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 距離 ~背負う鎌倉の夢の夜に~


 今だけでもあいつの手から逃れてあなたと一緒にいられることが、僕はどこまでも幸せなんだ。

 この幸せな気持ちを、どのようにあなたに伝えたらいいのだろうか。

 歌は苦手ではないけど、得意ではない。それなのに見事な歌詠みのあなたに歌を贈るだなんてことをする気はしなかった。

 あなたはきっと褒めてくれる。そして喜んでくれる。

 あなたが大事にするのは心だということも僕は知っている。


 この艶やかで愛らしい青年に話を聞きたい気持ちが、それもあなたのいないところで聞きたいという気持ちが、そういうわけで僕には芽生えていた。

「好きな人に好きな気持ちを伝えるなんて、そんなこと、聞かれたってわかりませんよ。自分ができていないのに、偉そうに助言をするだなんて無理な話というものです」

 困ったような顔をして、青年は少し後ろを見る。

 そこに立っていたのは、愛おしいあなたと青年の弟なのだという少年。

「とても大切な弟なのですけれど、どうにも信じてもらえていないみたいで……」


 少年は楽しそうに笑っていた。あなたが何かをしているのだと見られるけれど、会話も聞こえなければ、よく見えもしない。

 楽しそうにしているから何よりかな。

「それじゃあ、一緒にどうです? どうせなら女装も一緒にしますか?」

「嫌ですよ」

 即答で反対されてしまった。さて、どこまでを嫌がったのだろう。

「絶対に似合うと思いますのに。というか、私だって好きで女装をしているわけではないのですよ? でもこの姿の私を好きになってくれたのですし、可愛いって言ってくれるから、……結構嬉しいものです」

 僕の言葉を聞いて青年は迷っていた。


 少しして、色っぽさを捨てた明るい笑顔を浮かべる。

「本当ならば弟に可愛いなんて思われても仕方がないはずなのですけれど、興味はあります。女装の評判が悪くないのは事実ですし、事情を知らないから心配しているところもあるでしょうから、かえって安心させられるかもしれません。ふふっ、似合いそうなものを選んでくださいよ」

 こうしていると、まるで僕たちはすっかり女子二人組のようだった。

「何でも似合いそうですけれどね」

 僕が持っている着物に惹かれるところがあるようだったから、できるだけ華やかなものを青年に着つけた。


「驚くでしょうね」

「はい、きっとね」

 僕の言葉に嬉しそうに笑う。


 目一杯おしゃれをした僕たちを見て、二人は驚いた様子で、どこか幸せそうな笑顔を向けてくれた。

「お兄ちゃん、綺麗……」

「そんな可愛い姿、他の人に見せないでくださいよ」

 僕たちのアナザーストーリーは、間違えなくみんなが幸せだった。


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