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 愛 ~それは偽りでも~


 彼女を喪ってしまったあの日のことを、僕は何と呼ぶだろう。

 彼女が失われたあの日も、他の日と同じ日だったと言えるだろうか。

 もし彼女と過ごした日々が、彼女と交わした愛が、偽りだと言われても僕は生きていけるのだろうか。

 彼女を否定されて、僕は僕でいられるものだろうか。


 愛に偽りと言うものがあるのだとは信じられなかった。

 偽りならばそれは愛ではないのだと、何も知らない無垢な幼稚園生の頭で僕は信じているんだ。

 それが僕たちの関係性だった。僕も彼女もそうだった。

 彼女は最期まで大人にならない道を選んだ。

 子どももいるからには、頑なにそうとばかりはいられないのかもしれないけれど、きっと僕も彼女と同じ道を選ぶ。

 僕の場合は、大人になろうとしてもなれないのだから、選んで選ぶものでもないか。


「パパ、どうしたの?」


 僕がしっかりしていないせいか、想桜ちゃんはしっかりしている。

 そんな想桜ちゃんにしては珍しく、甘えた声で体を摺り寄せてきた。

 心配そうに僕の方を見て尋ねてくれる。

「どうもしない、どうもしないよ。ちょっとばかり、ママのことを思い出してね」

 こんなことを子どもに言うなんて、親として駄目だな。

 慰めてあげるべきなのは親である僕だろうに、本当に想桜ちゃんはしっかりしているな。


 僕がこんなだから、子どもらしくわがままも言えないのだから可哀想だ。

「優しい想桜ちゃんは僕が悲しんでると思っちゃったのかな? 心配しなくて大丈夫だよ。寂しくなってもいるけど、僕は今、とても幸せなんだ。想桜ちゃんといられることも、彼女のことを思い出すことも、幸せなんだよ。だから心配はしなくて良いんだ」

 理解ができているようには見えなかったが、僕の幸せが伝わったのか、想桜ちゃんはにこっと嬉しそうに笑った。

 この幸せが愛だ。

 やはり愛に偽りというものがあるのだとは、僕には信じられなかった。


 自己愛が過ぎる僕だから、他人に愛を注がれることを過剰に求めはしないのかもしれない。

 僕は間違えなく愛している、彼女のことも、想桜ちゃんのことも、僕自身のことも。

 はっきりとそれを言いきれるから、僕は愛を真実だと言いきれるのかもしれない。

「想桜、パパのこと好き!」

 飛び付いてくれた想桜ちゃんが可愛くて、自分本位な人にのみ偽りというのは降り注ぐのだと僕は確信した。


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