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やっぱり測量士は最強じゃない  作者: ののくにく
序章(リアドの町)
5/20

最強を志す

 ケインの父アストラは『騎士』というジョブに就いており、この町の警備を担当している。この町の平民としてはトップクラスの強さを持っており、平民の子供から懐かれている。そのため、ユリトがアストラに弟子の申し出をするのは自然な流れだった。

「はっ!」

 庭ではユリトとケインの兄ウィリーが模擬戦を行っている。ウィリーは白騎士という上位ジョブに就いており、その強さは父に匹敵するほど。そのため、必死なユリトとは対照的に余裕の表情を浮かべている。

「剣の振りが遅くなってきたぞ。疲れてきたか?」

「ま、まだまだぁ!」

 そう言って剣をがむしゃらに振っていくが、彼の剣がウィリーに届くことはない。

 ジョブの差というのもあるが、年齢的に2年のアドバンテージがあるのが大きい。今ユリトは成長期に入るあたりだ。これから飛躍的に成長していくユリトと、その成長を遂げたウィリーとでは身体的なスペック差があるのは仕方ない。それにウィリーもまだ子供だ。これからも身体は成長していき、その差は当分埋まらないだろう。

 そう思いながらケインは窓から二人の訓練の風景を眺めていた。

『今ウィリーと戦えば勝率はどれくらいかなぁ?』

(7%です)

「うわひっく……」

 いや、剣闘士という戦闘ジョブに就いているユリトが手も足も出ない相手に、7%の確率で勝てるなら高いと思うべきかな?

 そんなことを考えながらケインは目の前の本に意識を戻した。意識は二つあるものの、その視界は一つしかない。窓の外を眺めながら手元の本を読むということはできない。意識と共に頭も増えてほしかったな。ケルベロスみたいに。

 そんなしょうもないことを考えつつ、書物からこの世界のことを再度理解していく。元ケインの知識のおかげである程度は把握できていたものの、5歳児に詳細な世界観の知識を求めるのは酷な話だ。全言語理解のおかげで今まで読めなかった難しい本も読めるので、この世界についての知識を吸収しているというわけだ。

「この世界は数学に関する知識は高くないように感じられる。まああの親子だからそういう参考書的な物はないのかもしれないけどさ」

 父は騎士、母は魔導士というジョブに就いている。どちらも戦闘系ジョブであり、頭脳労働が得意とは思えない。いや、バカとは思わないが、自分の望む知識を提供してくれる人物でないことは確かだ。

「図書館とかあればよかったんだけどなぁ」

 図書館という、本が閲覧可能な公共の場所はこの町に存在しない。この国の首都にはあるらしいので、それまでは家にあった本だけで我慢するしかない。

「やることないなぁ」

 世界史の本を5回も読んだ。めちゃくちゃ偏った視点で書かれたこの本の記載を鵜呑みにするつもりはないが、それでも教養として覚えておいても損はないだろう。

「暇だし、世界最強とか目指してみようかな」

 この世界に来る前に会った爺が言っていた言葉を思い出す。

『何を言うか。どのジョブも極めれば最強となることができるように調整されている。しょぼいと感じるのは君が能力のすべてを引き出せていないだけだ』

 爺改め神がそう言っていたのだ。本当のことだろう。そして、自分はこの『測量士』というジョブの能力を引き出せるだろうと思っている。もちろんまだ知らないことはあるかもしれないが、それでもこの世界にいる誰よりも『測量士』というジョブの凄さを理解しているつもりだ。

 目標のない人生なんてつまらない。ならばこれを目標にしよう。

「最強となり、この世界の下位ジョブというくだらない階級をぶち壊してやろう」

 ケインは黒い笑みを浮かべながらそう口にした。

『僕がそれを為せる確率はいくつかな?』

(43%です)

 へえ、案外高い。この世界の常識を壊すのだ。かなり困難な道だと思っていたが、そうでもないらしい。ならばその43%を現実にしてやろう。

「これは、世界への宣戦布告だ!」

『ジョブの階級認識をぶっ壊す』

 その気持ちを抱えて、ケインは下で休んでいる二人の剣士の所へと駆けた。




「ふん、お前がいくら剣を振っても無駄だよ」

 この脳筋世界でジョブの階級を壊すには、やはり強さが必要となる。そのため、ケインはまず剣の腕を磨こうと思ったのだ。

 しかし、そんな弟の純粋な思いにウィリーは容赦ない言葉を浴びせた。

「戦闘ジョブでもないお前がいくら剣を振ったところで俺たちには届かない。お前は隅っこで俺たちが強くなるのを膝抱えて眺めていればいいんだよ」

 ウィリーにとって下位ジョブに就いたケインは家の面汚しだった。世間では全く評価されていない『測量士』というジョブ。そんなものに自分の弟が就いたこと自体が耐えられないのだ。内心では彼を勘当させてやりたいと思っているくらいに。

「別に兄さんの邪魔をするわけじゃないから大丈夫だよ。僕はただ、剣を借りに来ただけだからさ」

「ふん、無駄な努力だな」

「それを決めるのは兄さんじゃないからね」

 そう言って箱に入っている剣を一本手に取ってその場から立ち去る。その背中を、ウィリーは苛立たし気に睨み続けた。

しかし、ユリトは全く僕のことを庇ってくれなかったなぁ。僕は父さんの弟子入りのために利用されただけみたいに感じる。いや、事実そうなのかもしれない。

五歳児の精神では到底受け止められないレベルの事実に気付いたケインだが、あの青年の精神や思考などがあるおかげで受け流す事が出来ている。心の揺らぎはないし、ユリトに何かの感情を抱いていない。

 ケインは肩に剣を担ぎながら、兄たちから離れた場所へのんびりと歩く。そして、二人から見えない場所まで来たところで剣を抜く。

 とはいえ、ケインには剣の知識があるわけじゃない。どんな訓練をすればいいのかなんてわからない。なのでここは『測量』のお姉さんに聞いてみる。

『優先度を1から10として、素振りってどれくらいの優先度なのかな?』

(7です)

 うん、想定通り。答えが数値、というよりも核が数字であるならば何でも答えてくれる。神の言葉に嘘はなかったのだ。

『じゃあランニングってどれくらい?』

(6です)

『HIITってどれくらい?』

(10です)

 きた。

 前世で最も心肺機能を鍛える運動として有名な「HIIT」。数秒間全力で動き、数秒間休むという作業を繰り返す。死ぬ気で動くことで、心臓に負担をかけることができる。分かりやすく言えば、心臓の筋トレのようなものだ。

『父さんに剣の指導を頼むのは?』

(4です)

 あれ、低くない?

『独学のままでいいってことなの?』

(……)

 ああ、無言ですか。そうですよね、数字じゃないですもんね。

「まあ、とりあえず優先度10をやってから考えようかな」

 そう言ってケインはバーピーを始めた。軍人が取り入れているほど激しく、負荷のかかる運動だ。ケインは十分間、全力でそれをこなした。

「ぜぇぜぇ、ぜぇぜぇ、はぁはぁ」

 肩で息をしながら地面に倒れこむ。

『これ、毎日やり続けたら目標達成率ってどれくらいになるのかな?』

(62%です)

「やったゲホゲホ」

 呼吸のリズムが崩れたことで咽てしまった。情けない姿になっているだろうなあ。

 それはともかく、目標達成に近づいていることがわかったのは僥倖だ。何事も基礎体力が無ければ成しえないということなのだろう。

 とはいえ基礎体力を鍛えるだけじゃ世界を変えられるような偉功は立てられない。とりあえず剣を実践レベルまでには鍛えたい。具体的にはユリトに対して勝率50%を超えられるくらいか。

 自分の生きる道を大雑把に決め、とりあえず出来ることを始めてみる。当然この目標が変化することもあるだろう。常識を変えることにどれほどの意味があるのかわからないし、どこかで断念する可能性もある。

「だけどまあ、目指す先がないまま過ごすよりは楽しいかな」

 ケインはそう言って笑みを浮かべながら数十回素振りをやって休憩を繰り返す。先程の二人に見られれば馬鹿にされるような訓練を、彼は終始笑みを浮かべながらやり遂げた。


 バーピーは高校の体育の時間にやらされました。

 やりたくないことを強制的にやらされる体育の時間は苦痛でした。痩せるなどの目的があってやる筋トレや有酸素運動なんかは、まだ楽しめますよね。食事制限は嫌いだけど。

 アニメ『ダンベル何キロ持てる?』は面白かったです。

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