早朝の奇襲攻撃
チキとピピカを乗せたまま、羽ばたきを止めて落下する飛竜。
海面ギリギリで大きく羽ばたき、落水を回避する。
だが、3秒ほど上昇して、また羽ばたきを止めた。
ラルクが顔をゆがめる。
「くそっ! 3秒が限界か!」
テイムで操れる時間は、やはり3秒。
気絶した飛竜をイメージ通りに羽ばたかせることはできるが、時間が足りない。
チキが必死で手綱をしごいて、飛竜を目覚めさせようとする。
「起きて! 起きてくださいな!」
ピピカはチキにしがみつぎながらキョロキョロする。
しかし、強制交換で移動できそうな場所は無い。
「フ〇ック! 今のは煙突だ! いつの間にか艦船が移動してやがる!」
飛竜の羽音で気づかなかったが、霧の中を船影がゆっくり動いている。
それも目の前で。
「仕方ない。チキ! 甲板に降りろ!」
飛竜が海に落ちそうになる度に、ラルクがテイムで高度を上げさせる。
テイム中の3秒間はイメージ通りに動かせるが、それが切れると飛竜は気絶状態のまま下がってしまう。
「えい!」 『ポフン!』
ピピカの強制交換が発動した。
だが、見たところ何の変化もない。
「あいぃいい! 無理でしゅ!」
チキとピピカは飛竜にしがみついたまま、同じ位置にいる。
「ファ〇ク! 陸地と違って目視できねぇんだ!」
ピピカのスキルは見えるもの同士を交換する能力だ。
なので、空中ではうまく出来ないらしい。
ラルクはテイムを連発する。
「飛べよぉおおおお!」
人形のような飛竜を無理やり羽ばたかせて、なんとか戦艦の甲板に引き揚げる。
「ファ〇ク! やったぞ!」
「お兄ちゃん! 私たちも降りよ?」
「分かってる!」
ラルクは手綱を引いて甲板に接近する。そして着陸。
甲板では既に異変に気付いた乗組員が数名、様子を見に来ていた。
霧の中とはいえ、これが敵の戦艦だとしたら見つかってしまう。
誰かが叫ぶ。
「おいっ! 早く確認しろ!」
「霧のせいで良く見えません! 何か落ちてきたようですが」
「確か、この辺りに……」と、近づいてきた人間とラルクが鉢合わせする。
「なっ⁉ お前ら、どこから⁉」
すかさず、ラルクがテイムを発動。
目の前に現れた乗組員は「お?」と、戸惑いながらも走り出し、甲板の上から海にダイブした。
『バシャン』
他の乗組員が騒ぎ出す。
「おい! 誰か落ちたぞ⁉」
「なにやってんだ!」
「浮き輪を用意しろ!」
「ちょっ、待ってください! よく見えなくって」
混乱する乗組員たちをよそにラルクがチキに駆け寄る。
「チキ! 大丈夫か?」
薄っすらとチキが目を開ける。
「ダーリン……ダーリン!」
猛烈な勢いで抱き着いてくるチキ。
「ちょっ! お前!」
どさくさにキスの嵐をお見舞いするチキを見てネムが冷やかす。
「あらあ♪ お兄ちゃんたち、アツアツだね?」
「ふざけんな! こんな時に。そんだけ元気がありゃ大丈夫だろ」
その時、気絶していた飛竜が『ブフェン!』と、せき込んだ。
「フ〇ック! こいつ、気が付いたみたいだぜ!」
ファンクは手に愛用の小瓶を持っている。
「え? ひょっとして、それを嗅がせたのか?」
「ファ〇ク? そうだが」
なにしろファンクが大魔王に変化する為に使う悪臭だ。
飛竜は泡を吹いてジタバタしている。
ネムが怒る。
「ちょっと! なにしてくれてんの! 飛竜君が苦しんでるでしょ!」
「ファッ〇……そりゃ、ちょっと臭かったかもしれんが、ギルバートの屁よりはマシだろ」
「そういえばギルバート達と、はぐれてしまったな」
「ファッキン山賊一味もだ」
「まあ、あいつらはあいつらで何とかするだろ。俺たちもここを脱出しよう」
と、その時『ドン!』『ドドン!』と、耳をつんざく轟音が響いた。
「なんだ⁉ 砲撃か?」
『ドン!』『ドドン!』
どうやらこの艦だけでなく、他の艦船も砲撃を開始したらしい。
「フ〇ック⁉ どうなっていやがる!」
「奇襲攻撃だ。おそらく、この朝霧の中を移動して不意打ちを狙っているんだ」
ネムが手を打つ。
「分かった! 上げ潮だよ! この時間なら、船がスムーズに内海に運べるわ」
「ファ〇ク! それであんまりエンジン音がしなかったのか!」
「そうよ。低速運転でも、そこそこの速度は出るから」
その間も砲撃音は断続的に続く。
「飛竜君も怯えてるわ。お兄ちゃん、とりあえず飛ぼ?」
「分かった。方向は……」
「ファ〇ク! 陸地はあっちだ!」
「ファンク、信じてるぞ!」
ファンクの勘を頼りに、再び飛竜に乗って甲板から飛び立つ。
とりあえず、十分に高度を上げて砲撃音から遠ざかるように飛ぶ。
幸い、障害はなく、一気にハミマ側の半島へ辿り着く。
後方では激しい砲撃音が続いている。
「ファ〇ク! どさくさに紛れて抜けて来れたな!」
「ああ。霧が薄くなってきた。ギルバート達を探して合流しよう」
「長居は無用ですわ。ラーソン海軍の反撃が始まれば、ここも安全ではありませんことよ」
ラルクが砲撃音の方向を見て少し考える素振りをみせる。
「うーん。このままでいいのかな……」
「ファ〇ク! そんなこと言ってる場合か? 俺たちの目的を忘れんな」
「分かってる。けど、ファンクの破壊光線で援護できないかな?」
「無理ですわ! それだと味方も巻き込んでしまいますわ」
半島側の高台に差し掛かったところで、いったん地上に降りる。
辺りはずいぶんと明るく、霧は徐々に薄らいでいく。
「ラルクさぁん! みなさん、ご無事でしたか」
「その声はギルバート。先に着いていたのか」
「焦りましたよ。ラルクさん達が居ないんですから。置いて行かれたかと心配になりました」
「ちょっと、な。ハミマ海軍が攻撃を始めたせいで寄り道してしまった」
「あれはハミマ海軍の攻撃なんですね。ラーソン海軍は大丈夫でしょうか?」
しばらく霧が完全に晴れるのを待つ。
やがて、海の様子が明らかになる。
「ファ〇ク! ハミマの艦隊が一か所に集まってるぞ!」
確かに、昨日見た時とは異なり、ハミマの艦隊が合流している
それがちょうど、散開しているところだ。
ラルクが唸る。
「そういうことか。霧に紛れて集合して集中砲火。霧が晴れたら分散して戦陣を整える。用意周到だな」
チキが戦況を凝視しながら顔をゆがめる。
「酷いですわ……煙が上がっているのはラーソン側の艦船ばかり。一方的にやられてしまったようですわ」
ラルクはピピカの肩に手を置いて尋ねる。
「ピピカ、できるか?」
「あい?」
「目視できるもの同士なら距離や大きさに関係なく強制交換できるんだよな?」
「できましゅけど? なにを交換するんでしゅか?」
ラルクは周囲を見まわしてから言う。
「敵の戦艦を地上の物体と交換しろ。どんどんいけ! 遠慮はいらん」