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残されたのは僕もこの女性も同じことだ。
大切な人を奪ったものは随分と違っているものにしても、結果としては同じことだ。
慰め合うのも悪いことではないのかもしれないけれど、生半可な気持ちで励ますような言葉を口にできようはずがなかった。
僕が彼女のことに気軽に触れてほしくないと思うところがあるのと、その点でもまた同じなのだろうと思えたからだ。
「生きる責任を押し付けられたような気分になることは、ないではありません。というか、僕が一人で想っているときには彼女は大切でしかないのですが、あなたと会ってしまってから、そんな感情が顔を出してしまったのです」
新しい恋の芽生えなのかな、なんて言ったら二人にとっての損だ。
大切に想っていた人は、大切に想ってくれていた人は、もう二度とは会えない人だ。
この世にはいない。いなくなってしまった。
二人の共通点がこんなにもあるものだから、心の穴を埋め合って、傷を舐め合っていたいなんて幻覚を見てしまいそうになるのだ。
そんな勘違いの過ちを本物だと信じることはどちらとしてもないだろう。
女性はいかにも大切と言った様子でノートを抱えている。
対抗心なのか、僕は想桜ちゃんをぎゅっと抱き締めた。
僕にとっての想桜ちゃんは個としての愛を注ぐべき可愛い可愛い子どもだ。
彼女が残してくれたから云々だけではなくて、想桜ちゃんとして僕は大切に想っているに決まっている。
大切だ。愛している。想桜ちゃんへの愛を僕は持っている。
だけどその愛を「彼女の形見」としてのものだと判断してしまいそうな僕もまた見付けられた。
女性の抱えているノートと、同じような気持ちしか向けられていないのかもしれない。
「戦争というのは嫌なものよ。だれも幸せにはならないの。それなのに、教育というのはなんとも恐ろしいもので、それを善のように思い込ませることもできるというのだからわからないわよね」
正義だと僕が思い込んでいるものも、教育によって洗脳された、だれかの意図によって埋め込まれたものなのかもしれないということか。
意志はいくらだって操れる。
それなら僕は、なんのために文章を書くのだろう。
負うべき責任を考えたのなら、学者というものとは近くはなくとも遠くもないものだから、この女性が想っている彼と同じ結末を辿らされることもありえない話ではないのか。
彼女はいない今だけれど、想桜ちゃんのことを僕が守らなければならない。
僕には責任を持つべき大切な人がいるのだ。
置いてなど行けようはずがない。老いていくことまでも拒みたいくらいだ。
大切な人を置いて遠くへ逝ってしまうのはどのような気持ちなのだろう。
残された僕には残された辛さしかわからないけれど、どちらも経験したことがあるという人に話を聞いたことなどないのだから、どちらを辛いとも判断しかねた。
「一緒にいる時間というのは貴重なもので、どうにも全てが上手く行ってはくれないのだから、苦しいものですよね」
「ええ、そうね。悔しいこと」
呟きを返してくれたが、その中に口で言っているような悔しさは感じられなかった。




