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初心 ~初めてだから~
この二人は穢れを嫌い純情を貫き続けたのだろう。
もし僕が世間と隔離されて生きることになってでも、初恋を大切にし続けることになっていたとしたら、僕もこのようになっていたのだろうか。
だれだって初恋を乗り越えて、そういった経験を乗り越えて、僕たちは大人になっていっているのだろう。
大人になることを拒まなければならないほどに弱かった場合のみ、その人の時間は止まり、世間には着いていけなくなってしまう。
僕は一般的だったのか、器用だったのか、こんなにも君のことを今でも大切に想っているのに、普通に生きていけるんだ。
君のことを忘れたふりをして普通に生きていくことができるのだ。
いつだって家族のことを大切に想っているし、今更君に出会ったとしても何というわけでもなく、僕にとって守るべき相手は家族だけだ。
あくまでも僕にとっての君の存在は想い出として輝いている。現代、現実と重なってはいけない想い出。
もしかしたらこの二人は心の中で輝いているはずだったものが、現実と結びついてしまったのかもしれない。
そのせいでこれほどのことになってしまっているのではないだろうか。
幻は幻と切り離して、それを心の奥にきれいに収納することができなかったから、それが現実に重なるまで粘り続けてしまったから。
それはだれにとってもありえなくはない、無邪気な欠陥だった。




