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団長の交換条件

 エルフの少年をスカウトするために、ラルクはサーカス団を訪れ、団長に直談判した。


 しかし、団長は首を振る。

「駄目だ。この子は手放せない」


「あんた、保護者なのか?」

「いいや。血は繋がっておらん。だが、可愛い娘じゃ」


「え? 娘?」

 少年だと思っていたピピカは女の子だった。

 10歳前後のエルフの子供は、性別が分かりにくい。

 

 ラルクが素直に謝る。

「女の子だったのか! すまん。勘違いしてた」


 ダボダボの服にボーイッシュな髪型なので、てっきり少年だと思っていた。

 ピピカは頬を染めて「えへへ」と、照れる。


 チキが申し出る。

「お金なら言い値で出しますわよ?」


 しかし、団長は即答する。

「お金の問題じゃない。この子がおらんと手品をやる人間が居なくなってしまう」


「ファッキン! 手品なんて、代役を雇えばいいだろ?」

「そうもいかんでな。貧乏サーカスにとってはな……」


 ピピカも残念そうな顔をする。

「お師匠様が戻ってくれれば良いんでしゅけど……」


「師匠? そいつを呼び戻せばいいのか?」

 ラルクの問いに団長が「おお!」と、膝を叩く。


「そうじゃった! あんたらが専属手品師のパプリカを連れて来たら、ピピカを貸しても良いぞ!」


 ラルクが腕組みしながら尋ねる。

「で、その手品師はどこに?」


「軟禁されておる。パオパオ遺跡を根城にしているチャム族の連中にな」


 拍子抜けしたようにラルクが言う。

「軟禁? だったら救出すれば良いじゃないか」


「そうもいかんのだ。チャム族は半分人間、半分カエルの種族だが、えらいものを飼っておるのでな。簡単にはいかんよ」


 ラルクが呆れ顔で言う。

「何を飼っているって?」


 団長は深刻そうな顔つきで答える。

「多面ガエルじゃ」


「ファ〇ク! 『多面ガエル』かよ! そりゃ、厄介かもな」

「なんだ。ファンク、知ってるのか?」


「ファッキンなモンスターだ。バカでかいうえに、幾つも顔がついてて、それぞれに色んな属性の攻撃手段を持ってる」


「ふうん。まあ、いいや。それを倒せばいいんだろ?」


 楽観的なラルクに対してギルバートはビビリまくっている。

「じょじょ、冗談じゃないですよ……そういうの、止めませんか?」


 そんなギルバートの尻をチキが蹴り上げる。

「このヘタレ! アンタ、キン〇マついてんの!?」


 ラルクが皆の顔を見回して何か考え事をするような仕草をみせる。

 そして頷く。

「うん。ちょうど良い機会だ。ピピカを加えたチームワークを確認したい」


「ファック! いきなり実戦かよ!? 無謀じゃね?」

「さすがダーリンですわ! 勇気ある決断ですこと!」

「うぇええ、止めましょうよぅ」

「頑張りましゅ。お役に立てるように……」


 メンバーの反応は様々だが、ラルクには何か考えがあるようだった。


      *     *     *


 パオパオ遺跡は、町から数十キロ離れた湿地帯にあった。


 その一帯を仕切るチャム族は、カエル人間だということもあって、このような湿った場所を好むのだろう。


 遺跡の中心へは舟を使わないと接近できないらしいが、今回はチキの資金力にモノを言わせて、飛竜で直接乗り込むことにした。


 上空から建物の残骸が密集している所を探す。

 そして、多分この辺りだろうという場所に見当をつけて乗り付ける。


 ところが、飛竜を降りて早々に、武装したチャム族に囲まれてしまった。

 

「ファッキン! まあ、警戒するわな」

 ファンクが言うように、普段、人が寄り付かない場所に飛竜で乗り込んで来られたら、当然、敵だと認定されてしまう。


 20体ぐらいは居るだろうか。弓や槍を持った連中がラルク達を取り囲む。


 頭はカエル、身体は人間のチャム族は、排他的な部族で、外部からの侵入者に対して容赦しない連中だという。


「何しにきたゲロ?」と、リーダー格のカエルが尋ねる。


「手品師を連れ戻しに来た」

 ラルクが正直に答えると、彼等はゲコゲコと相談を始めた。

 

 そして、リーダー格のカエルが言う。

「だめだゲロ。あの手品師は、我々の娯楽だ。それに、祭りには欠かせないゲロ」


 予想通りの回答にラルクが首を竦める。

「そうか。では、交渉決裂だな」


 ピピカがギルバートを盾にしながら文句を言う。

「お師匠様を返せでしゅ! この、ヘッポコガエルども!」


 するとそこに、どこからともなく矢が飛んできた。


 矢はギルバートの足元に『スコン!』と、突き刺さる。

「ひゃっ!」と、ギルバートが後ずさりしたので、ピピカが引っくり返った。


 リーダー格のカエルが槍を突き出して警告する。

「帰れゲロ! 命が惜しかったら出ていけ!」

 その後ろでは他のカエルたちがゲコゲコとうるさい。

 随分と興奮しているようだ。


 負けじとファンクが煽り返す。

「ファッキン! クソガエルが! 蛇の餌にすんぞ!」


 そこに『ヒョッ』と矢が飛んできて『プス!』と、ファンクの頭を貫通した。


 それを目の当たりにしてチキが「ぎゃああ!」と、悲鳴を上げる。

 対してラルクとギルバートは、やれやれといった風にそれを見守る。


 当の本人は自ら矢を抜いて憤る。

「フ〇ック! 痛ってえな! おい。しかも、毒塗ってやがんな?」


 ファンクが死んでいないのでチキが驚愕する。

「え? あれで平気なの? それに毒って……」


 ギルバートは苦笑しながら言う。

「不死身みたいですよ。妖精だから」


 その間にもチャム族は四方に散らばり、戦闘態勢に入った。


 槍を持った接近戦の要員と距離を置いて弓を構える要員に分かれて、いつでもラルク達に総攻撃をかけることができるような陣形だ。


 しかし、ラルクは慌てない。

「それじゃ、強行突破と行くか」


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