レッツ・サバイバル!
ミライ視点
わたしの名前は結城未来。目立った特徴のない普通の女子です。クラスカーストは中の下。一時期はいじめの対象になったりもしましたが、あまり反応が芳しくなかったのでしょう。普通に自然消滅しました。それからは地味系女子として粛々と暮らし、このまま何事もなく生きていくんだな~と思っていたら異世界召喚なるものに巻き込まれていました。
そしてあっと言う間に役立たずの烙印を押され、気づけば路頭に迷う始末。道沿いに沿ってようやく村へとたどり着いたわたしはとある青年と出会ったのです。
出会い方はまぁ、その、実は疲労困憊で何をしたかあまり記憶にないんですよね。というよりどうして勝手に侵入したり壺を割るなんて行動をしたのか信じられないんですよ。なぜかあの時、何かに導かれるように勝手に体が動いたんですよね。でもさすがにこんなの言い訳にもなりませんね、ハイ。火に油を注ぐだけなので黙っていましょう。
わたしが出会った村人の名前レイ。レイさんです。第一印象、失礼だと思いますがザ・モブキャラ。何処にでもいる無害な一般人って感じの人です。出会ったばかりのわたしに食事を出してくれたり泊めさせてくれたりと、とても親切な方です。
♦♦♦
わたしって見る目ないんですね。この数日で嫌と言うほど身に沁みました。レイさんはオカシイ。猫になったり筋肉の塊になったり。ステータスもナニアレバグってるよ。もうレイさんが魔王倒せばいいじゃん。でもレイさんの力は特定存在が相手だと制限されるらしいのでお前が頑張れと言われてしまった。でもわたし超弱いよ? わたしを馬鹿にしたクラスメイトは見返したいけど、ぶっちゃけ無理だと思う。
でも教官と化したレイさんはまったく容赦なかった。
「腹筋100、腕立て100、スクワット100ぅぅぅ! 終わり次第ゴブリン退治だ!」
「イエスマム!」
無理無理むーり! わたし死んじゃう、こんなの続けてたら死んじゃうよぉぉぉぉ!
「ひぃぃぃぃ!」
「逃げてるばかりじゃ訓練にならんだろーがぁぁ! さっさとナイフで首ちょんぱせんかい!」
「そんなこと言われても、きゃっ、あぶなっ」
「相手の動きをよく見て、一撃で急所を突いて仕留める。逃げ腰じゃいつまでたってもできん。なぜ最初の一歩から後ろに後退るんだ! 相手に向かって一歩踏み出してみろっ」
一歩、一歩っ……えいっ
「ふひゃぁっ」
言われるがままにとりあえずゴブリンに向かって一歩踏み出してみたら想像以上に距離が詰まってしまって、せまりくるゴブリンのキモイ顔面の迫力に思わず変な声が出てしまう。
「よし、次は手に持っているナイフで相手の首を斬れ!」
「イエスマムゥゥゥ!」
訓練、訓練、訓練。家の中でも外でも訓練。休んでいる時は瞑想で心を落ち着かせる。暇があれば魔力操作の訓練。これはとりあえず魔力を使って自由に何かをすればいいらしい。とは言っても魔法は使えないので、魔力で身体強化を施してみたり、魔力を動かすだけ。
「よし、今から30秒後に追いかけるからな」
「イエスマム!」
そしてこれが地獄。通称ラリアット鬼ごっこ。鬼はずっとレイさん。逃げるのはわたし。そして通常の鬼ごっこと違うのは、鬼はタッチをしてくるのではなく、ラリアットをかましてくる。わたしがラリアットを食らった地点で鬼はまた30秒動かずに数える。その隙に吹き飛ばされたわたしはまた逃げる。その無限ループ。
「オラァァァァァァ! そんなチンタラ走ってるとまた轢いてやるぞ!」
「ひぃぃぃぃぃっ、教官早すぎぃぃぃ!!」
なにが怖いかって? もう背後から迫ってくる筋肉の塊がヤバいのなんのって。迫力がね、もう圧が半端じゃないの。暴走トラックに追いかけられている気分。追尾してくる分余計に質が悪すぎるっ
「でもわたしだって成長してるんだから……いつまでもやられっぱなしじゃないもん! 二日前に掘っておいた落とし穴……積もり積もった恨み晴らすべしっ」
「ふんっ」
「なんでばれてるの!?」
「筋肉サーチの前には落とし穴なんぞきかんわっ」
「筋肉サーチってなによぉぉぉぉ」
そしてまた宙を舞うわたし。最初の頃は骨が軋むような痛みが毎回襲ってきていたけど、今は受け身をとれるようになってきた。空高く打ち上げられてもすぐに体制を立て直して地面に着地し、間髪入れずに逃げ始める。
「ふむ。次からはもう少し威力を上げていくとするか」
……なんか恐ろしい呟きが聞こえた気はしたけど、ここは聞かなかったことにしようと思う。
♦♦♦
「「「グギャギャギャギャッ」」」
「またゴブリン。三体か……やれる」
わたしを取り囲む三体のゴブリンたち。でも今のわたしだったら戦える。
「わたしはやれる。わたしなら出来る。教官の方がもっと怖い。いくよっ」
ゴブリンは私の声に反応してか、一斉に棍棒を振り回してくる。武器を使うことを考えつくだけの知能。でもそれだけで別に扱えるわけじゃない。ただ振り回すだけの攻撃なら避けられる。
「避けたら次は」
棍棒を振り下ろして隙を晒しているゴブリン。無防備な首に向かってわたしはナイフを一閃させる。
「ギ……ッ」
「よし!」
肉が纏わりついてくる感触。慣れないし慣れたくない。けど今は、後二体いる。油断しない。自分の命は自分で守るんだ。
「ふぅ、何とか今日も食料確保完了」
ゴブリン三体を仕留めたわたしは、次に晩御飯のためにホーンラビットというウサギのような魔獣を仕留めた。意外と警戒心が強く逃げ足が速いものの、簡単な罠を用意すれば捕まえることは容易い。組んだ枝に火を起こし、肉を焼く。もちろん血抜きはしてあるけど香辛料がないせいで微妙。葉っぱで香り付けはしたので何とか食べられる。
そう、今わたしは森で生活している。それも一人で。所謂サバイバルというやつだ。期間は一週間程度らしい。課題は全部で3つ。毎日三食きっちりとること。もちろん獲物は自分で狩る。調理も自分でする。2つ目はゴブリンキングという魔物を倒してその一部を持ち帰ってくること。これは耳でいいらしい。袋なんて貰ってないので、葉っぱでくるんでいこう。最後は勿論、生きて帰ること。
最初は寝ている間に襲われるんじゃないかとビクビクしていた。意識が無くても、気配察知のスキルを保てているか何度も試行錯誤してみた。そして次はゴブリンキングの居場所。強そうな気配を察知する訓練……だと思う。今回は仕方ないけど、わたしはこの技術を出来るだけ逃げることに使いたい。強敵に向かっていくなんて嫌だ。
そして何とか最終日、わたしは数日前から掴んでいた気配の方へと向かっていく。そこには無数のゴブリンと、その真ん中に一際大きなゴブリンの姿があった。
「うわ、おっきいなぁ」
ゴブリンキング レベル20
筋力:310
体力:500
耐久:300
敏捷:100
知力:40
魔力:30
スキル:統率・威嚇の咆哮
「筋力高すぎ。殴られたら終わりじゃん」
でも弱点ははっきりしてる。スキルの統率だ。これのおかげで周りのゴブリンを使役できているのなら、キングを倒せば即離脱するだけの混乱は引き起こせるはず。
ちなみにわたしの今のステータスはこれ。
ミライ・ユウキ 15歳 女 レベル15
職業:勇者
筋力:95
体力:115
耐久:105
敏捷:350
知力:95
魔力:90
スキル:言語理解・気配察知・魔力感知・逃げ足・不意打ち補正・魔力吸収・初級短剣技術・念話
正直、正面から戦ったら厳しいというか負ける。わたしが勝てる可能性は一つしかない。それは
「勇者にあるまじき不意打ち一点突破。卑怯だって罵ればいいんだもん」
このサバイバルで痛感した。何をしてでも生き残る。これが一番大事。プライドなんてくそくらえ。
「すぅー、はー……」
落ち着いて、チャンスを待つ。
「…………」
まだ、まだ、まだ………
わたしはひたすら息をひそめてチャンスをうかがう。ほんの些細な変化が起きた時を見逃さないように。
「って、わたしから起こせばいいじゃん」
やっぱり緊張しているんだろうか。反省は生きて帰ってからしよう。そしてわたしは石を拾うと、思いっきりゴブリンキングに向かって投げつける。と同時にわたしは別方向に駆け出す。
「ゴブッ!?」
頭に石をぶつけられ驚きの声を上げるゴブリンキング。奴は反射的に石が飛んできた方へ顔を向けるが、もうそこには誰もいない。とっくにわたしは、何かを探すように辺りを見回しているゴブリンキングの背後に回り込んだ後だった。
「ごめんね。その首貰うよっ」
「……!!」
「はぁっっ!!!!」
一撃。一瞬の隙を突かれ首を落とされるゴブリンキング。それと同時に奴のスキルの統率の効果が切れ、徐々に集まっていたゴブリンたちに混乱が広がっていく。わたしはそれらに目も向けず、せっせと目的を果たすために行動する。不必要な数のゴブリンは殺すなと言われているし、一刻も早くこんな臭い場所とはおさらばしたい。
「耳、耳っと。うわくっさ~い。帰ったら絶対抗議してやるぅ」
こうして何とか課題をクリアしたわたしは、教官モードから普通の姿に戻っていたレイさんと一緒に反省会に勤しむのだった。ちなみに教官モード時の記憶は残っているらしい。何だかんだで充実した毎日を送っていると思う。でも一回くらいはレイさんに仕返ししたいと思ったのは秘密。
読んでいただきありがとうございます。
情報開示
初級短剣技術……短剣習いたて。短剣による攻撃補正小。
統率……同じ種かつ自らより力の低い者を従える効果がある。
威嚇の咆哮……咆哮時、周囲に威圧を含んだ魔力を放つ。心の弱い者を委縮させる効果がある。
教官流火の起こし方……乾いた枝などからナイフでひきりうすとひきりぎねを作成。乾いた葉っぱや木くずなどを集める。薪を組む。ひきりうすとひきりぎねを摩擦させて小さな火を起こす。手のひらの中ですぐに葉っぱや木くずに火元を混ぜ酸素を送る。後はわかるね?