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破壊不能オブジェクト

「・・・・・・ここは」


何か意識が虚ろになって次に認識したのは踏み固められた道と木々以外何もない場所だった。


「はい、というわけで転生おめでとう。さようなら前世、こんにちは新たな人生、ってところだね」


聞こえてきたのはさっきと同じ何の特徴も見つけられない不思議な声。

一つ違うのはその声の主の姿がどこにもないことだ。


「もちろん僕は哲太郎君のそばにはいないよ。俗にいうテレパシーのようなものさ。まあ気にしないで話を聞いてくれよ」


とは言われてもその頭に響く声は耳から拾っているわけではなさそうなので、俺に拒否権はなさそうだ。


「今哲太郎君がいるのは第5672829033世界、まあ覚えにくいだろうから神聖世界と言おうか。そのとある街道だ。そこから少し歩いたところにそこそこ大きな街がある。さしあたっての君の目標の一つがそこにあるんだけど、今から哲太郎君にはその街のある物を破壊してもらう」


「破壊って――ずいぶんと穏やかではない話ですね」


そういえば世界の破壊って言ってたな、と声の人物がさっき言っていたことを思い出す。


「そのラレスの街の神具、豊水の浄瓶(ほうすいのじょうへい)が目的のブツだ」


「――なんで俺がそんなことをしないといけないのか、理由を聞いたら教えてもらえるんですか?」


「もちろんだとも。まあ強制的に哲太郎君に実行させる手がないわけじゃないんだけど、あくまで哲太郎君が自発的に動いてくれないと何の意味もないからね。ちゃんと説明はしてあげるよ。――と言いたいところだけど、どうやらお客さんのようだよ」


その声で気づいた時にはすでに俺の周りは十人ほどの荒んだ感じの男たちに囲まれていた。

それぞれが剣や槍など武器を持っていることからも堅気でないことだけは確かだ。

――どうやら会話に夢中になりすぎていて周りが見えていなかったらしい。


「おいおい、こんな町から離れた道のど真ん中に若い男、しかも旅をしている様子もねえな、奴隷か?まあどっちでもいい、どうせ今から奴隷に落ちるんだからな」


一際大柄な男が奇妙なことを言うので改めて自分のいで立ちを見てみる。

粗末な服から覗く肌は明らかにみずみずしく、とても八十三歳の老人のものではない。


「あ、言い忘れてたけど肉体年齢を二十台に勝手に戻させてもらったよ。さすがによぼよぼのおじいさんにさせる役目じゃないしね」


再び姿なき声が俺の頭に響く。

いや、肉体的に全盛期になろうが世界の破壊なんて大それたことができるものでもないはずなのだが。


「おいてめえ!無視してんじゃねえぞ!おめえらもぼーっとしてねえでさっさとそいつを捕まえろ!」


どうやら俺に話しかけてきた男がリーダーらしい。

そのリーダーからどやされた子分らしき男たちがにやけ面でこっちに向かってきた。


「ちょうどいい、彼らの相手ついでに哲太郎君が獲得した力について説明していこうか」


「おいてめえ、こっちに来い!」


その場に立ったままの俺の腕を子分の一人が掴んで引っ張ろうとする。

いや違う、掴んだまでは合っているが、まったく引っ張ろうとしていないらしく全然俺の体に力が伝わってこない。


「いや、彼はちゃんと哲太郎君の腕を引っ張っているよ。それも全力でね。でも君の体には何の影響も及ぼせない。それが破壊不能オブジェクトの能力の一つ、絶対存在さ」


「ふんぬぐ~~~~~~!?」


今や俺の腕をつかむ男は顔を真っ赤にしながら両手でつかみ全身で引っ張ろうとしているが、俺にはパントマイムをしているようにしか見えない。

それほど何の力も伝わってこないのだ。


「こいつ、抵抗してやがるのか?もういい、従順になれない奴隷なんぞ厄介の種でしかねえ、殺せ!」


「ずいぶん短絡的な奴だな。――ああ、逃げなくても大丈夫だよ。さっきので分かったと思うけど、ガウ部からの力が一切無効ということは――」


四方八方から斬りかかってくる男たちに対して防御姿勢をとることしかできない俺。

そもそも包囲されていたので逃げるも何もなかったのだが、どうやら声の言う通りそんな必要はなかったようだ。


カンカンキン!


「うわっ!?こいつ、硬いぞ!」「服の下に鉄板でも仕込んでんのか?」「そんなはずねえだろ!俺は足を斬ったはずなのに傷一つついてないんだぜ!?」


「――当然刃物だろうが君の体に傷一つ付けることはできない、というわけだ」


「どけっ!俺がやる!」


そう言って俺に向かってきたのは他の子分たちよりがっちりした男。

他の奴らとは違い、その体にふさわしい大剣で俺に斬りかかってきた。


「まあ人間というものはなかなか有りのままの現実を受け入れられないものだよね。ちょうどいい、今度はただ受けるだけじゃなくて反撃して見なよ。なあに、簡単さ。左右どちらでもいいから君の腕を相手の武器を破壊するって意思を込めながらぶつけるんだ」


無茶なことを言う。

とはいえあの攻撃を受けられるだけの道具もないし、明らかに戦い慣れている男の攻撃に対して回避、なんて芸当も何の武術も学んでこなかった俺にはできそうにない。

どうせ一度死んだ命、と半ば投げやりに声の指示に従って両手を突き出してみる。


キイイイイイイィィィン


先ほどの剣や槍を跳ね返した時よりもさらに甲高い音が辺りに鳴り響いた。

当然肉が切れる音でそんな響き方はしない。

見ると男の手にあったはずの大剣は粉々に粉砕され、まるで宙を舞う砂のようにさらさらと消えて行ってしまった。


「な、なあああ!?」


「これが君のもう一つの能力、万物崩壊。この世界にある君が壊したいと望んで触れた物は全て天に還る」


「お、俺の自慢の剣が――俺は夢でも見てるのか?」


現実を受け止められずに呆然とする男。

しかし一部始終をしっかりとその目で見ていた他の男たちは少しは自分の感覚を信じたようで、おびえた目をしながら少しずつ後ずさり始めた。

ただ一人を除いて。


「てめえら狼狽えるな!単にこの野郎が聖具を使っていただけだろうが!だったら同じ聖具で対抗すりゃあ俺に勝てない道理はねえだろうが!!」


「「「お頭!!」」」


包囲の外に控えていた大柄の男が余裕たっぷりの歩き方で俺に近づいてくる。


「ちょうどいい、最近ザコの相手ばかりで退屈してたところだ。これまで三人の聖具使いを葬ってきた俺の大地のカットラスの餌食になってもらうぜ」


そう言って大柄の男が腰から抜いたのは、幅広の片刃剣。

長さは標準的に思えるが、常人より二回りは大きそうな男には少々小さすぎる気もしないではない。


「へえ、まさかあんなならず者が聖具使いとはね。ちょっと面白くなってきたじゃないか」


・・・・・・もしかして声の主は全て知ったうえでこの場所に送り込んだんじゃないのか?

そんな考えがとっさに頭に浮かんだが、


「いやいや、そんなことはないよ。まあ、確かに知ろうと思えばそれくらい造作もないけどさ、全部知っちゃったら楽しみがなくなっちゃうじゃないか」


――どうやら俺の第二の人生は声の主にとってテレビ番組と同じ扱いのようだ。

しかもモノローグにまで突っ込みを入れられるようだ。

正直ちょっとやりにくい。


「ああ、そうだね。さすがの哲太郎君も心の内まで完全に読まれて答えられると心穏やかではいられないか。了解了解、これからは控えるよ。それよりもいい機会だ。あれは聖具、君の役目に大きく関わってくるアイテムであり、これからたくさん相手をしなきゃいけない相手でもある。幸い聖具はあれ一つだけのようだし、ここでしっかり学んでおくといいよ」


反省しているのかしていないのか分からないくらいに喋りかけてくる声の主に少々呆れるが、俺の方に拒否権はないのは間違いない。

だが、お願いという形でやめてもらえないか交渉するにしても、まずは目の前でニヤニヤ顔のまま迫ってくる男を片付けないとな。

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