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やっぱり測量士は最強じゃない  作者: ののくにく
序章(リアドの町)
3/20

ジョブのお試し

「これ、ジョブのお試しもできる?」

「できるぞ」

 と言ったものの、「高速思考」と「並列思考」によってほとんどの容量を食っているせいで、大半のジョブが選択不可となっている。

 選択可能なのは「舞踏家」や「預言者」など、非戦闘員だと明らかにわかるようなものばかりだ。その中で戦闘員らしいジョブは「召喚士」や「ネクロマンサー」くらいだ。

 ジョブに関しての説明は簡潔に記載されている。正直、どれも微妙だ。

「召喚士ってどんな感じかな?」

「ほれ」

 爺が三度目の腕振りを行う。すると自分の身体が謎の浮遊感に包まれる。先ほどまでよりも体が軽い。その違和感も高速思考のおかげで瞬時に慣れる。

 召喚士としての固有能力らしい召喚のやり方が脳裏に浮かぶ。しかし、それを実際に行動しても周囲に変化は起きなかった。

「……なにこれ」

「ここは外界と隔離された個室のような物。そして、この外には何もない。だから、何もないところから何かを呼び出すことは不可能なように、君の召喚術は不発だったのだ」

「……ということは、その世界にあるものしか召喚できないということ?」

「一応可能ではあるが、魔力関連のスキルをほぼすべて取得してようやく無から有を生み出せるレベルだ。そして、君の容量では到底及ばない」

「あ、そう……」

 魔力とか無い世界で生きてきたからよくわからないけど、無理らしい。悪魔がいるなら悪魔召喚とか憧れたんだけどな。

「じゃあ何なら実感できるの?」

「ジョブの固有スキルが発動できるものか?それなら舞踏家と測量士くらいだ」

「じゃあとりあえずその二つを試します」

「では舞踏家からだ」

 ジョブが入れ替わったらしい。先ほどよりも身体が軽く感じる。

「……で?」

「固有スキルは『舞踏』だ。試しに軽く踊ってみよ」

 言われた通り適当に身体を動かしていく。

「お……お?」

 身体が軽く、次に何をしようか考えなくても無意識に動く。並列思考によって冷静にそれを観察する。

「……」

 十分ほど観察した結果、このジョブは踊るだけらしい。ちょっと変な動きを故意に混ぜたものの、それすらもダンスの一部として組み込んでしまう。試した結果、踊ることだけに人生を費やしてきた人のような気分になった。

「いや、舞踏家になったんだから当然だよな」

 ダンスに人生をかけた人間を舞踏家と呼ぶのだから当たり前だろう。何を再確認していたのやら。

「測量士も試してみるか?」

「お願いします……」

 今度は身体が少し重くなる。いや、舞踏家になったことで軽くなったのが元に戻っただけだろう。期待外れだったものの、その身体の自由度は素晴らしかったな、と思う。

 で、おそらく測量士とやらのジョブに就いたと思うのだが、これはどんな利点があるのか。

「説明にもある通り、固有スキル『測量』。あらゆるものを測れる。試しに測りたいものを思い浮かべてみよ」

 また微妙そうなジョブだな、と思いながら自分の手を見る。

「じゃあ、僕の手の大きさは?」

(長さ180mm、幅80mm)

 脳内に無機質な女性っぽい高めの声が響く。

「ほー…………」

 微妙ぉ……。まじで測るだけじゃないか。

「これ、ジョブとしてはかなりしょぼいんじゃない?」

「何を言うか。どのジョブも極めれば最強となることができるように調整されている。しょぼいと感じるのは君が能力のすべてを引き出せていないだけだ」

 おお……いきなり口数が増えたな。何か琴線に触れてしまったのかな。まあそう言われてしまえばこれの底力というのを見てみたくなる。

「でもこれって結局長さや重さくらいしか答えてくれないんでしょ?」

「『測量』の回答者は答えの核が数値であればどのような質問にも回答する」

「ううん、回答が数値か」

 そう言われて思い浮かぶのは数学という学問。例外もあるが大体数学の答えの核は数字である。なので、その数学のうち身近なものを思い浮かべてみる。

 個数、長さ、重さ、時間、速さ、比率、そして確率。

「かくりつ?」

 この瞬間、彼の並行思考と高速思考によってこのジョブの有用性が理解できた。回答が数値ならば、確率を問いかけても答えてくれるはずだ。そこで、試しに『測量』へ問いかけてみる。

(僕がこのジョブを選択する可能性はどれくらい?)

(100%です)

「ははっ!」

返事が来た。そして、その返答も笑える。

「ねえ、この回答者って何を根拠に答えているの?」

「『測量』のスキルは、その世界にあるすべての情報を総合して計算することで算出している」

「つまり、数字の信頼性は高いということか」

「あらゆる可能性を考慮しているからな。100%という数字は絶対に外れない」

「へえ」

 今100%という数値が出たけどどうなんだろう。ここで違うジョブを選べばその自信はひっくり返せそうだ。

「……」

 とはいえ、そうして話している間にも思考系のスキルでこのジョブのことを分析していく。その結果、このジョブの有用性が続々と湧き上がってくる。加えて、増えた脳で他のジョブとも比較してゆく。他のジョブを見ていくが、いまいちピンと来ない。

二つの思考系のおかげで選択できるジョブが全体的にしょぼい。それゆえ、測量士の利点を上回るものを持つジョブが見当たらない。

「これ本当に有能なジョブなんじゃないか」

「だから言っているだろう。すべてのジョブは等しく有能であると」

「じゃあ『舞踏家』の有能さは?」

「『舞踏家』の強さはその身体能力にある。基礎的な身体能力がトップレベルだ。特に回避能力に関しては右に並ぶジョブは無い。近接系のスキルがあれば努力次第で最強となり得る」

「なるほど」

 確かに身体が軽かったし、動きもかなり洗練されていた。それがジョブ固有のものであり、その後成長すると考えれば納得だ。力を持っていても思うように身体を動かせなければ宝の持ち腐れだ。そう考えると、最初から自分の理想通りに身体を動かせるのはかなりの強みになるだろう。とはいえ、固有スキルの影響で戦闘員として活動しようと思わないだろうけど。

 というか、そもそも最強がどうのとか議論するような世界なのか……。夢とはいえ、行きたくないな。

 しかし、唐突に爺の口数が増加した。どうやらジョブに関する否定的な言葉を投げかけるとこうなってしまうみたいだ。

「さて、残りの容量的に君が選べるのは軽いスキルくらいだが、どうする?」

「ジョブはこれで確定なの?」

「君の脳は既に測量士にすると決定しているはずだ。『測量』がそう答えを出しているだろう?」

「爺さんは『測量』の答えを知っているのか?」

「いや、君がどのような問いかけをしているかは知らん。ただ、その『測量』自体は私も利用可能だ。君が測量士を選択する可能性が100%と出たのだから変更はしないだろうと判断したのだ」

「……変えようかな」

「好きにしたまえ。ただ、そろそろ私も君に割いていられる労力が限界になるから早急にしたまえ」

「え、時間制限とかあるの?」

「私は別に万能なわけじゃない。どうやら他の世界で大規模な戦争があったらしく、そこに労力を割かなくてはいけなくなっただけだ」

 他の世界で戦争って何?

「転生者への説明プログラムに割ける力が減っている。君にはいろいろサービスをしたがそろそろ限界のようだ。あと二十分くらいで強制転生する」

「て、転生?プログラム?」

 え、最初冗談で言った「死んだのか」は本当だったの?いや、別にそこは良いとして、プログラムって……。

「私はただ情報を提供するだけのプログラムだ。一応元人間に対してはある程度感情を持つように設定されているから、驚くのも無理が無いだろう」

「そ、そうだったのか……」

 って、いやいや目の前の爺が人工知能であることに驚いている場合じゃない。夢なのか本当に転生させられるか分からないし、とりあえず夢じゃない時に備えて残りの容量に入るスキルを探して獲得しなければ。夢だったとしても別になにやっても問題ないしね。

「『剣術』『弓術』『魔術』『筋力』『俊敏』……微妙なのばっかり」

 パッパッと一つ一つを視界に入れ、判断はもう一人の自分にゆだねてゆく。

「何かおすすめはある?」

 お試しでやるにしても面白いものは無いし、どれを選べば得をするのかの判断材料が少なすぎて選べない。そもそもこれから行くらしい世界の説明は最初にしてほしかったな。今もされてないけどさ。

「――ということで、どんな感じなの?」

「何を為したいのかによって変わるが、万能なのは『状態異常無効』だな」

「え、なにそれ強そう」

 ゲームとかだとかなり有用なスキルじゃない?いや、それよりも状態異常とか普通にある世界なの?めちゃ怖いんだけど。

「確かに強力だが、防御系のスキルならば『物理攻撃耐性大』や『魔法耐性大』などの方が有能だ。特に状態異常耐性系は後天的にも入手可能であるしな」

 確かに説明欄に『後天的に入手可能』と記載されている。

 しかし、これを入手すると攻撃関係のスキルが一切入手できないままだ。理不尽な暴力に対抗できるわけでもないし、基礎的な戦闘能力が底上げされるわけじゃない。そう考えると、一般人となっても腐らず、戦闘関係に進んでも役立つスキルと見ればこれは優良物件と言えるだろう。

「他には『全言語理解』というのもある」

 そう言われて該当ページを見る。

『全言語理解』:50以上の個体が使用している又は使用していた言語すべてを理解できる。

「あ、こっちの方がいいな」

 このスキルの存在によって多言語世界であることを察した。生きていたころは外国の言語を理解するのに四苦八苦した記憶があるし、このスキルはできればほしい。

「万能さかつ君に取得可能となればこの二つくらいだ」

「ありがとう。それじゃあ『全言語理解』にするよ」

 そう言って『全言語理解』を選択する。

「残りの容量を計算した結果、選択可能なスキルがゼロとなった。このジョブとスキル構成で問題ないか?」

 爺が紙を広げる。

『ジョブ:測量士 スキル:測量・並列思考・高速思考・全言語理解』

 うん、選択した通りだ。そう言って爺に向かって頷いた。

「承った。それでは、君はこれから転生する」

「あ、やっぱり死んだんだね」

 僕の言葉が聞こえなかったのか、問答無用で爺は二の句を告げた。

「さらばだ、352392851332号」

「え、何!?」

 長ったらしい数字の羅列を聞いた直後、目の前が暗転した。


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