追放劇
魔王の玉座へ向かうための魔法陣は、定員が4人だった。
勇者は『あちゃー』という表情を浮かべて、白魔導士と顔を見合わせた。
続いて黒魔導士、女ドワーフに目配せして頷く。
そして、テイマーのラルクに向かって言った。
「悪ぃ。これ、4人乗りなんだわ」
勇者の言葉にラルクが、きょとんとする。
4人の目が『分かれよ!』といっているようで、無言の圧をかけてくる。
ラルクが動揺する。
「え? だって、え?」
黒魔導士が眼鏡に触れながら諭すような口調で言う。
「お前とは、ここでお別れだ。お疲れさん」
女ドワーフは腕組みしながらラルクを睨みつける。
「誰を切るかなんて、選択の余地ないよね? 分かったら帰りな!」
白魔導士は、ラルクの助けを求めるような視線を撥ねつける。
「ごめんねぇ。つまり、あなたは『用済み』なの。バイバイ♪」
満場一致とはこのことか。4人の中では既に合意が形成されているらしい。
いよいよ魔王を倒す時が来たというのに、その場に立ち会うことすら許されないのか?
ラルクが訴える。
「分かったよ。先に行っていいから。そのあと、追いかけるから……」
勇者は耳の穴をほじりながら鼻で笑う。
「フン。無理だね。来なくていいよ。お前の戦力はハナから、あてにしてねえし」
黒魔導士は手帳と魔法陣を見比べながら言う。
「この転送魔法が使えるのは1回きりのようだ。残念だったな」
パーティを追放される?
重大局面を前に、このタイミングで?
ラルクは声を振り絞る。
「ひ、酷いよ。仲間なのに……」
女ドワーフが「ガハハハ」と、オッサンみたいに笑う。
「バカ言ってんじゃねえよ。誰が仲間だって? 笑わせる!」
白魔導士は小首を傾げながら、ひとさし指を立てる。
「はっきりいって『奴隷』? 『しもべ』? てか、空気だよね? あなたの存在」
勇者は白魔導士の腰に手を回しながらニヤニヤする。
「俺らに着いてきただけだろ? 対等なワケねぇじゃん」
黒魔導士が頷く。
「そうだな。お前の『テイム』能力はゴミだ。たった3秒しか操れない能力など、屁のツッパリにも成りはしない」
勇者が「最後通牒だ」と前置きして、来た方向を指さす。
「城の出口はあっちだ。とっとと帰れ! ゴミ虫! てめえは解雇だ!」
唖然とするラルクに4人の冷たい視線が突き刺さる。
悪意のある目は凶器と同じだ。
無慈悲な視線がラルクの胸を容赦なく抉った。
「うわぁぁぁぁ!」
そこでラルクは目を覚ました。
嫌な汗が、首くくりの縄のようにラルクの首周りに張り付いていた。
金髪の貴公子ギルバートが心配そうにラルクの顔を見つめる。
「大丈夫ですか? また悪夢を?」
夢と分かっていても、あの時の『追放劇』は未だにラルクを苦しめる。
「あ、ああ。気にすんな。いつものことだ」
妖精のファンクが宙に浮かびながら揶揄う。
「ファ〇ク! いつまで引きずってんだ。ファッキンな連中なんて忘れちまえよ!」
ラルクは汗を拭いながら首を振る。
「無理だ。絶対に忘れられないよ。あいつ等に復讐するまでは」
ファンクは『パタパタ』と、羽音をたてながら顰め面をみせる。
「だろうな。トラウマを消すにはクソ勇者どもをボコボコにするっきゃねえ」
「ああ。必ず『ざまあ』してみせる!」
ラルクの硬い表情を見て、ギルバートが何か言いたそうな素振りをみせる。
だが、何も言えずに俯いてしまう。
代わりにファンクがラルクの肩をバンバン叩く。
「こうやって出会ったのも何かの縁だぜ! トコトン付き合ってやらあ! ゲハハハ!」
ファンクはラルクの肩を目一杯、連打する。
とはいえ、妖精の大きさは人の手首から先ぐらいしかないので痛くは無い。
「サンキュ。けど、正直、今のままだと力が足りない。できれば仲間を増やしたい」
ラルクが心情を吐露すると、ファンクがギルバートの顔をチラ見しながら唸る。
「ウーム。こいつのファッキンなスキルじゃあなぁ、物足りねえわな」
それを聞いてギルバートが憤る。
「し、失敬ですよ! 僕の七色の香りは、使い方によっては……」
ファンクがそれを遮る。
「フ〇ック! ただの屁だろ?」
「か、香りです! そりゃ、出所はアレですけど……」
そこでラルクがフォローする。
「まあまあ。ギルバートの七色の屁は、立派なスキルだよ」
「ファッキン・スキルだろ! 理解不能だ。どういう尻の穴、してやがんだ?」
ファンクの言葉にギルバートが顔を赤らめる。
「そんな……普通の形ですよ」
ファンクがゲンナリする。
「うげぇ、想像しちまったじゃねえか。てめえの汚ったねえ尻を!」
「き、汚くはないです! 没落貴族だからといって馬鹿にしないでください!」
ファンクが話題を変える。
「けど、まあ、お前の3秒テイムも、しょぼいよな?」
急に話を振られてラルクが困惑する。
「え? ま、まあ、それは認めるけど……」
「フ〇ック! たったの3秒しか相手をコントロールできないんじゃな。テイマーとして致命的だろ? てか、テイマーって言えんのか?」
ファンクの問いにラルクは答えられない。
バツが悪そうにギルバートと顔を見合わせるだけだ。
確かに、テイムのスキルは、本来、モンスターを手懐ける能力だが、ラルクのそれは手懐けるには至らない。
だが、この時点では3人とも気付いていない。
ラルクの『3秒テイム』は、とんでもない、ぶっ壊れ最強スキルであることを……。