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 桜 ~手の届かない花~


 世が乱れているから、文化人やら聖人やら、あとは芸術家と言ったろうか? そう言った人々が桜を特別に愛でるというのだろうか。

 僕が生きている平和な世でも、そこで望まれているような束の間の休息、都合の良い平和の中でさえも、桜は宗教的な美しさを誇っている。

 別段、僕は桜が好きな方ではあるけれど、桜が好きな人はいくらもいると思う。

 多くの人が桜を愛しているのだろう。


 桜の化身というのは、まさに彼女がそうなのではないだろうか。

 人と会うことが少ない彼女と僕が巡り会うことができたのは、僕が桜を愛していたからなのではないだろうか。桜が僕のもとに彼女を送ってくれた。

 いいや、化身というのだから違うな。

 僕が桜を愛でるうちに、桜の方も人型になって僕と言葉を交わせるよう目の前に現れてくれた。

 だから彼女はああも儚く消えていってしまったというのか。

 儚く、儚く、消えてしまったというのか。


 平穏のなさを表すかのように咲いては散って、忙しなく時を過ごし、そうでありながらも毎年律義に花を咲かせるその桜の姿に、僕は魅せられる。

 それは必然だ。

 その必然を叶えるために、彼女は僕の前に存在したのだろうか。

 それは勝手だ。

 わかっている。僕のひどい傲慢な考えだ。

「想桜ちゃん、春になったら桜が咲くよ。そうしたら、また今年も一緒にお花見に行く?」

「うん、行くよ。想桜は桜が咲いたら、絶対にパパと一緒にお花見行くもん。絶対、毎年だからね!」

「そうだよね。知ってる、約束したもんね」

「そうだよ! パパと想桜で約束したもんねっ!」

 不安になった僕にいつだって想桜ちゃんは明るく優しくそう言ってくれる。


 約束したもん、そうだよね、大丈夫だよね。

 毎年、桜が咲いたら僕は想桜ちゃんと一緒にお花見をするんだ。毎年、絶対に。

 この可愛い想桜ちゃんが大人になってしまったとしても、僕の隣にいてくれるだろうか。可愛い想桜ちゃんだからこそ、成長を妨げるような父親ではありたくない。

 それこそ、縋ってばかりではなくて、まずは僕が大人にならなければならないことだろう。

 だけどこの優しい想桜ちゃんにも、反抗期が存在するのかと思うと、今から僕は不安でならないのだ。

 成長過程として必要なものだとわかっていても耐えられそうにない。


 自分の反抗期の影響で、傷付いた父親が鬱病を患うことになったとか言われたら、とんでもなく重苦しい迷惑なことだよね。

 そんなことにはなってしまわないよう、僕も今のうちから覚悟を決めておかないといけないな。

 想桜ちゃんの成長は、僕にとっての幸せには決まっている。


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