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夢大陸 ~届かない平安を求めて~
「お久しぶりです。再会することができるとは!」
私に歌を教えてくださった、師とも呼べる貴族の方でした。
直々に教わって、これでも私は上達したものです。
あのときはお二人の事情を知らず一人で舞い上がっていたものですが、私たちのような成り上がり者をどのように思っていたのでしょう。
野蛮さの贄となったこの優雅な人は、私たちのようなものをなんと呼ぶのでしょう。
お二人の事情を拝見した上で再会を喜ぶ私を、どこかで笑っているのでしょうか。
それとも、憐んでいるのでしょうか。
「お久しぶりですね」
記憶の中にいる姿と変わらない雅さで微笑みそう仰るのは、再会を喜んでくださっていると思ってもよいのでしょうか。
貴族の中の暗黙の了解や印、暗号というものがわからないものですから、私はどこかで何かを違反しているのではないかと考えてしまうのです。
一般に私の家が悪に該当するからこそでした。
歌を得意とする方とは何度かお会いしましたし、やりたくても真似のできないその高貴な人らしい丁寧な所作や感情をその場で歌にするということに、私は憧れを持ったものです。
しかし恥ずかしげもなく私はその場で拙い歌を詠んできました。
「まだ歌の勉強はなさっているのですか?」
私が女であることも恥ずかしくなるような姫君につい見惚れていると、やはり男の方なのだと伝え、私を混乱させる声音がありました。私への問いのようです。
質問されているのか、試されているのか、なぜこの方が姫君として過ごされているのか知った今では判断が難しいところでした。
そのような方ではないように見えますが、この姫君にとっての私は憎まれ蔑まれても仕方のないような生まれなのでしょうから。
噓を吐いても仕方がありませんから、つまらない被害妄想を振り払って、私は小さく頷きます。
「それでは歌合でもしましょうよ。判者、お願いします」
明るく姫君は提案してくださるのですから、やはりこれを偽りだとは言えないでしょう。
「わかりました。ご期待に添えるよう努めます」
下手な歌も褒めてくださり、添削までしてくださるものですから、私はこの貴族お二人に甘えないではいられないのでした。
別世界なら、私たちは必ずしも憎しみ合うような身分ではあらずにいられるのですね。




