おむつ野郎の情報
消えたギルバートの代わりに『ポフン』と出てきたのはチョビ髭の軍人だった。
筋肉質ではあるが腹だけがポッコリ出た強面のスキンヘッド。
彼は拳を振り上げて怒鳴る。
「何度も言うが、お前ら新兵は臆病なアヒルだ!」
ラルク達の存在と周囲の変化に気付いてチョビ髭が固まる。
「え? こ、これは!? なんじゃあ! これは!?」
騒ぐチョビ髭の頭をラルクが「うるさい!」と、木槌でブン殴る。
黙らせたところで窓から外を見ると運動場が見えた。
整列した兵士達の前には下半身を露出したギルバートの姿。
その様子がここからでは小さく見えた。
「ああ。こいつ、教官なんだな」と、ラルクは納得した。
ピピカは新兵を訓練中のチョビ髭と漏れそうなギルバートを強制交換したのだ。
「フ〇ック! 今のうちに脱出するぜ! 奴が漏らす前に!」
「そうだな。ピピカ、頼む。匂いが回ってくる前にショートカットで移動しよう」
ガルバードを救出したラルク達は、ギルバートを残して基地を脱出した。
* * *
宿に戻って事の顛末をチキ達に説明する。
「いやあ、ピピカを連れて行って正解だったよ」
「危なかったですわね。嫌な予感がしてたのですわ」
「漏れまくってたでしゅ」
「確かに。危うく、身内のガスでやられるところだった」
出発前にチキが懸念していたことが、まさに現実になろうとは……。
女の勘というのは侮れないものだ。
「ファ〇ク! けど、あの新兵たちも気の毒だったな。入隊して、あんなもん見せつけられるとかよう」
そこでギルバードが真っ赤になる。
「恥ずかしかったんですからね! 新兵に注目されながら脱糞するなんて……貴族としてあるまじき行為です!」
「フ〇ック……今更、貴族も何も」
「恥ずかしすぎます! 穴があったら入りたいっ!」
「ゆるゆるでしゅけど」
「くっ! ま、まあ、忘却の屁で彼等の記憶は消しておきましたから。もっとも、僕が忘れたいですよ!」
どんな屁を嗅いでも出した本人に効果は無い。
あれだけ周りに状態異常を引き起こしておいて、当のギルバートは平気なのだ。
そこに風呂に入っていたガルバードがガウン姿で出てきた。
「いやあ、本当に助かった。感謝するよ」
なんとなく腰回りが膨らんでいる気がしてラルクが尋ねる。
「お前、まさか、おむつを?」
その指摘にガルバードが挙動不審になる。
「な、な、なにを言っている? そ、そんなわけなかろう」
そこでピピカが強制交換でガウンを『ポフン』と、はぎ取る。
「あわわ!」と、慌てるガルバード。
やはり疑惑の通り、彼は裸に『おむつ一丁』の恥ずかしい格好だった。
「こ、これは火照った身体を冷やすためなんだ。その証拠に氷が入ってる! 股間を冷やすと気持ちいいんだよ!」
ピピカは満面の笑み。
「やっぱり、おむつ大しゅき君でしゅ」
チキとネムの冷たい視線を浴びながらガルバードは「やれやれ」と、椅子を引いてテーブルに座る。
その正面に座りながらラルクが尋ねる。
「首都ポルトの様子を聞きたい。今、どんな状況だ?」
「酷い状況だよ。戒厳令がしかれている」
「やはり、軍がカロンの指示で動いているのか?」
「軍の上層部に親派が居ることは間違いない。だが、ポルトを占拠したのはモンスターだ」
「モンスター?」
「ああ。アンデッド軍団によって、わずか数時間でポルトは制圧されてしまった。町中にアンデッド系モンスターが、うようよしてる。とても普通に生活できる環境にはない」
「ファッキン・アンデッド……西の魔王だな」
「あの変な踊りをする人ですか?」
「フ〇ック! そういえばギルバートはあいつに気に入られてたな」
「やめてくださいよ……もう」
ラルクが続きを促す。
「それで? 議会は? 国家としての機能は残っているのか?」
「議会は完全にカロン・アシュフォードのコントロール下にある。全会一致で、言いなりだ。奇妙なことに誰も異を唱えることはない」
「テイムだ。奴のテイムは俺のと違って、言葉で相手を完全に操ることができる」
ガルバードは眼鏡の位置を直しながら表情を引き締める。
「なるほど。そういうことか……」
だが、おむつ一丁だ。
「ガルバード。お前は、どうやってポルトを脱出した?」
「地下道だ。大学の敷地内に古い地下道がある。あまり知られていないがな」
「そもそも、なんでお前は軍に追われているんだ?」
「学長の誘いを断った。それと貴重な草を幾つか持ち出したんだ」
「学長? なんの誘いだ?」
「うちの学長は、ハミマの魔法連盟の会員だ。そして今、魔法連盟はカロンの手先に成り下がっている」
「仲間になれと言われたのか。それで断ったと?」
「当たり前だ。俺はもう黒魔導士を引退した。それに、下っ端になんかなりたくない。奴らの片棒を担いで国民を支配するなんてまっぴらさ」
「なるほど。本当に権力に興味はないのか?」
ラルクの試すような顔つきを見てガルバードがムッとする。
「見くびるな。これでも、元勇者パーティの端くれだ」
ガルバードは指を組み、鋭い目つきでそう言い切った。
だが、おむつ一丁である。
「そうか。それなら安心した。もし、カロンの軍門に下っていたら、お前と戦わなくてはならないからな」
「よしてくれ。もう『ざまあ』は勘弁だ。お前たちには敵わないよ」
「俺たちは真魔王カロンを倒しに行く。あのクソ親父に『ざまあ』するために」
「おいおい! 国を相手にする気か? お前らの実力は認めるが無謀だぜ?」
「手伝えとは言わない。ポルトへの侵入方法とカロンの居場所を教えてくれればいい」
「分かった。正確な居場所は分からんが、ヒントになりそうな情報は提供する」
そこでチキが疑問を口にする。
「貴重な草とは何ですの? それを持ち出したから軍に追われているとか?」
「ああ。学長が大事にしていた魔法の草だ。強力な魔法を生み出す効果がある」
「ファ〇ク? 魔法の草だと? 確かにそういうのは存在するが……」
そこでガルバードが「そうだ!」と、閃いた。
「俺が持っていても仕方がない。なら、ゲロの女!」
「誰がゲロの女ですの!」
「すまん。ゲロを吐く女! お前なら草を食って魔法に変換できるはずだ」
「フ〇ック! それは言えてる」
「戦いの役に立つかもしれん。持って行ってくれ」
ラルクが不思議そうな顔をする。
「どこに隠してあったんだ? 昨日、捕まった時に軍に取り上げられなかったのか?」
そこでガルバードが得意げに答える。
「おむつの中に隠した。盲点さ。頭脳の勝利だ!」
「え?」と、チキの目が点になる。
「安心しろ! ゲロの女。洗えば普通に使える!」
「い、いやですわよ! そんな汚いっ!」
「そう言うな! 強力な魔法を使えるんだぞ?」
「拒否しますっ!」
「ファ〇ク! まあ、持っていくだけ持っていこうや」
その時、ファンクのところにブタジャーネから定期連絡が入った。
『大魔王様! 大変でビュー!』
ピンクの手鏡からブタジャーネの慌てた声が発せられる。
「ファッキン・どうした? 何を慌てている?」
ポルトに潜入しているブタジャーネとブタジャキンが何か重要な情報を掴んだのだろうか?
『ばれているでビュー!』
「フ〇ック? 何がだ?」
『大魔王様の動きが西の魔王に筒抜けでビュー』
「ファ〇ク!? なんだって!?」
『大魔王様たちがポルトに攻めてくることを想定して戦力を固めているでビュー!』