有効活用
一夜明けて周辺は大分、片付いてきた。
王立軍によって捕虜は収容され、放置された武器も、あらかた運ばれていった。
唯一、入出国ゲートのある建物の前に敵の大砲が2門、残されていた。
「フ〇ック! 奴等、あれをぶっ放してやがったのか!」
「大きな大砲ですこと。実物を見るのは初めてですわ」
近寄ってみると結構な迫力だ。まさに鉄の塊。
壺の形をした砲身は3メートルぐらいの長さだ。
ラルクが砲身を撫でながら唸る。
「うーん。これは馬3頭で引かないと動かないな」
「ファ〇ク! 弾も放置してやがるぜ」
大砲の側に木箱に入った大砲の弾が丸ごと残っている。
「危ないですわね。早く片付けて頂かないと……」
しかし、ラルクが大砲の弾を観察しながら何か考えている。
「これ……あっち側に撃てないかな」
そう言ってラルクは国境のゲートを見上げた。
国境を行き来する峠道を完全に塞ぐ形で大きな門が構えている。
幅は20数メートル、高さも10数メートルを越える鉄扉は、今は固く閉じられている。
「フ〇ック! この角度からじゃ無理だろ?」
「ピピカ、この砲台を動かせるか? 方向をあっち向きにして」
「できましゅよ。交換できましゅ」
「ファッキン! けど、どうやって撃つんだ? 誰も大砲なんて、いじったことねえだろ?」
「ああ、そうか。それもそうだな」
そう言ってラルクは考え直す。
「フ〇ック! そういや、ギルバートの姿が見えねぇが? あいつ、どこに行きやがった?」
「別行動ですわ。一人で考えたいって」
「ファッキン……あいつ、やっぱ、パーティ抜ける気なのかな?」
ラルクが首を振る。
「分からない。けど、本人に任せよう」
ギルバートの仇がラルクの父親だったと判明した今、心情的に仲間としてパーティを続けることは難しいかもしれない。
しんみりした雰囲気になってしまった。
そこでラルクが門の方を指さしてファンクに言う。
「ファンク。あっち側の様子を探ってみてくれ」
「フ〇ック! いいけど、だったら変身しねぇとな!」
それを聞いてチキが目を丸くする。
「あら! あなた、変身できますの?」
「ファ〇ク! あたりめぇだ! 俺は妖精なんだぜ?」
「ハエかゴキブリにしか変身できないんだけどね」
ラルクの突っ込みにチキが顔を顰める。
「嫌ですわね……それしか変身できないなんて」
蝶のような美しい羽を持つ妖精からクソみたいな生物への変身。
チキは呆れ顔で言う。
「どうせなら蝶か鳥に変身できれば良いのに。よりによって、そんな下等生物……」
「うっせえな! ファ〇ク!」
ファンクはブツブツ言いながらゴキブリに変化すると、門に向かって颯爽と走り出した。
* * *
しばらくして、偵察を終えたファンクが戻ってきた。
「ファ〇ク! 奴等、門の向こう側で陣を張ってやがるぜ!」
「そうか。やはり侵攻を続ける気なんだな」
「ファッキン・テントが20ぐらい設営されてたぞ!」
「だとすると、仮に門を抜けても包囲されてしまうな」
「困りましたわね。また戦うしかありませんの?」
「フ〇ック! けど、今はあいつが居ねぇし……」
ギルバートの不在は戦力的に厳しい。
チキが坂の下を見ながら言う。
「せめて王立軍が動いてくれれば良いのですけど」
「ファッキン、無理だな! 奴等、国境を越えてまで戦うつもりは無いぜ?」
「だな。やっぱり、この大砲を使うしかないな」
「何か考えがございますの?」
「ああ。これを向こう側にドンドン撃ち込んで、敵が混乱してるうちに紛れ込む」
「フ〇ック! けど、どうやって大砲を撃つんだよ?」
「撃たなくてもいい。ピピカ、この弾を門の向こうにぶっ放せないか?」
ラルクは門の上辺りを指さすが、ピピカが難しい顔をする。
「何か交換しゅるものが無いと無理でしゅ」
「じゃあ、俺がドングリを放り投げるから、それと大砲の弾を交換するなら……行けるか?」
「できましゅ。でも、ドングリがたくさん要るでしゅ。昨日の夜に、ほとんど使っちゃったでしゅから」
「分かった。よし。じゃあ、急いでドングリを拾うぞ!」
「フ〇ック! いい年こいてドングリ拾いかよ! 冗談だろ?」
「仕方ないだろ。ドングリが必要なんだから」
「そうですわよ! ダーリンの指示に従いなさい!」
「ファ〇ク! アホか! ガキじゃあるめえし!」
ファンクが抵抗しているところに、背後から冷静な声が聞こえてきた。
「別にドングリでなくてもいいのでは?」
ラルク達が振り返る。
声の主はギルバートだった。
「ファッキン! ギルバート、お前……」
ギルバートは少し照れくさそうに頭をかいた。
「すみません。やっぱり、連れて行ってください」
ラルクが微笑む。
「ああ。勿論だ。歓迎するよ」
「ファ〇ク! お前、ホントにいいのかよ?」
「ええ。よく考えた結果です。やはり、父上の仇であるアシュフォード公は憎いです。でも、ラルクさんはラルクさんです。それに、ラルクさんも、ある意味、被害者なんですよね? 子供の時に捨てられたなんて……」
「フン。顔も覚えてないよ」
そう言って不貞腐れるラルクを見てギルバートが続ける。
「一緒にアシュフォード公を見返してやりましょうよ。生きていたらの話ですが」
ギルバートの父を辱めた仇であり、ラルク達を捨てた毒親でもあるアシュフォード。
ワルデンガの戦いで行方不明という噂だが……。
ラルクが頷く。
「ああ。そうだな。奴が生きていたらな」
ギルバートは力強く頷く。
「はい。それと、僕の夢はヒョターンツギィ家を再興することです。その為にも旅を続けたいです」
「ファ〇ク! そいつは中々、大変だな!」
「ええ。できればダンジョンとか賞金首モンスターを攻略して、復興の資金を稼ぎたいです」
それを聞いてラルクが笑う。
「いいじゃないか、目標ができたな! 俺が勇者パーティに『ざまあ』する。その後で、お前が家を再興して、できればアシュフォードもぶっ飛ばす」
ギルバートも、ラルクの笑顔につられるように笑みを見せる。
「それが僕の『ざまあ』ですね」
「ファッキン! ずいぶん晴れやかな顔してんじゃねえか! 吹っ切れたか?」
「ええ。スッキリしました。それに、父上を侮辱した人達には、しっかり『ざまあ』してやりましたからね」
そう言ってギルバートは、くすっと笑った。