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最期 ~花の微笑み~
まさかこんな道があるとは思わなかった。
そうだ。順番なんだから、当然といえば当然だろう。
だけど一周をして、自分のところへと帰って来られるだなんて思ってもみなかった。間違えなく僕たちの物語、同時にパラレルワールドでもあるもの。
こんな世界が舞台になることを僕は考えていなかった。
僕がいて、彼女がいて、想桜ちゃんがいて。
これは現実にはありえなかった世界なのだけれど、現実とはまた違った現実を持つこの世界ではありえてしまうそんな夢。
四月一日から四月二十七日まで、二十七部もの猶予を用意されていることをありがたがらなければいけなさそうだ。
僕と彼女が歩んだ日々が、一月そのものを乗っ取ったことが、こんなところで僕に幸せを齎してくれるとは思いもしなかった。
パラレルなワールドであることを受け入れるだけで、なんと素敵な企画なのだろう。
やっと一周をしたというところで、残された日はもう多くはない。
こんなことなら最後のために時間を残しておくべきだったとも思うけれど、そんな下心のために動いていたのだとしたら、こんなサービスはなされなかったことだろう。
そうであるからには、僕にできることと言えば、喜ぶということくらいなのだろう。
彼女と会えたのだということを、喜びありがたがり、この幸せを噛み締めることばかりが全てなのだろう。
それほど幸せなことはない。
どうせなら、桜の季節だったなら。
家族三人で花見をする、叶いそうにもないそんな夢が叶う瞬間がもしあったとすれば、それはどれほど素敵なことだろうか。
どうせありえないことを叶えてくれているのだ。序でに桜の花くらいは、咲かせてくれたらどうなのだろう。
今だけの特別な幸せだから、高望みもしたくはないけれど。
話したいこと、伝えたいこと、言いたいことは山ほどあった。
それでも実際に彼女が傍にいてくれると、言葉なんてものは溢れては来なくて、代わりに気持ちでいっぱいになって、僕は幸せでこの沈黙を楽しみたいと思ってしまうのだ。
彼女の手を想桜ちゃんが握った。
「ママ?」
疑問符は残りながらも、ほとんど知らないはずの彼女のことを想桜ちゃんは「ママ」と呼ぶ。
僕から向かう愛を、想桜ちゃんなりに感じ取ったのだろうか。
嬉しそうな笑顔で彼女は想桜ちゃんの手を握り返す。
「そうよ。ママ、ママよ」
泣き出しそうな彼女の声の理由を想桜ちゃんは知っていたのだろうか。
優しい想桜ちゃんならば、心配そうな顔をして人を幸せにするその温もりを分け与えてくれるものなのだけれど、それどころかにこやかな表情で彼女のことを見ていた。
涙が哀しみばかりではないということを、想桜ちゃんは既に知っているらしい。




