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 距離 ~背負う鎌倉の夢の夜に~


 思わず惚れてしまいそうになるような美男です。

 私は好色な方ではないと思うのですけれど、こうも奈良の都にさえいなさそうな優美なる美男ばかり出て来るものですから、惹かれてしまいそうになるのです。

 どうやら、私の力が及ばない世界があるというようでした。

 奈良とは違う田舎の方など、人間らしい人間がいはしないと考えていたのですが、これならば開発するのも悪くないと思えました。

 それほどの権力者はやはりいないようですし、私の支配域を広げるいい機会です。


 美味な菓子を頂きつつ、私は話を聞くことになりました。

「まあ素敵、こんなに美味しいものがあっただなんてっ!」

 この私がそういうわけにはいきませんのに、思わず立ち上がって称賛をしてしまいました。

 褒めるだなんてことは、相当の褒美でなければ差し上げませんはずのことですのに。

「そこまで喜んでいただけるとは、私も嬉しいです」

 にっこりとまっすぐな笑顔は愛らしくて、弟の少年も含めて翳りなど少しもないといったご様子でした。


 取り引きらしきことをこの人もまた持ち出してきました。

 私と会ってお話をなさる人は、どうしてもみなさんそういうものなのですね。

「この店で最も甘くて高額の商品、聞きましたよ」

「申しわけございません。常連客専用の裏メニューですので、通っていただくか、推薦があってのことしか認められません。店頭でのご注文はできないのです」

 今すぐにほしいと言っているのに、私ですら許されないとは驚きました。

 通うとはまた面倒なことを言います。

「買えないんですか?」

 意味深げに彼は笑って言いました。


「いえ、買えなくはありません」


 夢中にさせられそうな優しさです。

 購入のできる愛があるとしたら、ああ、これのことなのだと思いました。

 私に媚を売る人はいくらもいますけれど、これだけ本物の姿をしてくれる人は見たことがありませんでした。

 貢ぎたいと思わせる魅力があることを認めざるを得ませんね。

「どうしたら……」

 尋ねようとした私に曖昧で悶えそうな答えをくれました。

「当店を愛してくださる大切なお客様を、無碍にするようなことはできませんね」

 ああ、卑怯な人でした。


 後ろにいらっしゃる弟さんはどうなのでしょう。

 この人ほどの艶めかしい美しさはありませんが、子どもらしい愛らしさのようなものがあるように思えました。

「そちらは商品ではありませんの?」

 ちょっと私が尋ねただけのことですのに、花の笑顔が一瞬で消えました。

「私物ですので、いくらお客様でもお触れいただくことはできません。絶対に、手を伸ばすようなことはなさらぬように」

 急に鋭くなった目つきは、従わせる力を持っているようでした。

 私と同じ、けれど私よりも更に強い、その力です。


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