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薄幸の令嬢

 到着した時間が遅かったので、町中の店は、ほとんど閉まっていた。


 せめて宿だけでも確保しようと、ラルク達は寒空さむぞらの下、繁華街をウロウロしていた。


「ファ〇ク! 今夜は野宿だな」

 妖精のファンクがそう吐き捨てると、お上品なギルバートが青ざめる。

「冗談でしょう? いくら落ちぶれたとはいえ、貴族のボクが野宿なんて!」


「フ〇ック! 贅沢いってんじゃねえぞ。ボケ!」

「酷いですよぅ。お風呂に入りたいだけなのに……」

「あ? 着替える服なんてねえくせに。それ、匂うぞ! ファ〇ク!」

「これしか無いのは仕方がないでしょう。せめて身体ぐらいは綺麗にしておかないと」


 ギルバートの服は貴族の正装だ。

 薄汚れてボロボロでも、それは彼の唯一の財産だという。

 その一張羅いっちょうらが、彼のプライドを辛うじて維持している。


 その時、「ぎゃあああ!」と、野太い悲鳴が路地裏から聞こえた。

 

 ラルクが「なんだろ?」と、怪訝けげんそうに、その方向を見る。


「ファ〇ク! 止めとけ! 関わんなって」

 ファンクの制止を無視してラルクは、路地裏に入っていく。


 男達の怒号が耳に入ってくる。

「このアマ、ぶっ殺すぞ! くっそ熱いじゃねえか!」 

「ブスのくせに! せっかく遊んでやろうってんのによう!」


 現場に到着したラルクの目に、座り込む女と二人組の姿が飛び込んできた。

 暗いので女の顔は判別できなかったが、襲われているのは分かった。


 ラルクが「おい!」と、声を掛けると、二人組がこちらに顔を向けた。

 一人は獣人の血が入っている男で、もう一人はドワーフのようだ。


 男達がラルクに気を取られた隙をみて、女が逃げた。

 彼女はいずるように男達の間をすり抜け、ラルクに助けを求める。

「お願い、助けて!」


 長い前髪のせいで女の顔は半分隠れている。だが、怯えている様子だ。


 ラルクが分かったというより早く男達が反応した。

「おい! 邪魔すんな!」

「その女、火、吐きやがったんだぞ!」


「火?」と、ラルクは首を捻る。 


 有無を言わさず殴りかかってくるドワーフ。

 そこでラルクが止む無くスキルを発動する。


 ラルクは、右足を引いて身体の向きを変えると、空を切るようにパンチを放った。

 すると、その動きをトレースするみたいに、ドワーフが方向転換して連れの顔面に『ガツッ!』と、パンチを打ち込んだ!


「うげっ!?」と、殴られた男が転倒する。


 殴った方のドワーフは、信じられないといった表情で自らの拳を見つめる。

 何が起こったのか理解できないようだ。


―― ラルクの動作を、そのまま真似させる。


 これがラルクの3秒間だけ相手を操れるテイム能力だ。

 

 通常、テイマーが手懐けるのは、猛獣やモンスターと相場は決まっている。

 だが、ラルクのそれは、対象が人間であっても有効だ。


 困惑したドワーフは、連れを起こしてやりながら盛んに首を捻っている。


 ファンクがギルバートをそそのかす。

「おい! アレを喰らわせてやれYO!」


 ギルバートがラルクに尋ねる。

「何色がいいですかね?」

「眠らせればいいんじゃないか」


「承知しました。では……」

 そう言ってギルバートが「失礼」と、二人組に背を向ける。

 そして軽く、いきむ。

 

『プ……プゥゥ』


 やや甲高い音と共に水色のガスが、ギルバートの尻から発生した。


 鼻をつまんで数歩下がるラルクとファンク。


 水色のおならは、二人組を取り巻いて、直ぐに消えた。

 だが、その効果は抜群で、一瞬にして二人組を眠らせた。


 ファンクが中指を立てる。

「ファ〇ク! そこで、おねんねしてな!」


 二人組がだらしなく眠りこけているのを確認してから女が礼を言う。

「ありがとう。助かりましたわ」


 女の顔は相変わらず前髪で隠されていたが、声は若い感じだ。

 そして、見た目に反して、しっかりした喋り方なのでラルクが意外そうな顔をする。


 ファンクが意地悪そうに尋ねる。

「YOYO! 若い女が、こんな時間に何やってんだ? お?」

 

 彼女はうつむき加減に答える。

「あ……少し家出を」


 ラルクが獣人の血が入った男の服が焼け焦げているのに目を留める。

「そういえば、さっき火を吐いたとか言ってたけど?」


「あ、それは……火炎草です」

「火炎草? あの辛いやつ?」


「そうです。私、食べた草を吐くと魔法が発動するんです」

「は? なんだ、それ?」


 食べた草を吐くと魔法が出せるスキル!?

 聞いたことが無い能力にラルクは困惑した。


 女は、ラルクにポシェットの中身を見せる。

「これ……護身用ごしんようの草を持ち歩いてるんですよ」


 ギルバートが感心する。

「便利な能力ですね。ひょっとして、草によって出せる魔法が異なるとか?」


「ええ。その通りですわ。雷とか氷とか、爆発系もできますことよ」


「ファ〇ク! ファンキーな姉ちゃんだな。面白いじゃねえか!」


 ファンクは興味津々だが、ラルクは乗り気ではないのか話を切り上げようとする。

「そっか。じゃ、気を付けて帰りなよ」


 ところが、女はどうしてもお礼がしたいと言う。

「よろしかったら私のお屋敷にいらっしゃらない?」


「お屋敷?」と、ラルクが首を傾げる。


 女の格好は、中流階級の女性にありがちな服だったが、かなり汚れていた。

 一見すると、宿無しのようだ。


 いぶかるラルクの手を引くようにして、女は馬送屋(馬車のタクシー)を呼び止めた。


 そして顔を見せないまま、明るい声で言った。

「さ、参りましょ。我がアッチョンブリの屋敷に」


 まさか、この後で『跡目あとめ争い』に巻き込まれてしまうとは、つゆ知らず、ラルク達はその誘いに乗ってしまった。


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