表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/274

11、12



 忠犬 ~奈良の主はだぁれ?~



 夢大陸 ~届かない平安を求めて~


 研究しているのは基本的に明治や大正期の文学だわ。

 だから貴族文化とかはよくわからないのだけれど、和歌に興味があるところはあった。

 あの人と別れて、生まれ変わってからはあまりやらなくなったけど、以前の私はゲームが好きだった。

 その中に、そういったものも多くあったことが関係しているのかしらね。


 人を惚れさせるような「うた」というのはどういうものなのだろう。

「下手だと思うのですけれど、私もう何か詠んでみて構いませんかしら。何かアドバイスしてくださいまし」

 今じゃなくっちゃ触れ合う機会なんてなさそうな人だもの。

 積極的な私が出てきて、たくさん話したくなったわ。

「何か、それらしい雰囲気を出してみたのですけれど、いかがですかしら」

 恥ずかしながら私は一首渡してみた。


 プロフェッショナルと言えるような方に、採点をしていただけるなんて素敵。手直しも加えていただけたら、もっと素敵ね。

 姫君はにっこりと笑った。

「素敵ではありませんか。私が何か言うまでもありません。そもそも、私があまり詠める方ではありませんし、偉そうなことは言えませんよ」

 私が詠んだのは、未練が残った「忘れ貝潮垂る裾は乾くまじ いかでか見えむ有明の月」というものであった。


 ちょっと大袈裟だけれど、そういうものよね。

 開き直ってるようなことでも雰囲気が出るのかしら。

 知識もなくイメージだけだから、ずっと泣き続けて涙が止まらない、みたいにしてみたんだけど……。

 なんとなく、なんとなく、和歌はそういうものだと思ってて。

 私があの人のことを愛していて、忘れられなくて、泣き暮れた日々があったことは事実だもの。


 月下のダンスも懐かしいわね。

 昨日から今日にかけて、たった数時間で考えたものだけれど、私が思っている以上に気持ちが入っているかもしれないわね。

 殿方も躊躇いながらも部屋に入ってきた。

 常識の点で差があるから、女性である私の顔を見ないためにも、入ることを拒んでいたらしい。

 姫君が「私も男なのですが、それをお伝えした上でこれです。やはり文化が異なるということでしょう。入っていらしたら?」と誘ったことで、そうすることにしたらしい。


 それこそ文化の差だから、強要するつもりはなかった。

 私が顔を見て話したい人なもので、相手も話したいと望んでいる様子でもなかったから、姫君と話をさせてもらえることを喜ぼうと思ったの。

 だけど姫君がここにいるからか、入ってきたくなっちゃったのね。

「甲斐もなし潮垂るる裾の乾く間も、いかでかあらじ後朝きぬぎぬの月。咄嗟で悪いのですが、どうでしょうか。元の歌も素晴らしいと思うのですが、潮垂るはやはり違和感が、でもそれ以外は完璧ですよ」

 見て数秒で直してくれるのだから、本当にすごいと思う。


 気を遣って褒めてくれているのに、そこだけ言われたということは、文法的な問題なのかな。

 詳しくないから何か間違えていたのだろう。

「嬉しいですわ。ありがとうございます。とても、とても嬉しゅうございます」

 姫君も殿方も接しやすい方で、親しみやすい方で、話していると楽しくなる。

 今度から、貴族文化とかも研究してみようかしら。

 百人一首とか、万葉集とか? わからないけど、わからないからこそ、楽しそうというのもあるものね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ