月 ~月がまっすぐに光るとき~
主人公は集団に所属するたびにずっと苛められっ子になってしまっていた。どのような集団の中でも、彼は孤立していた。
国として「悪」というのが決められていたような、「大多数」が「正しい」と決めつけられていたような時代のことなので、それは必然的に起こる苛めでもある。
苛められることに慣れるあまり、主人公の心はすっかり死んでしまっていた。
そんな主人公が辛うじて自殺を思い止まっていたのは、彼にはお気に入りの場所があったからに他ならない。
それは、森の奥にある湖だった。有名な場所ではないけれど、月が映って青く輝く幻想的な場所だった。
幻想的な景色に魅せられた主人公はその湖が何か力を持っていると信じ込み、満月の夜に湖に行っては祈り願い、汲んだ水を”御守”として持っていた。
主人公が苛めっ子たちに言い返すこともやり返すこともなかったが、”御守”に目を向けられたときだけ全力で抵抗した。
それは満月に僅かに満たない夜のこと。
湖の方へと走り出す主人公を苛めっ子たちが追い駆ける。恐怖心からか信仰心からか、思い込みの強さで主人公は少女の幻覚を見た。
そして気付いたときには苛めっ子たちを湖の中に突き落としていたのだ。
泳いで上がろうとした子たちも蹴り飛ばし、番人かのように湖の前に立つ。
主人公がハッと正気を取り戻したときには、苛めっ子たちの姿はもう湖の底だった。
「湖の神聖な力が」怖くなって逃げ帰った主人公。
村の人たちに保護され苛めっ子たちは事故死として片付けられたが、結局、その子たちがいなくなったからといって何かが変わったわけではない。
新しく所属する集団の中でも、変わらず主人公は苛められっ子として生きていく。
幻想に縋らなければ生きていけないほどに心が傷付いているということにも気付かず自分が何をしたかにすら気付かないままに生きていく少年の物語。
場所の中心は森の奥にある神聖なる湖と主人公が呼んでいる湖。
男性 一人称




