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巡業はつらいよ

 ハミマに入って3つ目に立ち寄った町コッペン。

 今夜はこの町に泊まることにして、夕食はレストランでとることにした。


 食事しながらギルバートが真新しいポスターに気づく。

「あれ? この人……ティナさん?」


 それはこの町の公民館で開催される舞台公演の告知だった。


「あら。本当ですわ。お仕事、がんばってらっしゃるのね」


「お兄ちゃん、この女優さん知ってるの?」

「ああ。同じパーティだった」


「へえ、きれいな人だね。お兄ちゃんが好きそう」

 ラルクは『ブッ』と、飲み物を吹き出す。


 ネムはそれを横目に含み笑いを浮かべる。

「まあ、義姉さんの方が、ずっときれいだけど」


 その言葉でチキは途端に上機嫌になる。

「まあまあまあ! ネムちゃんたら! どんどん飲みなさいな」


 ギルバートはポスターとチキを見比べながら呟く。

「そうかなぁ。どうみても、あっちの方が美人……」


『ガスッ!』と、テーブルの下で何者かがギルバートのすねを蹴り上げた。


「いだだだ……」


「あっちに居るでしゅよ?」

 ピピカが肉を突き刺したままのフォークで店の奥を指す。


 店内の奥まった席で赤いドレスの女がテーブルを回って、かいがいしく酒を注いでいる。

 確かに、その女の顔はポスターと同じだった。


 皆でその方向に注目しているとティナが気付いた。


 彼女はラルク達に気づくと、テーブルに近づいてきた。

「あら。みなさん、お久しぶり。てか、人数増えた?」


 ラルクが答える。

「まあな。妹のネムと、おまけの山賊一味だ」


 料理をむさぼる山賊親分と着ぐるみのトカゲ兄弟を見てティナが少し困惑する。

「そ、そう……」


「ところでティナは何やってるんだ? 舞台女優じゃないのか?」

「接待よ。接待。この町のお偉いさんを接待してるのよ」


「そんなことしなきゃならないのか」

「まあね。地方巡業が収入源だから。弱小劇団の辛いところね。これをやらないと次から呼んでもらえないもの」


 そこに蝶ネクタイの太った中年男が「おいおい」と、寄ってきた。

「何やってんだ! 町長のグラスが空になっちまうぞ!」


 ティナが強張った笑みで返す。

「あら、それは失礼しました。古くからの知人に会ったもので」


「ハン! そんな小汚え奴らと、どっちが大事なんだ? もう呼ばねえぞ?」


 中年男はラルク達を見て「ケッ」と、そっぽ向く。

 そして去り際に「けったいな奴らだ」と、吐き捨てる。


 それにカチンときたラルクが口元に冷たい笑みを浮かべる。

 それを見てファンクとギルバートが含み笑い。


 中年男は席に戻る際、突然、甲高い声で町長にびる。

「いやあ、お待たせして申し訳ございません町長~」


 町長と呼ばれる年寄りは、しかめ面で「遅い! さっさと酒を注げ!」と、怒鳴る。


「フ〇ック……嫌な奴らだな。偉そうに」


 み手で町長にすり寄る中年男。

 そこでラルクのテイムが発動する。


 町長のグラスにワインを注ごうとしていた中年男は、ボトルの中身を町長の頭にぶっかけた。


「わ! わっ! いやっ!」と、取り乱す中年男。


 町長は、赤い液体で顔を濡らされながら『ドン』と、テーブルを叩く。

「副署長! これはどういうことかね⁉」


 真っ青になりながら、うろたえる中年男に追い打ちのテイム。

 

 中年男は手にしていたボトルを振り上げると、「うっさいわ! ボケェ!」と、町長の頭に振り下ろした。

『ガッシャン!』


 景気よくガラスが飛び散り、殴られた町長は椅子ごと引っ繰り返る。


 それと同時に大騒ぎとなり、中年男は町長の関係者にボコボコにされる。


 そのドサクサに紛れて、ラルクはティナの手を引く。

「接待はお開きだ」


 混乱する店内をよそにラルクはティナを連れ出した。


 店の外に出たティナが笑う。

「ああ、すっきりした。あれってテイムでしょ?」


「まあな。少々やりすぎた。けど、反省はしていない」

「でも、いつの間に? あなた、そんな動作してたっけ?」


「いいや。真似させる手間が省けるようになった」

「それって、どういうこと?」


「イメージすれば操れる。3秒だけなのは相変わらずだけどな」

「そうなの⁉ それって凄くない? やっぱり、あなたは只物ただものじゃないわね」


「そんなことより、ガルバードの居場所を知らないか? 首都の様子が知りたいんだが」

一昨日おととい、連絡があったわ。南に疎開そかいするって」


「そうか。首都は大変なことになっているからな」

「この国も大変よねぇ。いきなり周辺国に宣戦布告したと思ったら、今度はクーデター?」


「ああ。真魔王カロンとかいうバカな父親のせいでな」 

「父親? え? お父さん? どういうこと?」


「ハミマを乗っ取ったカロン・アシュフォードというのは俺の親父なんだ」

「そうなの⁉ へええ……じゃあ、お父さんに会いに行くの?」


「まあな。奴の暴走を止めなくちゃならない」

「え? じゃあ、戦うっていうこと?」


「そうだ。奴は世界を支配しようとしてる。それも滅茶滅茶に破壊し尽くした後に救世主メシアとして」


「そっか……それで無茶な戦争をしてるのね。なら、あなた、世界を救おうとしてるのね?」


「そんなつもりじゃないさ。個人的な恨みがあるだけだ。俺は奴に『ざまあ』することが目的だ」

「なんだか大変そうね。真魔王って魔王より強いの?」


「はるかに強い。西の魔王と北の魔王を従えている」

「そうなの⁉ 大丈夫?」


「まあ、こっちには大魔王のファンクもついてるし、南と東の魔王も仲間だ。総力戦だな」

「なんかスケールが大きすぎて……でも、頑張ってね。死んじゃだめだよ?」


 ティナは切なそうな顔で言う。

 

 ちょうどそこにチキが現れた。

「まあ! ダーリンが居ないと思ったら、またこの女ですの!」


 ティナが、あちゃあといった風なリアクションをみせる。

 

 そして首をすくめた。

「心配しなくていいわよ。激励げきれいしてただけよ。元、仲間として」


 チキはティナに疑わしそうな目を向けたままだ。


 ティナはその視線をスルーしながら、にっこり笑う。

「大変な戦いになることは聞いたわ。私じゃ協力できないから、せめて餞別せんべつを受け取って頂戴」


 ティナは手首に巻いたリングを外してチキに差し出した。


「なんですの? これは」

「世界樹のリングよ。常時ヒーリングの効果があるの」


「まあ。そんなアイテムがあるんですの」

「世界樹の葉をいて、ひも状にしたものを束ねてるの。大事にしてね」


「あ、ありがとう……ですわ」

「それね。いざという時は薬草にもなるの。強烈だけどね」


「そうなんですの。初耳ですわ」

「万が一、ラルクが死にそうになったら、あなたの特技でそれを使うといいわ」


「おいおい。縁起でもないこと言うなよ」


 ラルクの抗議に対して、ティナは意地悪そうな笑みを見せる。

「保険よ。でも、大事に使ってね。それって、私が冒険してた時代、唯一のお宝なんだから」


「そ、そうなのか。分かった。じゃあ、チキ、貰っとけ」

「承知しましたわ。それではありがたく頂きます」


 その時、夜風がティナとチキの髪を揺らせた。

 そのなびいた毛先に、街の明かりが光を分け与える。


 それはまるで、戦地におもむくラルク達を祝福しているように感じられた。


      *    *    *


 コッペンの町で一晩を過ごして、翌日は早々に次の町に向かった。


 昨夜、ティナから得た情報だと次の町にバルガードが居るはずだ。


 ポルトの大学で教鞭きょうべんをとる彼が逃げ出してくるぐらいだから、首都は相当、混乱しているのだろう。


 直前までポルトにいたガルバードに会えば有力な情報が得られるに違いない。

 そう期待して急いできたのだが……ガルバードはあっさり軍に捕まっていた。


 ガルバードが身を寄せていた家は、もぬけの殻で、近所の人が言うには昨日の夜に軍に連行されていったのだという。


「フ〇ック! なにやってんだ。あの学者先生は」

「使えないオムツ野郎でしゅ」


 ラルクがため息をつく。

「手のかかるやつだな……何のために逃げてきたんだか」


 ギルバートが冷たく言う。

「僕、あの人、苦手です。どうしても接触しなきゃならないんですか?」


「ああ。ブタジャーネ達のスパイ活動にも限界がある。正確な情報を得るにはガルバードに話を聞きたい」


「ファ〇ク。それじゃ、軽く救出しにいくか?」


 ここまでは地図に記された赤丸、つまり軍の基地がある場所は避けてきたのだが、今回ばかりは、そこに向かわざるを得ない。


 ネムが腕組みしながら言う。

「でも、みんなでゾロゾロ行くのも目立つんじゃない?」


「それもそうだな。俺とファンクとピピカ、それとギルバートで行ってくる」


「ダーリン、気を付けてくださいな」


「大丈夫だ。どの程度の規模なのか分からないが、このメンツで行けば問題はない」


 チキは首を振る。

「いえ、そういうことじゃなくって、そちらの『おもらし君』の毒ガスに気を付けてくださいな」


「ちょっとチキさん! どういう意味ですか?」


「あなた、最近、ユルユルですわよ?」


「なっ⁉ そ、それは密かに特訓……分かりましたよ! 後で新しいガスを披露しますから」


「フ〇ック⁉ 新しいガスだと?」

「臭そうでしゅ」


「フフフフ。僕だって進化してるんですからね。まあ、後でのお楽しみということで」

 なぜかギルバートがやる気をみせる。


「ま、まあいい。早速、行くぞ」


 とりあえずラルク達は、軍の基地に殴り込みをかけることになった。


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