表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/274

2-1



 矛盾 ~刹那の永遠~


 彼女のその儚さは、僕に永遠という夢を見せようとはしてくれなかった。

 そんな夢など最初から見たくもないし、長く続けば続くほど、それは苦しいものなのかもしれない。終わりが怖くなるというものかもしれない。

 永遠を意識すればするほどに、無常観というのは僕を襲ってくるに決まっている。

 それなら最初からそれを美しいと頭に持っていたものだから、僕は彼女が去ることを受け入れることができたのかもしれない。

 本当に全てを受け入れられているかは、また別としてだけどね。


 それでも僕は間違えなく前に進もうと思えている。

 それでも僕は間違えなく前に進んでいる。


 幸せにありながら、幸せが必ずどこかで終わってしまうのだということを恐れて、幸せを喜ばず嘆き暮れるというのは、どこまでも幸せな悩みだろう。

「喪うということは、そうもどうにも辛いものですか」

 尋ねられて僕は困る。

「それは、……どうでしょう。死という恐怖に当たった方や、実際に僕と同じように大切な人を喪った方、ひどい無常観に駆り立てられているような方、ええ、同じように尋ねてくださいました。けれどね、僕が彼女を大切に想っていたことは、僕にとって彼女が全てだったということは事実なのですけれど、喪失感によって辛くてどうしようもないということはないのです。僕はただ、今は今で幸せです、としか」

 僕の答えが何を示しているのだと伝わったことだろうか。


 いかにも文化人と言った様子で、それもまたいかにも身分の高そうな人物で、つまりは何を言いたいかと言えば、その心が一切読めないのである。

 その瞳に映る光は、白い月のように世界を怪しく照らすようだった。

 彼は、自らの存在そのものを過ちとして捉えているかのようなのだ。

「残された時間を大切に生きたいのですよ」

 何を言っているのかさっぱりわからない。そういった反応だ。

 余程、変化というものを恐れているのに違いない。


 何か少しでも状況が変わることにより、彼に何かとんでもないような不利益が齎されるということをも、彼は知っているのだろうか。こうもまで恐れるほどに知っているのだろうか。

 だとしたら、彼は知り過ぎてしまっているのかもしれない。

 無常観を抱くということもまた、彼が知っている人間だからできることでしかない。

 そういうものであることも、彼は知っているのだろうか。

 どこまでを認識した上で、聡明な顔を歪ませているのだろうか。


 本の良さも勉強の良さもわかるつもりであるから、僕としても知識の浅い方ではないだろうけれど、哲学的な話については本当に知識そのものだ。考えに発展していない。

 考えを伴わない知識ならば、それは暗記でしかないのだから、コンピューターに劣る何かとしてそこにあるだけだ。その先に考えがあるから、人間の脳である意味がある。

 そこまでを理解した上で、僕には理解に至らない科目がいくらかあった。

 彼が悩まされているような恐怖は、僕にとってそこに位置づけられるものでもあったのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ