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勇者案内人レイ~Heaven or hell~  作者: 時々
勇者修行編
4/15

念話魔法は便利魔法

「今、お腹すいたぁ~って言ったでしょ!」

「言ってない」

「じゃあ、散歩しに行こう?」

「じゃあってなんだ。当てずっぽうに言っても無駄だからな」

「むぅ」


 可愛く唇を尖らせても無駄。先日俺の生活魔法をひとしきり堪能した女勇者ことミライは、すっかり魔法の魅力に取りつかれてしまったらしい。朝早くから魔法を教えろと迫ってきたので、特訓中である。


「レイさん、わたしもっとド派手な魔法を覚えたい!」

「そんな魔法覚えてどうすんだ」

「だってぇ。念話魔法なんて覚えてどうするの? 普通にしゃべればいいじゃん」

「この魔法は凄く便利なんだぞ。魔力制御の制度を上げたりすればかなり離れていても意思疎通が可能になる。欠点は念話魔法の特性として使用できる者同士でしか効果がないことだな。片方だけが使えても意味がない。というわけで文句言わずにやる」

「むぅ。せめてコツとか教えてよ」

「コツねぇ。魔力には決まった波長があって、念話はこの波長を相手に伝える魔法だ。音が伝わるのと同じ原理だな。念話が使えない者はそもそも念話魔法の波長を捉えることができないから念話が使える者から使えない者への一方通行は不可能。こういえば分かりやすいか。とりあえず、自分を中心に魔力の波を円状に広げるようにしてみろ。ちなみにだが、この範囲内が念話可能な距離だな」


 生まれつき魔力が備わっている者は、魔力を自然に扱うことが出来るためこの理屈を知って(・・・)いれば(・・・)念話魔法など容易い。しかし実際はこのようにして魔法を覚えることは出来ない。なぜか。それはステータスに縛られているからだ。魔力操作など満足にできなくても、そのスキルさえ持っていれば一定の効果を保障されたうえで魔法などが発動する。これをスキルの恩恵という。しかし実際には同じスキルでも効果にふり幅があったりする。その一つの要因が魔力操作技術。この技術は消費する魔力量と、効果の大小、及び効果範囲に影響を与える大事な要素である。鍛える者など皆無だが。


 ステータス絶対主義は結構なことだが、ステータス以外にも大切な要素は山ほどあるということ。俺は今後、そういったものを中心に教えていくつもりだ。何せ彼女のステータスには毛ほども期待できないからな。そんなことを考えながら片手間に昼食を作り始めている俺の元に響く声。この頭の中に直接響いてくる声は念話魔法特有のものだ。


“おーい。聞こえてるー? わたしちゃんとできてるかなぁ?”

“どうした、ぺったん娘”

「ぺったん娘っていうなぁ!」

「お、ちゃんと聞こえているじゃないか。その感じだと、ミライの念話はまだこの部屋の端から端くらいまでしか届きそうにないな。ステータスにはちゃんと念話魔法のスキルが追加されてるな?」

「うーんと……あ、あったよ!」


 嬉しそうにその場で飛び跳ねる彼女。ツインテールの髪がピョンピョン跳ねて庇護欲を誘う可愛さはあるものの、悲しいかな。その胸にある果実は一切の揺らぎを見せないでいる。


「なんかすごく失礼なことを思われている気がする」

「気のせいだな。昼飯でも食べよう」

「お肉を所望する!」

「残念。野菜たっぷりスープだ」

「また!? ニンジンは嫌っ」

「なら大丈夫だな。これはニンジンではない。キャロットゥだ」

「ニンジンじゃんっ」

「ニンジン? 何ソレ、ボクわかんない」


 そんなに食べたいならたっぷりとよそってやるわ!


「ぶぅ」

「しょうがないな。残さず食べたら特別な料理を用意してやる。まぁデザート的なやつだな」

「ほんと!? わーいっ。いっただっきまーす!」


 一瞬でふくれっ面から満面の笑みに変わるミライ。いただきますとは何だったか。確か料理を用意してくれた者へのお礼だったか? ということは俺は今、彼女に感謝されているわけだ。なるほどなるほど。じゃあその調子で感謝してもらおうじゃないの。


「ふっふっふっふ」

「……なんかまたレイさんが意地悪する時の顔してる」

「そんなことは無い。デザートを楽しみにしているがいい」

「そこはかとなく嫌な予感」

「ふっふっふ」



♦♦♦



 曲がりなりにもこの村まで一人で来た。 あのステータスを見る限り、ひたすら逃げまくってきただろうことは明白だが。そこで彼女はこの世界の文明レベルを確認したはずだ。少なくともこんな田舎の寂れた村に贅沢な甘味類などあるはずがないだろう。


「つまり君は騙されたというわけだよ。はっはっは」

「ぅぅぅ」

「まじめな話どうだった。俺は結構美味かったと思うんだが。ジソク・ワラビムシのコロコロ揚げ。ジソク・ワラビムシは見つけることが非常に難しく、見た目はグロいから食べる者は少ないが隠れた珍味として界隈では有名だぞ」

「無理。だって揚げてあったのに何で10本ある足はまだわしゃわしゃ動いてたの? 何で噛んでいるうちに甘辛味から苦い系にシフトチェンジするの。もう意味が分かんないよ」

「そこがいいんだろうが。どいつもこいつも全く理解しようとしない。これからもちょくちょくお披露目していくからな。何時か絶対美味いと言わせてみせる」

「レイさんがまさかのゲテモノ好き。ぅぅぅ、仲間にする人選違っちゃった感」


 ん~、たまらん。口の中を動き回る足がプチュッと潰れる瞬間の食感が何とも癖になる。


「うぇー」

「吐くなよ。村人が振舞った料理を吐こうとする勇者がどこの世界にいる。こちとら税金で贅沢してる貴族じゃないんだぞ」

「レイさん、全く生活に困ってる感じしないけど」

「あ、そう言えば誰かさんに壊された壺の弁償が――」

「あ、これすっごくおいしー!」

「だろ? 俺の分もくれてやる」

「…………わーい」


 随分と元気のない“わーい”だな。しょうがない。後で口直しの木の実でもくれてやろう。もの凄く酸っぱいがな。俺のお気に入りの壺をよくも……ちょっと怒りが再燃してきた。この子にはスパルタ教育を施してやる。くっくっく、俺が絶対に素晴らしい勇者にしてみせる。そしたら俺の評価もうなぎ上り。


「レイさん、また悪い顔してる」



♦♦♦



「あれ、今日はわたしがベッドで寝ていいの? いつもお前は居候なんだから床で寝ろって言ってたのに」

「ああ、もちろんだ。今さっき急に俺の心に絶大な良心が芽生えた。昨日は床で寝させて悪かったな。今日はベッドでゆっくり休んでくれ。俺は一階のソファーで寝ることにする」

「ほんとに!? やったー!」


 疑うことを知らない少女は大喜び。おやすみと一声かけて俺は階段を下りる。そしてソファーの上で寝転がりながらその時を待つ。





 しばらくすると、俺の魔力が外の気配を捉える。耳が微かな音を捉え、研ぎ澄まされた嗅覚は本来感じることの出来ないニオイまで判別する。


「ニャー(ようやく来やがったか)」


 数は全部で5。凶器はナイフと剣……ニオイで判別可能なのはこのくらいか。ナイフには毒が塗ってあるな。だが、これは麻痺性の強いヒガ草のものだ。ここで殺す気はなさそうだな。なるべく死体すら公にしたくないと言ったところか。確かに黒髪は珍しいもんな。


「ニャン(だったら予定通り利用させてもらう)」


 気配自体は昨日の時点で気づいていた。目的は十中八九ミライの暗殺だろう。確か彼女は追い出されたとか言っていた。この村に辿り着けたのは逃走に特化したスキルがあったからこそといったところか。まぁ彼女がこの村に来ること自体は最初から決まっていたことだがな。だがここから先は神の知るところじゃない。神が用意したのは俺に与えた1年という準備期間と、勇者と俺が出会うのはこの村だという結果のみ。ここから先は俺の仕事だ。



 上から小さな悲鳴とちょっとした物音がした後、家の中にはまた静寂が戻った。気配を断ち、ソファーの上で丸くなりながらじっと耳を澄ませていた黒猫はゆっくりと伸びをする。そして一鳴きした後にはもうその姿はどこにもなかった。開けた窓から風が入り、静かにカーテンを揺らす。誰もいなくなった家を物寂し気に照らすロウソクの光だけがゆらゆら揺れていた。


情報開示


念話魔法……同じく念話魔法特有の波を感じることが出来る者(念話魔法を会得している者)を対象に、言葉を出さずに相互の意志を通わせることが可能になる魔法。範囲は魔力操作技術及び魔力量に依存。修得にはまず、魔法の発現の際に発生する波を感じなければならない。そしてそれ以前に、“音のように、魔力を放出すると波が発生する”といった知識と想像力、そして理解が必要。とある星の、“カガク”と呼ばれる知識があれば比較的容易に修得できるかもしれない。


魔力操作……スキルのよる魔法は、詠唱したりするだけで簡単に一定の効果が保証された状態で発現する。しかしこの魔力操作によって、同スキルの魔法でも威力が跳ね上がったり、消費魔力量を節約できる。


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