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 恐怖 ~強くなれずに弥生の時を~


「なしてやっちゃはんなことしたぁんだべ。外さ出んじゃったら、うだうだしちまうに思うだべが。家ばよかものじゃったし、歩いとるよりゃいつだって雨もだいじんですげかけんど、うんじゃってすんもんだべ」

 僕の感情が零れたような感想を聞いて、その少年は困っていた。

 それと、僕のことを強く睨み付けていた。

「……英雄ってのは、不遇の時代があるものなのですよ」

 ボソッと答えたようだった。


 英雄というのがどういうものなのだか、僕にはよくわからなかった。

 しかし彼が何か目標に向かって努力している途中として、家の中に引き籠もって過ごすことを余儀なくされているのだとしたら、僕の感想はどれだけ失礼なものだったろう。

 外に出たくないだとか、そんなはずはないのだから、考えてみれば当然だった。

 必死に探してその日その日に生を求めなくても、食べ物が簡単に手に入る素敵な世界ではあるけれど、そうした僕にはわからないような問題があるのだろう。

 幸せだからそれでいい。

 彼女と一緒にいたい、それだけの望みのためにどうなることも厭わない。

 ただそれでいられるような優しい世界ではないということなのだろう。


 難しい顔をしているこの人が、どのような難しい悩みを抱えていることか。

「…………なんなんですか、その眼は。出て行ってもらえます? ……あんたみたいなの、すごく嫌なんですけど……」

 彼の顔を覗き込んでいると、そのようなことを言われてしまった。

 随分と僕に苛立っているようだった。

「集落からも外れてたくらいなんに、繊細な人さと会っても悪かろ。離りゃぁしょう」

 妙に都会じみた喋りで、君はそう言ったのだったよ。

 君は僕が嫌になってしまったのだろうか。それが怖かった。


 君は離れるべきだと言っているのだし、僕だってそうするべきだと思っている。

 けれどいつもと違った様子の君のことが気になって、ここから動く気がしないのであった。

 またいつもの君に戻ってしまう、場所が変わったら君は君らしい、僕が思い描いているような君になってしまうような気がした。

 それは喜ばしいことだけれど、今の君の変化の理由が、この謎がわかってからでないと、僕はそうしてしまいたくはなかった。

 立ち尽くしていた僕に、一つ再び声が届いた。

「馬鹿にも種類がいるってことですよ。そちらだけが馬鹿とも限らないのです」

 彼の言葉の意味は、僕にはさっぱりわからない。



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