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 夜酒 ~君の香りに溺れて酔うも酒の所為か~


 もし想桜ちゃんがいてくれなかったなら、僕も酒に頼るようになってしまっていたのだろうか。

 彼女がいないことを悲しんで、哀しみだけに包まれて日々を過ごしていたのだろうか。

 彼女の面影を、彼女が残してくれたものを探しては、たった独りで孤独とともに生きていることになってしまっていたのだろうか。

 だけど彼女はあれだけ美しく散ってくれたのだ。

 最期の姿を僕に見せ付けてくれたのだ。

 あれだけ焼き付いているんだ、彼女の感情も愛情も全て……


 帰りを待っているだなんてことは、僕は間違っても言えないな。

 彼女が息を引き取る姿を、はっきりと僕は見てしまっているのだから。あの美しさを否定することが、僕にできるはずがないのだから。

 でも思わないではなかった。

 彼女が子どもをほしがったのは、僕のためだったんじゃないだろうかと。


 そんなものは自惚れかもしれない。

 そうだけれども、今でも尚僕の愛が生きていて、僕が充実した今を生きられていることは、明らかに想桜ちゃんのおかげだ。

 彼女の後を追って、一時も離れず彼女と一緒にいる。

 そういった素敵な夢を追い掛けてしまうことにもなっていたかもしれない。

 絶対に彼女が望むことではないとわかっていながら、それでも生きていることで、そこに自分の居場所を見出すことはできなかっただろう。

 想桜ちゃんの笑顔に浄化してもらわないでは、いけない、また寂しくなってしまいそうなところだった。


 酒なんて呑んでしまったら、酒なんかに頼ってしまったら、僕は朦朧とする意識の中できっと彼女と出会うだろう。

 そうして依存していくのだ。

 麻薬のように、快楽がそこにしかないのだと勘違いして禁断症状を起こすのだ。

「寂しいでしょう、そうでしょう。当たり前に傍にいてくれた人が、当たり前に幸せであれた日々が、一瞬のうちに消えてしまうのです。そうしてもう、もう二度とは、現実に姿を現してくれることはないのですから。せっかく再び会えたとしても、気付くとその夢は覚めている、気付くとそれはひどく虚しい幻で、あんまりに儚い幻想で、気が付く度に失うのです。ああ、そうでしょうよ、それはとても寂しいことです」

 これはこの人に向けるべき言葉ではない。理解はしながら僕は呟いた。

 自分で自分を制御することもできないでいた。


 幸いと言うべきか、やはりそれは控えるべきか、僕が思ったほどは彼に傷付いた様子はなかった。

「虚しい、儚い、そのとおりだ。もうすぐ喪うことがわかっていたということは、準備期間があるという点では幸せかもしれないけれど、やはり寂しさは長いものだろうね。一概に、僕の方を不幸だと決め付けて嘆くのは違っていよう。そうなのだけれど、悲劇のヒーローっていうのかな、気取ってしまいたくなるよ」

 どこか遠くを見つめて彼は言う。

 そうして不味そうに酒を呑み干した。


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