2-1
矛盾 ~刹那の永遠~
彼女のその儚さは、僕に永遠という夢を見せようとはしてくれなかった。
そんな夢など最初から見たくもないし、長く続けば続くほど、それは苦しいものなのかもしれない。終わりが怖くなるというものかもしれない。
永遠を意識すればするほどに、無常観というのは僕を襲ってくるに決まっている。
それなら最初からそれを美しいと頭に持っていたものだから、僕は彼女が去ることを受け入れることができたのかもしれない。
本当に全てを受け入れられているかは、また別としてだけどね。
それでも僕は間違えなく前に進もうと思えている。
それでも僕は間違えなく前に進んでいる。
幸せにありながら、幸せが必ずどこかで終わってしまうのだということを恐れて、幸せを喜ばず嘆き暮れるというのは、どこまでも幸せな悩みだろう。
「喪うということは、そうもどうにも辛いものですか」
尋ねられて僕は困る。
「それは、……どうでしょう。死という恐怖に当たった方や、実際に僕と同じように大切な人を喪った方、ひどい無常観に駆り立てられているような方、ええ、同じように尋ねてくださいました。けれどね、僕が彼女を大切に想っていたことは、僕にとって彼女が全てだったということは事実なのですけれど、喪失感によって辛くてどうしようもないということはないのです。僕はただ、今は今で幸せです、としか」
僕の答えが何を示しているのだと伝わったことだろうか。
いかにも文化人と言った様子で、それもまたいかにも身分の高そうな人物で、つまりは何を言いたいかと言えば、その心が一切読めないのである。
その瞳に映る光は、白い月のように世界を怪しく照らすようだった。
彼は、自らの存在そのものを過ちとして捉えているかのようなのだ。
「残された時間を大切に生きたいのですよ」
何を言っているのかさっぱりわからない。そういった反応だ。
余程、変化というものを恐れているのに違いない。
何か少しでも状況が変わることにより、彼に何かとんでもないような不利益が齎されるということをも、彼は知っているのだろうか。こうもまで恐れるほどに知っているのだろうか。
だとしたら、彼は知り過ぎてしまっているのかもしれない。
無常観を抱くということもまた、彼が知っている人間だからできることでしかない。
そういうものであることも、彼は知っているのだろうか。
どこまでを認識した上で、聡明な顔を歪ませているのだろうか。
本の良さも勉強の良さもわかるつもりであるから、僕としても知識の浅い方ではないだろうけれど、哲学的な話については本当に知識そのものだ。考えに発展していない。
考えを伴わない知識ならば、それは暗記でしかないのだから、コンピューターに劣る何かとしてそこにあるだけだ。その先に考えがあるから、人間の脳である意味がある。
そこまでを理解した上で、僕には理解に至らない科目がいくらかあった。
彼が悩まされているような恐怖は、僕にとってそこに位置づけられるものでもあったのだろう。




