勇者とはやべぇ奴らの総称だったりする
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唐突だが、勇者とはやべぇ奴らの総称である。まぁ少し考えれば分かるだろう。普通だった生活がある日突然劇的に変化するのだ。そりゃ冷静になれっていう方が無茶だろう。
特に異世界転生を介した勇者。とりわけ地球という世界からやってくる勇者は輪にかけてやべぇ奴らだ。
勝手にハーレムを作ろうとしたり、銃と呼ばれる殺戮兵器を簡単に広めだしたり、挙句の果てには自分を神の使いか何かと勘違いしたかのように自己陶酔に浸る者ばかり。他人のスキルを勝手にコピーするわ、自分のお気に入りの女の子たちのパワーレベリングを行うわでやることなすこと全て滅茶苦茶。
奴隷買って乳繰り合うのは勝手だが、声でかすぎて宿中に響いてんだよ。これだから童貞勇者は救えない。
ちなみの俺はことあるごとに「俺またやっちゃいました?」とわざとらしいとぼけ方をするキチガイと難聴系なよなよ男も大っ嫌いだ。アイツらほんと何がしてーの? 周りの反応で分かるじゃん。
とまぁここまで言いたい放題の俺だが、俺と勇者は切っても切れない存在なのだ。そして今、俺はとても感動している。
「ニャ~ゴ。ゴロニャ~ン」
「レイチェル、如何したんだそんな切ない声を出して」
「あら、この子も私たちの結婚をお祝いしてくれているのね」
「ニャンニャン、ニャ~ン!」
そうだよ! まったく、今回もすっげー疲れた。猫型の使い魔として勇者のサポートをするのがこんなにも大変だったとは。俺マジ頑張った。だが前回よりはいくらかマシだった。前はほら剣の姿だったからね。剣の姿でどうやって勇者サポートしろと。ツッコミをしたり筆談で助言してやるために、まず手足を剣から生やすことからのスタートはつらかった。だがそのおかげで歴史上ただ一人の(剣と筆談を交わす)変人勇者として名を刻めたのだから、アキラ君には感謝してほしい。
そして今回、俺は猫の使い魔。名前はレイチェル。勇者の名前はトシアキ。パーティーメンバーは彼と一緒に召喚されたアカネ。こちらは魔法使いポジだった。
二人は幼馴染。そしてこのトシアキというやつは珍しく色ボケしていなかった。召喚当時から19歳ということもあって少し大人びており、根は正直者。そして誠実。その人柄から王城の貴族共に言い寄られることもあったが、下心のない笑顔の対応をしていた。もう何回も勇者案内人としての仕事をしているが、なかなか好感の持てる青年だった。
が、油断していた俺は気づかなかった。いつもは勇者の方に苦労させられるのだが、今回はアカネの方がやばかった。トシアキに色目を使った女を無言で毒殺しようとしていた時は眩暈がしたわ。それ以降、俺はキューピット役だった。幼馴染という関係上、中々アカネの好意に気づかないトシアキ。時には、女風呂と男風呂の掛け軸をかけ替えてイベントを起こしてみたり、アカネの前で他の女冒険者に際どい発言をするトシアキに肉球パンチを食らわしてやったり。
パーティーメンバーを増やさないように人見知り猫を装ってみたり、トシアキと仲良くしようとする女どもの間に割って入っていい雰囲気を台無しにする空気読めない猫を演じてみたり。
はぁ。改めて思い出すと俺は何をやっていたんだか。だがようやくこれで解放される。二人は無事魔王を倒してそのまま結婚。めでたしめでたし。もう俺は必要ないね。気ままな猫は天に帰ります。お二人さん、末永くお幸せに。
「ニャ~~ゴ」
「レイチェル? どこへ行くんだ?」
帰るんだよ。魔族なんてもういねえんだから使い魔がいたってしょうがないだろ。まぁでもそれなりに長い付き合いだったからな。別れの挨拶くらいしてやるか。
『ばいばい。お幸せに。レイチェルより』
そうだよ。結局今回も筆談だったんだよ。念話魔法くらい勇者だったら覚えろよと言いたい。この手の魔法はお互いが修得してなきゃ意味ないのよ。
「レイチェル、あなた……」
「ニャ~ゴ」
「そう、これでお別れなのね」
アカネは涙ぐんでくれている。ここだけ見ればいい子だ。もう24だけど。そしてこっちの24歳はまだガキっぽい。
「嘘だろ、どうして! 俺たちずっと一緒にやって来たじゃないかっ」
「……」
「レイチェルッ!」
「トシアキ、ダメよ。この子は猫だもの。猫は気まぐれ……でもね、レイチェル。私たちは絶対にあなたのことを忘れないわ。今までありがとう」
「ゴロニャ~ン」
「……ほら貴方も」
「うっ……。レイチェル、本当に行ってしまうんだな」
「ニャ~ン」
「そうか、そうだな。分かった。今まで世話になった。この世界を何も知らなかった俺たちがここまでやってこられたのはお前のおかげだ。どこに行くのか分からないが、達者でな」
「ニャン、ニャーン!」
ふぅ。最期までビービー泣きやがって。これでやっと清々するってもんだ。
「…………ニャン」
別に寂しくないけど? これっぽっちも寂しくなんかないもんね
そんな感じで今回も無事、お仕事完遂。
♦♦♦
「という感じでしたね、今回は」
「お主はどこぞのツンデレヒロインかっ。別れのシーンで猫の姿のままぽろぽろ涙を流しおって……年甲斐もなく儂までもらい泣きするところじゃったわい!」
「いや~それほどでも」
「褒めとらんわ!」
このお爺ちゃんこわーい。カルシウム足りてなーい
「ま、涙もその小憎たらしい笑みを見て一瞬で引っ込んでしまったがな。全く、お主のような者は初めてじゃよ」
俺の目の前で溜め息をつくお爺ちゃん。ぶっちゃけるとこの方は神様。俺は訳あってこの神様にお世話になっている。目下、俺の主な仕事は勇者の監視役……もとい勇者の案内をする役……勇者案内人(自称)である。
「お主は儂ら顔負けの力と頭脳を持っており、素晴らしく優秀なんじゃがな。遊びにさえ走らなければ」
「いや~それほどでも」
「だから褒めとらんわ!? お主が神たちの間で何と呼ばれておるか知ってるおるか? 超絶問題児じゃぞ? そしてそんな人物を抱え込んでいる儂もめでたく変神扱いじゃ」
ほほーう。そんな呼ばれ方をされているとは驚きだ。
「今日限りで仕事辞めます」
「うっそー。全部嘘じゃから。お茶目なじじぃの冗談じゃ。だからお願い、やめないでください」
「まぁ辞めるつもりはないけどな。面白いからこの仕事」
「……はぁ。その面白いという部分が毎度毎度ハラハラさせられるんじゃ。勇者で遊ぶのも程々にな」
そんなこと言われても。勇者がムカつくことしたらぶちかますのが俺流だからね。その代り面白そうな子だったらちょっかい出しちゃうけど。
「おおっと、お主をここへ呼んだのは何も報告させるためだけではないんじゃ。急ぎ対応要請があってな。帰ってきて早々悪いんじゃが、仕事を頼めるかのう?」
「えらい急な話だな。いつもだったら休みくれるのに」
「勇者を複数同時召喚した世界があっての。対応が間に合わんらしい。召喚自体もかなり雑で個々の能力値に大きなバラつきもあり、ともかく急いで対応してほしいんじゃと」
まじか。勇者を複数召喚するとかその世界の神馬鹿なんじゃねぇの。やろうとする方も馬鹿だが、召喚陣の許可出した(もしくは黙認した)神も阿保だわ。
「ではさっそく転送するぞい。時間はどれほど必要じゃ?」
「いつも通り一年くらいで頼むわ」
「む、一年戻すだけで足りるのか?」
「ああ。今回は初期の村人設定でいくから。ちなみに今回は人の姿でいいんだろ?」
「うむ。特にそういった要請はなかったのう」
「マジか。じゃあどんな姿だろうと俺の勝手ってわけだな」
そして光に包まれた俺は、新たな仕事場(世界)へと向かうのだった。さぁ今回はどんなことをして遊ぼうか。
読んでいただきありがとうございます。
情報開示
勇者案内人(自称)……正式名称は勇者の監視役もとい補佐役。彼らは神から依頼され、様々な世界に渡って勇者を導く謎の存在。その実態は実の所、神すら分からない。しかし神の依頼を忠実に実行するため「神の意志」と呼ばれることも。その辺り、レイの場合は少々異なるようだが……?