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勇者案内人レイ~Heaven or hell~  作者: 時々
勇者修行編
6/15

教官吠える

読みに来てくださりありがとうございます

 控えめに言って、俺の使い魔猫モードは超可愛い。艶やかな黒毛に金色のネコ目。微弱に漏れ出す魔力によってゆらゆら揺れる二股の尻尾。ぷにぷにの肉球とピコピコ動く耳。そして女性の腕にすっぽりと収まるほどの小さな体躯。つまり何が言いたいのかというと、黒猫モードは女性受けがいいのである。


 初めて人を殺めることになったミライ(俺のせいだが)は案の定酷く動揺した。顔は真っ青になり足取りはおぼつかなく、家に帰るまでに何度も口元を抑えながら必死に胃の中から湧き上がってくる物に耐える様子が度々見られ、何かの音がするたびビクッと体を震わせる。俺が声をかけると、一応“大丈夫、大丈夫だから”と返事はするものの、全く大丈夫には見えない。


 まだ15の女の子には早かったかと思わないでもないが、不測の事態が起こる前に必要なことは早くやっておいた方がいい。そして彼女にはこんな所で躓いてもらっては困るのだ。というわけで俺は、彼女を元気づけるために動物パワーを借りることにした。


「んーニャー……ニャーン(あついっ)」

「レイさんの身体、すごく柔らかくて落ち着く」


 俺は彼女にベッドの上でひたすら抱きしめられている。もちろん猫の姿で。女の子の肌はすべすべで柔らかく、抱かれていると悪い気はしないが出来ればふくよかな膨らみが欲しかったところ。いつまでも洗濯板にゴリゴリ押し付けられると体が()る。ん、あれ何だか抱きしめる力が強くなっ……い、いてててててっ


「ニャーッ、ウニャ~~~~ッ!(離せっ、はーなーせー!)」

「動いちゃダメ! レイさんが言ったんだよ? 本当は事前に防ぐこともできたけど、あえてしなかったお詫びに三日間だけ寝るときは猫の姿で抱き枕になってくれるって!」

“息が、力強すぎっ”

「え、あっごめん!」


 念話を使った俺の必至なヘルプミーに気づいたミライが慌てて抱きしめる力を緩める。


“ふぅ。というか俺は一緒に添い寝してやるとは言ったが、抱き枕になると言った覚えはない”

「そうだったっけ」

“ああ。大体抱き締められたら俺が眠れない。硬すぎて。俺にも枕を選ぶ権利くらいはある”

「…………」


 ギュ~~~~ッ


「ニャーッ、ニャーーーーッ!(痛い痛いっ、悪かった冗談だって!)」

「……大きくなるもん」


 というわけで今晩を耐え切れば俺の抱き枕任務はようやく終了する。あの日、俺は猫のあらゆる魅力を使って彼女を癒したのだ。頬ずりをしてやったり、肉球で頭なでなでしてやったり。彼女の震える足にスリスリ体を擦りつけて安心させてやったりできるだけ可愛らしいポーズをとってやったり。そのおかげで今ではすっかり立ち直っている。俺が猫の姿になれると言った時は目を丸くしていたが、彼女はこの世界の常識をあまり知らないようだ。似非変化の魔法もどきをみてもすぐ受け入れた。それでも召喚された国の兵士や同じ召喚者たちといったステータス的に上位の存在を見たことがあるのだろう。それと比べ明らかに異常な値をたたき出す俺を見て、最終的に“なんか凄い人”というポジションに収まったようである。


「ねぇわたし、勇者としてやっていけるかなぁ」


 弱気な発言。まぁあんな体験をしたのだから仕方ないかもしれないが。


“俺が鍛えてやるから安心するといい”

「でもさ、魔族とかってもっと強くて怖いんでしょ」

“そうだな。でもミライは魔族を倒すのか? それが勇者の仕事なのか?”

「え。でも魔族を倒すためにお前たちを召喚したんだって言われて」

“人が人を理不尽に襲っていたら、助けないのか?”

「そりゃ、助けれるなら助けたいと、思うけど」

“相手が魔族だから倒す。そんな考えを持つのはよそうな。自分の目で見たモノを信じればいい。その上で戦う。それが勇者ってもんだ”

「うーん……話難しくてわかんないよ。じゃあ悪い魔族を倒せばいいのかな」

“今はまだ分からなくてもいい。けど覚えておくんだな。人であれ魔族であれ、どんな存在にも同じくらいの悪と善がある。時には逆転の発想、視野を広げてその両目でしっかりと見定めて行動するといい”

「レイさんがそう言うなら、頑張ってみる」


 ふぅ。俺今良い事言ったんじゃない? だってほら俺今さ、念話魔法を教えた以外だとわざと彼女を暗殺者に襲わせて、挙句に彼女に人を殺させたという傍目からは鬼畜にしか見えない所業しかしてないわけで。でもコイツ弱っちいからなぁ。明日からはまたビシバシ鍛えていくとするか。


「ニャッフッフッフ」

「……またレイさんが意地悪する時の顔してる」


 それは気のせいだな。



♦♦♦



早朝。現在日の出前。村の住民は寝静まっており、物音ひとつしない。そんな中、村長の家の明りだけがぼんやりと辺りを照らしていた。


「おい、首尾はどうなっている?」

「上々ですよ。ターゲットは警戒するそぶりもなくすっかり気を許しています」

「そうか。あれは上玉だ。売れば相当な額になる。体に傷などは無かったな?」

「無いですね、綺麗なもんです」

「くくく、そうかそうか。よし、奴隷商がこの村に来るのは4日後だ。それまでに仲間たちには話をつけておく。お前は引き続き監視を頼むぞ」

「了解です、ボス」


 村長のことをボスと呼んだ男は、必要な報告だけ済ますと音もなく消えていった。



♦♦♦



「ふぁ~、レイさんおはよー」

「ああ、おはよう。もう朝食は出来ているから顔を洗ってくるように」

「まるでお母さんみたいだね」


 ミライは着替えを済ませ、言われたとおりに洗面所に向かう。そして顔を洗い、席に着く。そして手を合わせていただきますをして、まずは汁物に口をつける彼女だったが次の瞬間、対面に座っている人物を見て―――


「ぶーーーーーっ!」


 口に含んでいた物を噴出した。


「何をしているんだ、汚い」


 俺は宙を舞って襲い掛かってきた汁を華麗に避け彼女に苦言を呈す。しかしそんなことはどうでもいいと言わんばかりにミライはがたっと席から立ちあがる。そしてびしっと指をさしたかと思うと、声高に叫んだ。


「あなた誰よ!? レイさんをどうしたの!?」

「まぁまぁ落ち着いて」

「落ち着けるわけないでしょっ。分かった、あなたはあの黒づくめ達みたいにまたわたしを攫いに来たんでしょ!」

「落ち着けって」

「どどど、どこからでもかかってきなさい! わわ、わたしだってもう戦えるもん!」


 気を動転させながらも構えるミライ。しかし既に涙目で、足はガクブル。両手には武器の代わりにスプーン。これでいいのか勇者……という残念具合であった。


「だから落ち着けって、鑑定してみろ。それで分かるから」

「じゃあ動かないでよ。じっとしててっ! 動いたら駄目だよっ」

「はいはい」





レイ[オニ丸さん] 21歳? 男 レベル120

職業:教官

筋力:2929

体力:700

耐久:2929

敏捷:100

知力:560

魔力:2929

スキル:筋肉魔法・教えの極意・極級格闘技術




「…………」

「どうだ、ちゃんと見れたか?」


 俺のステータスを見たであろうミライの目が心なしか死んでいるように見える。


「あのさ、そろそろ突っ込んでもいい?」

「別にいいぞ」

「レイさんって、人間じゃないよね」

「ふむ。些細なことだな。俺はレイ。謎のお兄さんだ」

「どこが!? レイさんの面影がないよ! その腕の筋肉はなに!? おかしいじゃんどう見ても。ムッキムキだし、腕太っ!? それに何で頭リーゼント!? サングラスなんてどこから出したの!? ああもうっ、ツッコミどころが多すぎて何から言えばいいのかさっぱりわからないよ!」

「イカすだろ?」

「…………」


 そんなにおかしいかね、俺の教官モード。確かこの姿を他人に見せるのは5回目くらいだろうか。俺の仕事は、神から依頼されるモノなので、大抵は条件が付く。勇者の武器になって支えてくれとか。ただ今回は縛りなし。俺はこの世界でどんなモードも規則違反なしで使える。使えるものは使うべし。なんせ今回俺が担当する勇者はクソ弱いのだから。


「というかさ、ネコの姿の時もそうだったけどステータスの数字がイカれてる気がするんだよね。わたしを召喚した国の大臣がステータスは999が限界って言ってた気がする。あ、限界突破スキルがあれば4桁は一応可能なんだっけ……」

「驚いているところ悪いが、先に言わなければいけないことがある。かなり切羽詰まった話だ」

「もう今更なに聞かれてもあんまり驚かない気がするよ」

「そうか、そりゃよかった。じゃあサラッというけど、俺の要するモードチェンジの中には、言動が姿に引っ張られるものがある。そしてこの教官モードは引っ張られる。もうそろそろ抑えるのも限界でな。まぁこれも修行の一環とでも思って」


 ふぅ。あれ、俺は今何をしていたんだっけ? 俺の名前はそう……レイだ。そして俺は男であり、唯一無二の教官という人種。ああ、筋肉肉肉、筋肉肉。なんという甘美なる響き。そして俺の上腕二頭筋……なんて素晴らしい輝きだ。


「あの、レイさん? 急に自分の腕に頬ずりなんかしてどうしたんですか?」


 ミライが絶賛筋肉堪能中の俺を引きつった顔で見つめてくる。だが俺は言いたい。


「お前には分からんのか、この筋肉の輝きが」

「……はい?」

「まぁ無理もない。そんなひょろっひょろの筋肉をしていてはその良さなど欠片も理解できないに違いない」

「あの~、えっと……レイ、さん?」


 戸惑う彼女に向かって俺はかっと目を開く。


「いいか!!」

「ひゃいっ」

「筋肉こそ、この世で一番大切なモノだ! 1に筋肉、2に筋肉、3、4とんで5に筋肉だ!」

「…………(唖然)」

「返事はどうしたぁぁぁ!」

「ひゃい……!」


 そして食事を終えた俺は彼女の前でひたすらマッスルポーズを決めていく。


「よし食べ終わったな。ではさっそく森で訓練するぞ。俺のことは教官と呼ぶように」

「えっと、分かりました教官?」

「ちがーーーーう! そこはイエス、マムッだろーがッ!」

「イ、イエスマム!」

「よーし、付いてこい!」


 俺がナヨナヨ小娘を立派な戦士に仕上げてやるぜ。


「あぅ~、なんでこうなるのぉ~」


 ミライが後ろで何かつぶやいていたが、これから彼女をどうやって鍛えようかしか頭に無かった俺の耳には何も聞こえなかったのだった。


情報開示


使い魔猫モード……レイが黒猫になった姿。尻尾が二股。俊敏性と魔法力に優れており、死角からズドーンが基本。魔法での正面戦闘も可能。隠密も得意。反面、耐久と筋力は皆無。よって、一発でも攻撃を受ければ即戦闘不能に加え、肉弾戦不可。全力のパンチは、相手に黒ずみ一つつけられない程の肉球パンチが精一杯。ちなみに言動は本来のレイのままである。しかし少々感情の起伏が激しくなる。


教官モード……レイが教官と化した姿。サングラスにリーゼント、そして筋肉ムキムキとおよそ一般的な教官の姿からはかけ離れており、見てくれはどこぞの山賊。筋肉魔法という未知の魔法を使うが、主な特徴は“教えの極意”の方。かつてこのスキルをフル活用し、なぜか魔王をワンパンで消滅させてしまう魔神と戦わなくてはならなくなってしまった不憫な勇者を、逆に魔神をワンパンで倒せるくらいまで育て上げてしまったという実績を持つ。さて、ミライの場合はどうなってしまうのか。ちなみに言動は完全に姿に引っ張られ、完全にヤバい奴。筋肉を愛する変人と化す。



筋肉魔法……未知なる魔法。本人曰く、筋肉が敵の居場所を教えてくれたり(索敵)、筋肉が筋肉によって筋肉強化された上に筋肉による筋肉だよりの筋肉だからこそできる筋肉をフル活用した格闘術を扱う。全ての不思議な現象が「筋肉だから」という理不尽な一言で済ませられる。かつて未知なるこの魔法を研究しようとした研究家がいたが徒労に終わった。それだけでは済まず、その男は生涯筋肉に怯え続けることになったという。


教えの極意……“育てる”という行為そのものに補正がつく。どれほどの補正がつくのかは本人次第である。


極級格闘技術……格闘技を極めた者。格闘技に大幅な補正がつく。

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