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やっぱり測量士は最強じゃない  作者: ののくにく
序章(リアドの町)
2/20

神聖世界

「……ここは?」

 見渡す限り白く、遠近感が分からなくなる場所にいることを認識する。自分の声が反響せず空間に消えていく不思議な感覚を味わっていると。

「ようこそ、神聖世界へ」

「っ!?」

 バッと、声のした方を向く。そこには壮年の白髪爺が立っていた。彼は有無を言わさぬほどの威厳溢れる口調とトーンで話し始める。

「君はこれからアフィリスタで過ごしてもらう。拒否権はない」

「……僕は、死んだのか?」

「ふむ、そこからか。まあ私は君が死んだ、ということ以外知らないから何を聞かれても答えられないが……」

「まあ夢じゃないなら死んだということなのかな」

 夢なら別に問題ない。覚めれば日常へ戻るだけだ。

 ……日常って何だ?僕の日常って、何だっけ?

「少々混乱しているところ悪いが、これから君の行く世界について説明するぞ」

 何か大切なものをたくさん忘れている気がするものの、とりあえず目の前の出来事に対応しようと頭を働かせる。

「君はこれからアフィリスタという世界で過ごす。そのために必要なジョブとスキル選択をこれからしてもらう」

「じょ、じょぶ?」

「ふむ、君はジョブの無い世界からか。了承した。それではジョブについて軽い説明を行う」

 僕が首を傾げたのを見て、表情を一切変えずに爺がジョブについて説明を始める。

 その内容をざっくり要約すれば「ジョブに就けばそれに応じて特殊な能力が得られる」とのこと。何か、魂によって受け入れ可能なジョブとスキルの量に差がある、とか言っていたが、内容がアバウトすぎてよくわからなかった。

「ということで、ジョブとスキルを選ぶがよい」

 僕の理解度なんて一切考慮しない方針なのか、爺はそう言って一冊の超分厚い本をこちらに放り投げてきた。

「何これ、電話帳?」

 幼いころに数回見ただけだが、そのインパクトが強烈だったのですぐにそれが思い浮かんだ。よくよく見れば六法全書にも近いかもしれない。広辞苑でもいいが。

「資料の見た目は君のイメージによって変化する。一覧表やカタログと言えばそのような形だと君が思っているということだ」

「いや、まあ確かにカタログとかはこんなのだけどさ……。もうちょっと見やすくならない?」

 トントンと軽く指で表紙を叩きながら爺に問いかける。

「どのようなものが良いのかイメージすればよい。そうすれば変化するはずだ」

「ううむ……お、変わった」

 瞬きをした直後、本がタブレット端末のような形となった。大きさ的に12インチくらいかな。

「そこに記載されている情報以外は君のイメージによって形作られている。この場で重要なのは、しっかりと情報を閲覧できるかだ。だから、不便だと思ったらイメージを変えてくれて問題ない」

 この爺も変わればいいのに。なんか遠回しな言い方ばかりでウザい。可愛い女の子だったらいいのに……。

「君の脳内には『神=爺』という式が構築されている。それを基に作っているのだから文句を言われても困る」

 この爺神なのかよ。夢に神が出てくるなんて何かのお告げなのかな。

 とはいえ、目の前のよくわからん爺に対してより、手元の端末に入っている情報の方に興味がある。聞いたことに答えてくれるなら別に爺でも問題ないかな。

「へー、ジョブの横に書いてある数字が容量なのか」

 適当に選択すると、端末の右下に書かれている箱の中の数値が減る。これが先ほど適当に聞き流した魂の容量というものなのだろう。

「ふむふむ、こっちのページがスキルか」

「1枚目のスキルが先天的なもの。2枚目が後天的なものだ」

「ということは、ここで選ばないと1枚目のスキルは永遠に得られないの?」

「ああ。どれほど努力しようが取得できない。とはいえ、後天的なスキルに似たような物もあるから、もし生まれ持って所持していたいスキルがあるなら選ぶのが良いだろう」

「て言われても、互換性高いものばかりで魅力が感じないな~」

 剣術とか魔術とかいろいろある。ファンタジー感ある用語が並んでおり、特に惹かれるものはない。

「ふうむ……あ、これすごい」

 スキル「高速思考」:基礎思考能力の三倍の速度で思考が可能となる。

「これって何かデメリットあるの?」

「容量をそれなりに食うことと『並列思考』が無いとメリットを完全に享受できないこと、だな」

「まあ最初の方は数字見ればわかるけど、後半はどういう意味?」

「実際に試してみればわかる」

 そう言って爺は手を振る。その瞬間、自分の身体がうっすらと光り輝いた。そして脳内を凄まじいスピードで様々な言葉が通り過ぎる。まるでトンネルの中を通っているかのように、頭の中に似たような言葉、新しい言葉、不安、希望、悲しみ、後悔、喜びなどの感情などが前方からぶつかって来る。その様々なものに押しつぶされそうになった瞬間、それがすべて霧散した。

「はぁ、はぁ、はぁ……なんだ今の?」

「高速思考を疑似的に与えたのだ。君の欲しがっていた高速思考だが、どうだ?」

 脂汗が浮かんでくる。今までぼんやりと抱いていた気持ちが超高速で通り過ぎ、心の奥底で抱いていた気持ちまで無限に湧き上がってきた。かなり昔にあった告白の失敗まで想起していたことに気付いて苦笑する。

「なるほど。人間が抱いている感情や小さな思考が、高速思考できることによって際限なく思い起こされてしまうのか」

 ポジティブな感情よりネガティブの感情の方が強いと聞いたことがあるものの、これほど強烈だとは思わなかった。考えないようにしていただろう、将来への小さな不安ですらも一瞬で膨らんでしまう。目覚めてから生きていくことが不安になってきた……。

「凹んでいるようだが、『並列思考』も併せて体験してみるか?」

「…………やってみます」

 さっきので少しトラウマになったのか、敬語になってしまった。

「では」

 その直後、再び自分の身体が薄く輝く。

「!」

 突然、脳内にもう一人の自分が現れたような感覚になる。

「なるほど、これが並列思考か」

 二つのことを同時に考えられる、というよりも、脳が二つになるという感じだ。

 脳一つを一人と考えれば、二人の自分が頭の中にいると言える。そんな自分の頭を占拠する二人の自分は、正反対の思考をしているらしい。

 明るく前向きな思考をするポジティブ脳。反対に暗く悲壮な考えをするネガティブ脳の二つだ。

 真っ二つに分かれてくれた方が分かりやすい。頭の中で色々と口論をする自分同士を感じながら、しばし論争が終わるのを待つ。

「どうやら大丈夫だったみたいだな」

「うん、もう大丈夫だ」

 天使と悪魔は相いれないと言うが、僕の場合は大丈夫らしい。まぁ根本が同じ自分だし、目的が異なっているわけじゃない。分かち合うことくらいできて当然だ。

「これを使いこなすのは非常に難しくてな。ポジティブとネガティブが半々くらいでなければ暴走してしまうのだぞ」

「暴走……ああ、なるほど。ポジティブ全開になったりネガティブ全開になったりということか」

「そうだ。だから、脳内の二つが和解できて落ち着ける人間は珍しい」

 高速思考と並列思考によって目の前の情報が非常に素早く処理できている。頭の回転が速い人間というのはこういう感覚なのか、と思いながら爺に感謝する。

「ありがとう。せっかく和解できたんだし、もう少しこのままでも良い?」

「ああ、別に構わない。ジョブとスキルを選び終わったら解除するから好きにしたまえ」

 爺の許可を得たのでこのままの思考速度で他のスキルやジョブも見る。とはいえ、彼が言っていた通り、かなりの容量を使用しているせいで、選択できるジョブがかなり減少している。


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