7.
「よし、ついた!」
響様は満足気な顔をしている。かなりの距離を走ったはずなのに、汗もかかなければ動機も息切れもなかった。
(・・・現実離れした一面が・・・)
響様の手をつねってみる。
「いてててっ!」
痛がるが手を離すことはなく、響様は「いきなりなんだっ」とこちらを見た。私はつねった方の手を見る。
(感触はちゃんと–––)
「行くぞ」
ボーッとする私を導くように、響様は歩く。私も無言でそれについていった。
街には色々な服のショップがあった。ゲームセンターなどの娯楽施設もあり、賑わっていた。
(おかしい)
周りをジロジロと見渡す。その様子に気づかず、横では今にもスキップし出しそうな響様が楽しそうにしていた。
(こんなに服のショップが並んでいるのに、知ってるブランドが1つもない)
1つ1つ見るが、どれも知らないブランドばかりだった。都内に行けばそれも不思議なことではないのかもしれない。でも1つもないというのはとても不思議な感覚だった。
(これだけ賑わってるいる街なら、有名ブランドが出店していてもおかしくないはずなのに・・・)
無名のブランドも人気があるのかお客さんが沢山店内にいるのが見えた。
(逆にこれだけ人気なのに情報がないってのもおかしい・・・。ブランドにはあまり興味はないけど、私もそこまで疎くはないはずなのになぁ)
周りを観察しているうちに歩みが遅くなっていたのか、響様に軽く引っ張られた。
「実花、さっきからどうした?行動が怪しいぞ?」
「いや、私の好きなブランドのお店1軒もないなと思って・・・」
カマをかけてみる。すると、響様は一瞬私から視線を逸らした。
「言ってなかったけど、ここわりと地方だから」
「地方でも有名ブランドの1つや2つや3つくらいショップがあってもおかしくはないと思うんだけど・・・」
響様は私の肩をポンポンと叩き、「細かいことは気にするな!」と言ってまた歩き出した。
私はため息をつき、またルンルン気分で歩き出した響様についていく。
周りをキョロキョロしているとビルのテナントが目に入る。
(んー、やっぱりおかしい)
店は他にスーパーや居酒屋などもあり、買い物をする主婦や、会社帰りなのか酔っ払ったサラリーマンの団体が通り過ぎる。
(スーパーはともかく・・・)
そのまま立ち止まる。私に引っ張られるように響様の体がよろけた。
「実花–––」
ため息をつきつつ、何かを言おうとしている響様を遮って「あのさぁ!」と言った。
「チェーン店が1軒もないのはさすがになくない?」