2.
「あー、さっぱりした」
夜ご飯を食べ、お風呂に入った私は部屋に戻ってきた。光様の抱き枕に飛び込む。私にとってはこの瞬間が一番の至福の時だった。
「あ、そういえば明日テストじゃん」
ため息をつく。この前のテストは赤点で、ママに見せたらめちゃくちゃ怒られた。その時のことを思い出すと寒気がした。
「だるー」
勉強机に座る。鞄から教科書を乱暴に取り出し、ノートを広げた。
一旦やり出すと止まらなくなる。別に楽しい訳ではないが、夢中で目の前のことに打ち込めるところも自分の好きなところの1つだ。
時計を見るといつの間にか2時間も経っていた。
「まだ30分くらいかと思った」
そう言いながらも教科書をめくる手や、ペンは止まらない。
しばらくしてまた時計を見ると、始めてから5時間も経っていた。凝り固まった体をほぐすように伸びをする。
「キリいいし、やーめた!」
教科書を鞄の中に放り投げ、ノートをそのままにベッドにダイブする。
「すごいなー、私の集中力」
疲れが一気にきたのか、頭の中を整理する間もなく、眠気が襲ってきた。
「明日のテストはこれで–––」
言い終わる前に私は意識を失くした。
「み––・・!」
「みか!」
呼ばれて我に返る。
「え?」
「どうしたの?実花、いきなりボーッとして」
辺りを見渡す。
「デート中だってのに。全く」
私は俯きながら苦笑いをした。
「ご、ごめんね」
そう言いながら、声のした方をチラッと盗み見る。
途端に目が離せなくなった。
頬づえをついてふてくされたような顔をする男性。正面からは見てないが、光様にそっくりだった。
(でもこれは現実の世界・・だよね)
椅子から立ち上がり、角度を変えてまじまじと見てしまう。
「な、なんだよ」
頬を染めながらもこちらをムスッとした表情で見つめ返してくる。ドキドキしてしまう。
でも人間だ。普通の。
光様じゃない。
(でもこうもアニメのキャラと似ている人がこの世に–––)
その時、不意に顎を掴まれた。
「そんなに俺の顔見つめて・・・どうしたの?」
不敵な笑みを浮かべた顔が目の前にある。
(ち、近い・・・!)
「うわーい!」
気づいたら偽光様は吹っ飛んでいた。私は震えながら自分の手を見る。
「な、なに?この力は–––!」
そして天を仰いだ。
「こんな厨二まがいな・・・こっ、ここはどこ?私はだ–––」
そこまで言いかけて頭を小突かれる。
「そこじゃないだろ」
我に返り、偽光様を見ると腕を組んでそっぽを向いていた。
「なぜあんなに俺を見つめていたんだ」
「え?」
恥ずかしくなり、下を向く。
「それに俺を殴る時「うわーい」と言ったのはなぜだ?喜んでたのか?嫌だったのか?感情がまるでわからん」
「あ、あれは、ビックリすると出てしまう・・・掛け声的な?」
指を合わせてモジモジしていると、頭上に影が落ち、頭を撫でられた。
「まぁ、お前は変わってるからな。俺のツッコミは収まらんが良しとしよう」
許してくれたことに感動し、顔を上げる。
「許してくれるの?ありがとう!偽光様!」
すると今度は頬を片手で潰される。
「うぶっ」
「偽光様とは誰のことだ」
少し怒ったような顔をしている。
「あ、ごめんなさい。名前が・・その–––」
(思い出せないって言ったら傷つけちゃうよね)
「あぁ、そういえば名乗ってなかったよな」
「え?」
(デートするほどの仲なのに名乗ってない?)
「俺は、響だ」
「響・・様。いや、デートする間柄なのに様はおかしいか。響くん・・響さん・・・うん、響様だ」
腑に落ちないところはあったけど、無理矢理納得し、笑顔を作った。