9.
響様を引っ張り、広場に噴水があるひらけた場所までやってきた。そこでやっと響様を解放する。
「状況理解できてます?」
「いや、実花のワンピースの後ろっ側がほとんど青くなってるくらいしか・・・主にケツ」
私はため息をつく。
「結論急ぎすぎ。先程の連中は私がペンキ塗り立てのベンチに誤って座っているのを見て、声をかけてくれようとしてただけ。まぁ、側から見たらそういう風に見えてもおかしくないかもだけど」
響様は何やらしょんぼりして「ごめん。そんないい方たちだったのに」と言った。
「それと、なんでさっき私から離れて店の中に入っていっちゃったの?待ってろって言われたけどあのタイミングでそんな行動とられたら、「あぁ、私が変なことばっか言ってたから、1人でショッピング行っちゃったのかな」って勘違いしてもしょうがないと思うよ」
「だからあそこから離れたの?めっちゃ近くのベンチにはいたけど」
「そう」
響様は「なんだそんなことだったのか」と言うと私を抱きしめた。
「よかった」
「なにがよかったなの?離して–––」
私は腕の中でもがくが、体が一層密着する。恥ずかしすぎて小さく震え、大人しくすることにした。
「実花こそ結論を捻じ曲げて考えすぎだよ。俺は頭に血がのぼっていると思ったから、このまま話しててもいい方向に行かないんじゃないかと思って、店にアイス屋が入ってるの思い出して買いに行ったんだ。それだけだよ」
「な、なによ!私だって好きな味とかあったかもしれないし、ついて行きたかった!なんでなにも言ってくれなかったの?」
「ごめん」
「で、アイスは?」
「探してる途中で溶けそうになってどっちも食べた」
私は気づかないうちに笑っていて、響様の体も顔は見えないが揺れている。周りから見たらただの抱き合ってるバカップルにしか見えないと思う。でもなんだか響様と絆が深まった気がして嬉しかった。
「くだらないことでゴタゴタしちゃったね」
「あぁ、全部俺のせいだな。ごめん」
そう言って体を離すと頭をかいた。
「ここ異世界なんだ」
一瞬時が止まった気がした。
「今、なんて?」
「ん?ここ、異世界なんだ」
「・・・いきなりのカミングアウトってこともあってかなり混乱してるんだけど・・・どゆこと?」
響様はクルッと実花に背中を向けると「だからー、ここは「異世界」やねん」と可愛く振り返った。
(え、なんで関西弁?)
いろいろ理解できない実花を尻目に響様は歩みを進める。
(うわー、まぁ、確かにいろいろ現実離れしちゃってるけど・・・マジか)
なんだが複雑な感情を押さえ込み、私は響様に追いつくようについていった。