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3-2


 本物の桜の花は咲かないけれど、僕たちの桜はこれでも十分に桜だから、僕は桜の絵を描いた。大きな桜を部屋に用意した。

 美しい桜を前にして、一度彼女を喪って、様々な世界の人と出会って、改めて僕は思わされた。

 彼女はきっと桜そのもの、桜の化身なのだろう。

 愛している。この気持ちばかりが大きく膨らんでいった。


「お花、とってもきれいだね! それに、ママもパパもきれい! なんかお花みたいだもん」

 想桜ちゃんがそんなことを言うものだから、僕はギョッとして戸惑った。

 そのピュアな瞳にも、彼女の姿は花であるように見えているのだろうか。

 まっすぐで純情な瞳にも、穢れを知っている僕の瞳にも同じように映っているということは、それは間違えのない事実であり真実なのだと思えた。

 彼女は花なのだ。

 けれど更に戸惑ったのは、そこに僕も並んでいるというところだ。

 彼女は花である、その隣にいる僕もまた花であるらしい。


 彼女の影響を受けすぎてしまったのかもしれない。

 そもそも、そうでなければ僕が想桜ちゃんをこうして一人で育てられようはずがないのだ。

 子どもを愛でるなんてことは僕にできることではないはずなのだ。

「ありがとう。それじゃあ、想桜ちゃんもお花だね。それに想桜ちゃんのお名前の漢字は、桜のお花が大切って、そういう意味なんだよ」

「知ってるよ! 想桜のお名前、桜って書いてあるんだよね」

 彼女に想桜ちゃんは元気いっぱいで答えた。


 この二人がこうして話している姿を見られることになろうとは。

 どうしよう。泣きそう。本気で泣きそう。

 愛おしい妻と子が、二人が幸せそうに会話をしている姿を隣で見ている、それを越える幸せなどが存在するだろうか。

 僕は駄目だ、うっかり永遠を望んでしまいそうになる。


 復活した彼女は神になった。そう、一度死んで生き返れば神になれるのだ。

 そういうわけで彼女の儚さが薄らいで、感じていなかったはず、あるいは感じないようにしていたはずの永遠を、望み信じてしまいそうになるのだ。

 大きすぎる望みは幸せを幸せから遠ざけてしまう。

 今が特別な幸せの瞬間なのだから、今だけを見て、終わりなどないとその瞬間だけでも信じて楽しみたいものなのに、そこで無邪気になれない僕は愚かだ。

 終わりに訪れてくれるなと望んでしまうのは、終わりがあることを知ってしまっているからだ。

 だから決して望んではいけない。僕が信じている、その限り。


 動きなどありようはずもないのだが、桜の花が少しずつ散っているように見えた。

「ねえ、抱き締めてはもらえないかな。私が想桜ちゃんを抱き締めて、あなたが私を抱き締める、いけないかしら?」

 既に想桜ちゃんを抱き締めている彼女に可愛くお願いされた。

「二人とも、僕が責任を持って守るからね。僕の大切な家族よ」

 腕を回して抱き締めた。

 二人分の温もりを、僕は全身に感じた。


 視界が花吹雪に巻き込まれて、上手く前が見られなかった。


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