ヘタレな国境警備隊
大きな爆発で店の窓ガラスが震え、建物が揺すられる。
「ファ〇ク! 結構、デカいぜ? おっぱじめやがったか!?」
「ほ、ほ、砲撃なんですかね!?」と、焦るギルバート。
「ファッキン大砲だろうな。ハミマの奴らが攻めてきたんじゃねぇか?」
「そ、そ、そんなぁ、怖いですぅ」
ギルバートは女の子のように怖がる。
チキは半ば諦め顔で言う。
「間が悪いですわね。このままだと戦争が再開してしまいますわ」
おばちゃんが青ざめる
「そんな! ここはこの28年間、ずっと平和だったのに!」
爆発は1回ではなかった。散発ではあるが、数十秒おきに色んな方向でそれが発生している。
ラルクが立ち上がる。
「行こう! 峠に向かうぞ」
「ファッキン!? 正気かよ?」
ラルクは冷静に返す。
「国境が封鎖される前にハミマに入国した方がいい」
チキは無邪気にそれに従う。
「ダーリンがそうおっしゃるなら喜んで♪ お供しますわ!」
ギルバートは椅子にしがみつきながら反対する。
「ぼ、ボクは反対です! 敵の真っただ中に向かっていくなんて、危ないですよぅ」
料理に夢中のピピカは、きょとんとしてラルク達の顔を見上げる。
でも、口はモグモグ動いている。
ラルクは荷物を持つと無言でスタスタ歩き出した。
チキがお金をテーブルに多めに置いて「お釣りは結構でございますわ」と、慌ててラルクを追いかける。
ピピカは、食べかけのパンを咥えたまま、ソーセージとブドウをポケットに詰め込んでピョコンと椅子から飛び降りる。
そして、テケテケとラルク達を追う。
残されたギルバートは頭を抱えてウロウロしている。
行こうかどうか葛藤しているらしい。
「ファ〇ク! 置いてくぞ!? お前、一人で生き残れんのか?」
ファンクにそう言われてギルバートがハッとする。
「いやだ! 置いていかないでぇええ!」
ラルク達は村を出て、テフラ峠の検問所を目指して走った。
国境の検問所に向かう道は、真っすぐな一本道で、急な坂になっていた。
息を切らしながら走るラルク一行。
先頭を行くラルクは冒険慣れしているので、これぐらいの坂道は苦にしないが、他のメンバーはそうはいかない。
羽があるファンクは平気そうだが、チキは栄養ドリンクでドーピングしながら辛うじて着いていける状態。
ギルバートは内またでクネクネ走りながらヨレヨレになっている。
そんな中、なぜかピピカは平気な顔をしている。
一番体力が無さそうな少女なのに、最後尾の位置を難なくキープしている。
走りながらラルクがそれに気付く。後ろを振り返って尋ねる。
「ピピカ、平気なのか? お前、どこでそんな体力……」
ピピカの走りは遅い。ラルク達との距離は、あっという間に広がってしまう。
だが、一瞬で追いついてくる。
ラルクは足を止めることなく、後ろを見ながらその様子を目の当たりにする。
「な!? 瞬間移動!?」
確かに、そうとしか見えなかった。
20メートル以上、後方にいたピピカの姿が、ふっと消えたかと思うと、次の瞬間、ピタリと最後尾につけている。
ラルクが首を捻りながら進み続けていると、坂の上からドタバタと集団が走って来るのが目に入った。
「フ〇ック! あいつら、国境警備隊の連中じゃねぇか!?」
彼等は慌てた様子で一目散にこちらに向かってくる。
どう見ても逃げ惑っているようにしか見えない。
「ファッキン! 情けねえ、職場放棄じゃねえか!」
「最低ですわね。国境を守る気がないのかしら?」
ラルクが足を止めて言う。
「ギルバート。黄色の屁をこけ」
「え? 黄色、ですか?」
「そうだ。奴らを足止めしろ」
「でも、いいのかなぁ……」
ギルバートは戸惑いながら数歩前に出ていきむ。
「ん……」『プゥゥゥプピッ』
黄色いガスを残して戻ってきたギルバートに向かってファンクが指摘する。
「フ〇ック! お前、どさくさに紛れて出しやがっただろ? なんだよ、最後の『ブピッ』って?」
「は、はぁああ!? そ、そんなことないです! 『ミ』なんて出してないですぅ!」
ギルバートの黄色い屁は、道を塞ぐようにその場に留まり続けた。
そこに走ってきた国境警備隊の面々が突っ込んでくる。
ガスを吸った者は数歩進んだところでピタリと足が止まる。
身体が痺れて動けなくなってしまうのだ。
まるで魚の群れが次々と網にかかるみたいに、警備隊の連中はギルバートの屁で動けなくなってしまった。
そのうちの一人にラルクが尋ねる。
「なんで戦わない? 国境を守るのがお前らの仕事だろう? その腰にぶら下げてるのは何だ? 軍刀は飾りか?」
ラルクに詰問されて警備兵が言い訳する。
「む、無理だ。絶対、敵わねえよ……あっちの方が、はるかに人数が多い」
もう一人の兵も痙攣しながら訴える。
「安い給料なのに、い、命なんて、かけられないよ」
他の警備兵も似たようなものだ。まるで戦う意思が無い。
それどころか、急に体の自由を奪われてパニックに陥っている。
「フ〇ック! 坂の上から何か来るぜ!」
ファンクが敵の接近を察知した。
ラルクが「やれやれ」と、首を振ってからギルバートに命令する。
「ギルバート。赤だ」
「え? あ、赤ですか?」
「そうだ。こいつらに赤色の屁を吸わせろ」
「い、いいですけど……いいのかなぁ?」
ギルバートは警備兵達が集まっている場所に尻を向ける。
「し、失礼。それじゃ……」
『ブップッピ、プゥ』
恥じらいながらギルバートが放った屁は、赤い霧のように広がって警備兵達を包み込んだ。