表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/124

追放劇

 魔王の玉座ぎょくざへ向かうための魔法陣は、定員が4人だった。


 勇者は『あちゃー』という表情を浮かべて、白魔導士と顔を見合わせた。

 続いて黒魔導士、女ドワーフに目配せして頷く。

 そして、テイマーのラルクに向かって言った。


「悪ぃ。これ、4人乗りなんだわ」


 勇者の言葉にラルクが、きょとんとする。

 4人の目が『分かれよ!』といっているようで、無言の圧をかけてくる。


 ラルクが動揺する。

「え? だって、え?」


 黒魔導士が眼鏡に触れながら諭すような口調で言う。

「お前とは、ここでお別れだ。お疲れさん」


 女ドワーフは腕組みしながらラルクを睨みつける。

「誰を切るかなんて、選択の余地ないよね? 分かったら帰りな!」


 白魔導士は、ラルクの助けを求めるような視線をねつける。

「ごめんねぇ。つまり、あなたは『用済み』なの。バイバイ♪」


 満場一致とはこのことか。4人の中では既に合意が形成されているらしい。


 いよいよ魔王を倒す時が来たというのに、その場に立ち会うことすら許されないのか?


 ラルクが訴える。

「分かったよ。先に行っていいから。そのあと、追いかけるから……」


 勇者は耳の穴をほじりながら鼻で笑う。

「フン。無理だね。来なくていいよ。お前の戦力はハナから、あてにしてねえし」


 黒魔導士は手帳と魔法陣を見比べながら言う。

「この転送魔法が使えるのは1回きりのようだ。残念だったな」


 パーティを追放される? 

 重大局面を前に、このタイミングで?

 

 ラルクは声を振り絞る。

「ひ、酷いよ。仲間なのに……」


 女ドワーフが「ガハハハ」と、オッサンみたいに笑う。

「バカ言ってんじゃねえよ。誰が仲間だって? 笑わせる!」


 白魔導士は小首を傾げながら、ひとさし指を立てる。

「はっきりいって『奴隷』? 『しもべ』? てか、空気だよね? あなたの存在」


 勇者は白魔導士の腰に手を回しながらニヤニヤする。

「俺らに着いてきただけだろ? 対等なワケねぇじゃん」


 黒魔導士が頷く。

「そうだな。お前の『テイム』能力はゴミだ。たった3秒しか操れない能力など、屁のツッパリにも成りはしない」


 勇者が「最後通牒さいごつうちょうだ」と前置きして、来た方向を指さす。

「城の出口はあっちだ。とっとと帰れ! ゴミ虫! てめえは解雇クビだ!」


 唖然とするラルクに4人の冷たい視線が突き刺さる。

 悪意のある目は凶器と同じだ。

 無慈悲な視線がラルクの胸を容赦なくえぐった。


「うわぁぁぁぁ!」

 

 そこでラルクは目を覚ました。

 嫌な汗が、首くくりの縄のようにラルクの首周りに張り付いていた。


 金髪の貴公子ギルバートが心配そうにラルクの顔を見つめる。

「大丈夫ですか? また悪夢を?」


 夢と分かっていても、あの時の『追放劇』は未だにラルクを苦しめる。

「あ、ああ。気にすんな。いつものことだ」


 妖精のファンクが宙に浮かびながら揶揄からからう。

「ファ〇ク! いつまで引きずってんだ。ファッキンな連中なんて忘れちまえよ!」


 ラルクは汗を拭いながら首を振る。

「無理だ。絶対に忘れられないよ。あいつ等に復讐するまでは」


 ファンクは『パタパタ』と、羽音をたてながら顰め面をみせる。

「だろうな。トラウマを消すにはクソ勇者どもをボコボコにするっきゃねえ」


「ああ。必ず『ざまあ』してみせる!」


 ラルクの硬い表情を見て、ギルバートが何か言いたそうな素振りをみせる。

 だが、何も言えずにうつむいてしまう。


 代わりにファンクがラルクの肩をバンバン叩く。

「こうやって出会ったのも何かのえんだぜ! トコトン付き合ってやらあ! ゲハハハ!」


 ファンクはラルクの肩を目一杯、連打する。

 とはいえ、妖精の大きさは人の手首から先ぐらいしかないので痛くは無い。


「サンキュ。けど、正直、今のままだと力が足りない。できれば仲間を増やしたい」


 ラルクが心情を吐露すると、ファンクがギルバートの顔をチラ見しながら唸る。

「ウーム。こいつのファッキンなスキルじゃあなぁ、物足りねえわな」


 それを聞いてギルバートがいきどおる。

「し、失敬ですよ! 僕の七色の香りは、使い方によっては……」


 ファンクがそれを遮る。

「フ〇ック! ただの屁だろ?」

「か、香りです! そりゃ、出所でどころはアレですけど……」


 そこでラルクがフォローする。

「まあまあ。ギルバートの七色の屁は、立派なスキルだよ」


「ファッキン・スキルだろ! 理解不能だ。どういう尻の穴、してやがんだ?」

 ファンクの言葉にギルバートが顔を赤らめる。

「そんな……普通の形ですよ」


 ファンクがゲンナリする。

「うげぇ、想像しちまったじゃねえか。てめえの汚ったねえ尻を!」

「き、汚くはないです! 没落貴族だからといって馬鹿にしないでください!」 


 ファンクが話題を変える。

「けど、まあ、お前の3秒テイムも、しょぼいよな?」


 急に話を振られてラルクが困惑する。

「え? ま、まあ、それは認めるけど……」


「フ〇ック! たったの3秒しか相手をコントロールできないんじゃな。テイマーとして致命的だろ? てか、テイマーって言えんのか?」


 ファンクの問いにラルクは答えられない。

 バツが悪そうにギルバートと顔を見合わせるだけだ。


 確かに、テイムのスキルは、本来、モンスターを手懐ける能力だが、ラルクのそれは手懐けるには至らない。


 だが、この時点では3人とも気付いていない。

 ラルクの『3秒テイム』は、とんでもない、ぶっ壊れ最強スキルであることを……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ