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絆 ~たとえ世界が違っていても、手を伸ばせば届くことを信じているから~  作者: ひなた
病弱軍師 ~桜の花のように美しく散ることを彼が望まないのなら~
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 変化 ~種はいつの間にか植えてあった~


 戦が全て終わったなら、それが悪いことであったと言われるようになるのでしょうか。

 たった一人の力で戦が勃発するようなことはありません。一人の力は、それほど強くありませんから。

 もしかしたら私が生きている時代の都合上、権力というものよりも物理的な個人の力が重要になっていたものですから、それで一人では無理思ってしまっているだけなのかもしれません。

 けれど私は人が従わないことを選べるように思えるのでした。

 だれも賛成していないのならば、一人で何を言おうとも戦にはなりません。

 だれかが賛成をしているのならば、それもまた共犯ではありませんか。


 そう簡単な話ではない、生きるためには従わなければならない、そうなのかもしれません。

 しかしそうなのだとしたら戦を起こしたのは総意であり、戦が起こるのは当然の流れであり、だれかのせいであるというようにはなりません。どこかに責任が生まれるとは思われないのでした。

 私は彼や私が戦という意味においても悪であると思いますけれど、だからといってそれは特別裁かれるべきことだとは考えられないのでした。

 彼のような指導者でさえそうなのに、どうして研究者などを戦犯と呼べるのでしょうか。

 戦に協力したことが悪だというのなら、戦いに出た兵たちもそうではありませんか。


 残虐な兵器が使われて、長期戦により人々は疲弊していく、戦禍は戦とは関係のない街へまで広がっていく。数多くの命が奪われていく。

 私には戦というものが全てそういうものであるように思えるのですが、戦闘員ではないものばかりを狙った攻撃もあったというのは、国としてその全てを壊してしまおうというのは、あまりに非道な発想です。

 畜生に生まれ変わる資格さえないようではありませんか。

 穏やかに笑っているこの男性がその極悪人の代表格とされなければならないことは、許されるべきことではないように見えました。

 結果として毒薬を作ってしまったことは、そちらの方こそが許されるべきではないものであり、極悪人と呼ばれても仕方がないものであるように思わせます。

 悪意というものがそこにないとしても、結果としては悪も悪です。


「残りにき刹鬼の君の思ひけるあらまほしきよいまは静けし」


 俳句やら滑稽譚を聞いていたもので、嫌味な心が残り香のように私の感性に滞在しているのでしょうか。

 きっと美しさで全てを纏めてしまうことを、強いこの方々は望んでいないというような勝手な解釈のようなものも関係していたのでしょうか。

「悪魔と呼ばれた旦那から残されてしまった日記というのは、思っている以上に来るものがあるわよ。愛の中で、正義の中で死ねるのは、戦に身を投じていても幸せなものよ。どれだけ反戦を語っても、叫んでも、戦争犯罪者を支えていた身では聞いてももらえない。多くは罵倒よ」

 ここまで言っているのにそれでも傷付いているというようには見えませんでした。

 そこまでして私が自分の解釈を信じようとしているというようなことではなくて、罵倒に慣れすぎてしまって、私の皮肉など笑えるくらいの心の広さを持っているというようなものです。

 そうなのであろうと私は確信することをできました。


 聞いているのかもわからない様子でしたのに、いきなり男性が熱烈な愛の告白を始めました。

「口にして言わないけれど愛してる本当は本当に信じていました」

 突然でしたからただ聞いていた私だって驚いたくらいなのです。その言葉を掛けられた女性としてはそれは戸惑うことでしょう。

 しかしお二人は通じ合っているということなのか、女性は通常の会話であったように続けます。

「文字数だけねって言おうと思ったけれど、それでは文字数だって微妙なところじゃないの。愛してると伝えたいのなら、これくらいはするものよ」

 そう言ってから女性は高らかに詠みました。

「あくがれていらへたけれどしのぶべし手に残したき誄も捨つれど」

 愛してるという言葉が詠み込まれているいるようでした。


 死を迎えて、戦争から解放されて、愛おしい人と再会することができて、それはとても幸せに思えました。

 きっと心の穴など最初からなかったことにするくらいの力を持っている、強い力であるように思えました。

 いつか当たり前になってしまっていて、いつの間にか当たり前ではなくなってしまった、隣に彼がいるということ。私は彼を視線から外して、存分に頬を緩めました。

 お二人のやり取りを見ていたら、私もこの幸せを噛み締めないではいられなくなってしまったのです。


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