9
死後 ~受け継いできた古墳~
亡くなってしまった彼女に僕は触れられるのだろうか。
僕も向こう側へ行ったなら、僕も逝けたなら、また彼女の隣に立てるのだろうか。
それはとても恐ろしいことで、それはとても夢のあること。
もう一度彼女と話せるなら、どれだけ僕は救われるだろう。
いなくなってしまった彼女にどうしたら僕は、考えないではいられないではないか。
彼女が残してくれたものはいくらだってある。それは全て大切だ。
想桜ちゃんのことは、彼女が残してくれたものだからとかではなくて、想桜ちゃん本人のことを、個人として僕は愛している。
代わりではなく、愛している。
実の子ではないのだから、育ての親ですらないのだから、あるはずのない面影を探して見つけようと努力しているようなことではない。
そんなことをして頑張っているつもりではない。
この子が愛おしいのは、この子だからだ。
それでも彼女がいるであろう死後の世界のことを考えると、僕の愛の全ては未だに彼女のために埋め尽くされてしまっているのではないかと思えるのだ。
代わりの愛などあるはずがないのに、僕は思ってしまう。
墓などいらない。僕は思う。
死んでしまったのなら、生きている人の妨げにはなりたくない。死んでしまってまで迷惑は掛けたくない。
それが彼女の意志だった。
僕もそれには同感である。
死んでしまうのなら、一緒に消えてしまいたい。残しておきたくなどない。
死ぬのは怖いけれど、死ねないのはもっと怖い。
一緒にいたいけれど、あまりに幸せだととても辛い。怖い。
未知の世界ほど怖いものはないではないか。
それなのに、生きているときから死後のことを考えるなど、それほど恐ろしいものがあるだろうか。
宗教的な観念を持って、強く信じられたとしたらば、僕はもう少しは楽になれるのだろうか。
彼女は今、辛い現世から解放されたんだって。彼女が素敵な人だから、一歩先に解放されたんだって。
僕もまた修行を終えて解放されたとしたらば、きっと彼女に会うことはできるんだって。
馬鹿だな。
どうして僕はわかった上で、こんなに恐怖で頭がいっぱいになっているのだろう。
割り切れないんだろう。
理論では理解していたとしても、感情を支配することはできないのだろう。
本当に僕は馬鹿だ……。
偉そうに人に言っておきながら、語っておきながら、自分がこんな状態なのだから馬鹿みたいだ。
時々、感情が抑えられなくなってしまうのだ。
愛情が、止まらなくなってしまうのだ。




