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やっぱり測量士は最強じゃない  作者: ののくにく
序章(リアドの町)
7/20

孤独な読心者

 ユリトに勝利してから一週間が経過した。ケインは変わらず孤独に鍛錬を続けていた。そんな彼はある噂を耳にした。

「『読心者』が出たんですって」

「え?『読心者』ってあの?」

「そうなの。気を付けた方がいいわよ。もし変な弱みとか握られたら生きていけなくなるわよ」

「私には関係ない話ね。知られて困ることなんてないし」

「あら?あなた前にガルバさんとキスしてた気がするけど」

「わああああああああ、なんで知ってんの!?」

「まったく、不倫するならもう少しうまくやりなさいよ」

「恐ろしいわ。読心者じゃない人に弱みを握られるなんて」

「あなたが間抜けなだけでしょ……」

 ふと町に出かけたらそんな会話を聞いたのだ。

『読心者かあ、どんな子なんだろう。会った方がいいかな?おすすめ度を十段階で教えて』

 ケインは何のためらいもなく、流れるように『測量』へと質問した。何かあったら『測量』に聞くというのが染みついて来た証拠だ。

 まあ現在一番多く言葉を交わしている相手がこのスキルなのだから仕方ない。

 そんな『測量』は、淡々と彼の問いに返答する。

(おすすめ度は――)




 この町はそれなりに大きい。商店街のように店が多い区域を中心に民家が立ち並んでいる。中心街に近いほど便利だが、地代が上昇する。逆に中心街から離れれば離れるほど使える土地は広く地代も安くなる。ただ、魔物などの凶悪な動物に襲われる恐れがある。アクセスも悪いし、大体は農作業などの一次産業を生業とする者が住む地域だ。

 そんな地域には空き地も多く、あまり整備されていない場所も点在する。そんな空き地の一つに少女が座り込んでいた。

「……」

 彼女は一週間ほど前に就職の儀を受けた。その結果、神から賜ったジョブは『読心者』というものだった。

 読心者とは、読んで字のごとく、人の心を読み取る者である。制約などがあるものの、その能力は本物だ。読心者の前では隠し事など意味をなさない。誰でも知られたくない秘密の一つや二つ持っているものだ。だから誰も読心者に近づかない。

友人も家族もだ。

「ぐすん……」

 5歳になったばかりの少女に、『両親からの拒絶』というのは堪えられない。就職の儀から一週間、親の顔をまともに見ていないのだ。

 家族だけではない。今まで一緒に遊んでいた子たちもまるで打ち寄せた波が海に戻っていくかのように引いていった。彼女たちが本物の波のように再度近づいてくることはない。子供でも自分の心の声を聴かれることの恐ろしさは理解しているということだろう。

 就職の儀を境に彼女の生活が一変した。あの儀式なんて受けなければよかった、と切に思うほどに。しかし、彼女に時を操作する能力はない。ただ、泣くことしかできないのだ。

 自分から近づこうにも相手が逃げてしまう。ネット環境などがないこの世界で、家族や周辺の人間に拒絶されることの恐ろしさは想像を超える。本物の孤独なのだ。今まで信じてきた者たちが離れていくその怖さ。5歳の少女には絶望だった。

 そんな彼女へ、一人の少年が声を掛ける。

「君が、読心者っていうシャルナちゃんかな?」

「……え?」

 泣いていて気付かなかったが、目の前に銀髪の少年が立っていた。その表情は滲んでよくわからないが、なんとなく温かい感じがした。

「あれ、違ったかな?」

 少年の言葉にふるふると頭を横に振る。それを見て少年はフッと微笑んだ気がした。そして彼はシャルナの横に腰を下ろした。

「……」

 そのまま二人で座ったまま数分間硬直する。

 シャルナは隣に座った少年の真意が知りたくてチラチラと横を見る。しかし、彼はまっすぐ遠くを見ている。

「……」

「っ!」

 何度目かのチラ見で、ついに目が合った。

「あ、あ、あの……」

「ねえ、心が読めるって聞いたんだけどさ、どうやったら読めるの?」

 何とか声をかけようとした直後、少年の方が口を開いた。その口から放たれた質問は、少し予想通りだった。

今の自分は『読心者のシャルナ』だ。噂でも『心が読める子』ということで周知されている。だから、この能力について興味がある人がこの一週間で三人ほどやってきた。その三人は三人とも同じ質問をした。横に座っている少年と同じで「本当に心が読めるの?」という内容だ。

「さ、触れば、読め、ます」

 その三人にはそう答えて実践して見せた。その結果はある意味当り前のものだった。

『本当に読めるのかよ、気持ち悪いな』

 言葉は若干違っていたが、言わんとしていることは同じだ。化け物を見るような目で見られた。彼らはもう自分を「人」と見ていなかった。小さいながらもシャルナはそれが本能的にわかった。だから、一応答えるものの実践するつもりはない。

「ふーん。逆に言えば触らないと読めないってことか。さっきまでいろいろ考えてみたけど無反応っぽかったし」

 そう言って少年は強引に、シャルナの膝を抱えていた手を握った。

「っ!?」

「これで読めるんだよね?」

(まあ、神が作ったシステムなんだし、読めないってことはないだろうけどね)

「か、み?」

 流れてきた少年の声につい反応してしまう。しまった、と思うがもう遅い。少年は特に表情を変えることなくジッと握った手を見ている。

(なるほど、本当に読めるんだ。ということはこんなことを考えてる今の気持ちとかも読まれているのかな)

 ふむ、と少年は手を握っていない左手を顎に当てる。

(しかし、触れていなければ読めないというのは微妙だなぁ。触れていれば読めるけど、自分が読心者と知られれば触れさせてもらえないだろうし。ぱっと見確かに強力な能力だけど、制約が辛すぎる)

「……」

 何、この人?私が気持ち悪くないの?

(戦闘中にこの能力は一切役に立たない。カウンセリングくらいしか役に立つ場面が思いつかないなぁ。触らずに能力が発揮できればかなり有能、どころじゃないけどどうだろうか。こういうスキルってレベルアップとかするのかな?)

 何かすごく色々考えているのがわかる。でも、その思考スピードが速すぎて完全に理解できずにおいていかれ始める。

(『ねえ、この子が触らずに心を読めるようになる可能性ってどれくらいあるの?』)

「?」

 今質問されたの?

(え、そうなの?そんなことが出来るならかなり有望じゃない?ていうか、僕より先に最強になりそうなんだけど……)

 何か自己解決した?しかも何か凹んでる……。どうなっているのこの人?変な人だ。

(あ、そういえば測量のお姉さんの声は聞こえているのかな?どうなの?)

 今度は本当に質問されたらしい。少年はシャルナの顔をしっかりと見つめている。よくわからないが、シャルナは拙いなりに声を出した。

「き、聞こえて、ない、です」

(そうなんだ、僕の心の声じゃないから仕方ないのかな?)

 少年はそう言って(正確には声は出していないが)手を離した。1週間ぶりだが、久しぶりの人肌が離れてしまった。シャルナはそれを少し寂しく感じる。

「ありがとう。参考になったよ」

「え、あ……」

 少年は満面の笑みを浮かべる。

 一週間ぶりに見たその笑顔と感謝の言葉はなんだか温かくて懐かしくて、何よりもうれしかった。少年に対してしっかりと返事をしようとするが、その前に彼女の目尻から涙が零れ落ちた。

戦闘に直接役立たないジョブを「下位ジョブ」と呼ばれるのですが、その中でもトップクラスに嫌われているのが『読心者』です。スキルの内容だけ見ればバランスブレイカーなジョブ。特に『読心』のスキルが成長すると『読心者』は最強のジョブとなります。

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