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最期 ~花の微笑み~
いっそ死んでしまったら、そんなことまで私は考えてしまうの。
あの人のことを愛しているのに、最低な私がいてしまうの。
本当にあの人に死が迫っているって聞いたら、私、どうするのかしら。
よかっただとか、幸せだとか、そもそも受け入れられるとも思えない。
大切な思いでさえ否定してしまいそうよ。
「子どもがいるのは素敵なことですわね。孫を見せておくれと言われておりましたけれど、嫌だと私が拒んできたのは、あの人と暮らしていられると思ったからですのに……」
何をしたって私からあの人は出て行こうとしてくれない。
忘れようとすればするほど、私の心に満たされていくのは春佳さんの名前ばかりなの。
私を呼ぶあの優しい声ばかりなの。
いつまでも私は縛られているわ。
縛られていて、人に当たり散らすの。
そういう私だから神様は微笑んでくれないんだっていうのに。
「僕だって彼女と一生を共にしたかった、寄り添いたかったですよ。僕には三月さんの気持ちはわかりませんし、三月さんにも僕の気持ちはわからないわけですが、残されたという意味では同じだとは考えられませんか? 確かに、子どもがいてくれるから救われているところはあるでしょう。お節介かもしれませんが、僕は三月さんにも何かを見つけてもらいたいです」
視線をぐるぐると回して、信じられないくらい泳がせながら、私にそうやって言ってくれるの。
みんな悲しんで苦しんで、それでも強く生きている。
それなのに私だけ悲劇のヒロインを気取って、八つ当たりをするなんて許されるはずがないわ。
立ち直って歩き出さなくちゃいけないとわかっているの。
「何かって言われても、私の頭には今まであの人のことしかありませんでしたの。お勉強は好きなようにしておりますし、実家に帰りましたからお金の問題もありませんけれど、お仕事もしていないで趣味だってありませんのに、何が何になるっていいますのかしら」
苦しくってならなかった私の足元に何かが触れた。
驚いて下を見ると、小学二年生くらいの子どもが、私のスカートを小さな手で握っていた。
「パパを苛めないでください。パパは寂しがり屋さんで、ほんとはとっても優しい人なんです。想桜がパパを守るからね!」
彼が話していた子どもね。
「苛めているわけではありませんのよ。子どもがいらして、羨ましいと言っていただけで」
「ありがとう想桜ちゃん、大丈夫だからあっちで遊んでおいで。そうだよ、パパは苛められているわけではないからね」
きっと私の嫌味らしい物言いは子どもにも伝わってしまっていたことだろう。
大好きな父親にそう言われたから、走り去っていった。
子どもがいたら、ね。
それはもう叶わないだろうことでも、何かを探すことは私にもできるかもしれない。
どれだけ凹んでいたって何もできないものね。
私だって強くならなくちゃ。
甘えていて、心配させるばっかりで、私は子どもじゃないんだから。