8.
「どういうこと?」
響様は首を傾げる。
「居酒屋のチェーン店ってさ、どっこにでもあるの!地方だろうとなんだろうと!別に高校生の私には非常にどうでもいいんだけどね」
そして響様に詰め寄った。
「なんでないんじゃい」
「実花、キャラが崩壊してる」
実花は「なんでないんじゃい」ともう一度凄んでみるが、響様は知らぬ存ぜぬで通すらしく、「細かいことは気にするな」とまた肩を叩こうとしてきた。それを素早い動きで避ける。そして地面に座り込んだ。
「響様がちゃんと答えてくれるまで私、動かない」
「居酒屋のことなんて気にしなくていいじゃん」
私は無言で響様を睨みつけた。すると、「わかったよ」と言って私の手を離す。
「実花、ここで待ってて」
そう言って、近くの店の中へと入っていった。
「・・・なんだ」
ショッピングしたかっただけなんだ。デート自体はどうでもよかったってことね。面倒くさいから置いてかれたってことね。あぁ、そうですか、はい、そうですか。
「・・・普通に腹立つ」
私はそのまま思い切り立ち上がると、足を踏み鳴らしながらその場を離れた。
イケメンだからってしていいことと悪いことがある。彼氏いない歴=年齢でも私は一応レディなんだから。あぁ、てかこのくだりいい加減悲しくなってくる。
「勝手にすればいいわ」
私は自販機が側にあるベンチを見つけ、ドカッと座り込んだ。端に座っていたイチャイチャしたバカップルが「いこうぜ」と席を立つ。その後ろ姿に舌を出すと、苛々を抑えられず頭をグシャグシャにした。
なんだか悲しくなってくる。
「なんで怒りの後って悲しみが襲ってくるんだろう。火を水で鎮火して気持ちを鎮めるってことなのかな?」
そんなどうでもいい台詞を口走りながら、目尻を拭う。
喉は乾かないが、飲み物でも買おうと服を探るが、やはり財布は出てこない。それに携帯すらない。ため息をつく。
「こんなとこ・・・くるんじゃなかった」
口に出すと更に悲しくなり、涙が落ちた。
(響様は私を探しているだろうか。戻った方がいいかな、やっぱり。私の勘違いって可能性もある・・し)
重い頭を上げ、立ち上がる。すると何人かの若い男がこちらに近づいてくるのが見えた。
(あー、やばい。これフラグたってるな)
できるだけ下を向いて、早歩きで通り過ぎようとしたとき、「ねぇねぇ」と声をかけられた。
「あのさ–––」
恐る恐る顔を上げようとしたとき、話しかけてきた男が凄い勢いで目の前から飛んでいった。
「え?え?」
周りでテンパっている男たちも次々と飛ばされていく。
「実花っ!」
(えー・・・)
顔を上げると私の前に響様が立ち塞がった。
「お前ら、実花に何をした!」
(いや、まだ、「あのさ」しか話しかけられてない・・・)
心の中で軽くツッコミを入れつつ、男たちの言葉を待つ。最初に吹っ飛んだ男が辛うじて意識があり、震える指で何かを指している。
「そんなハッタリは聞かないぞ」
(いや、もう戦闘不能状態だろ、そいつ)
私が指差した方を向く。男たちの訴えたかったことを理解し、「響様、行きますよー」と手を引いた。
そして意識を朦朧とさせている男に「本当にごめんなさい!忠告ありがとうございます!」と深々と頭を下げた。男は笑顔で親指を立てると、そのまま意識を失った。
「はい、行きましょー」
「ちょっ、まっ、え?」
状況が理解できない響様を引っ張って、その場を離れた。