とかなりそうだけど、もっと高い所が良かったな……ん?」
ラルクは、門の向こう側に見張り台のようなものが立っているのを発見した。
「あれだ! ハミマの見張り台なら、うってつけだ」
ピピカがピョコン、ピョコンとジャンプしながら「見えないでしゅう」と、言う。
「そっか。背が低いからな。それじゃ……」
ラルクは、ひょいとピピカを肩車して、見張り台を指さす。
「どうだ? 見えたか?」
「うわぁい! 見えるでしゅ」
「見張りの兵士が居るみたいだな。あいつと俺達を入れ替えてくれ」
「分かったでしゅ」
ピピカはラルクの身体と見張り台の兵士を交互に見る。
そして「えい!」と、スキルを発動した。
『ポフン』という音を聞いたと同時に、ラルクの視界が一瞬で切り替わった。
チラチラと目を動かして現在地を確認する。
「おおっ! 凄いな!」
ピピカを肩車したままラルクが驚く。
見下ろす景色はハミマ共和国の領土だ。
ふと、屋上の方を見ると先程まで見張り台に立っていたハミマの兵士がパニックに陥っている。
「あっちはチキ達に任せておいて、俺等はさっそくやるぞ」