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初心 ~初めてだから~
性別 ~愛に理由なんて必要ないわ。夢にも、欲望にも、同じことよ~
自分が男であったならと、考えたことがないわけではありません。
それは自らを否定する気持ちでもなく、もちろん恋愛やらのことでもありません。
彼の隣を歩いているときに、彼がを女連れだと言わせてしまうのが悔しくて、私が女であるから最初から認めようとしないというのが悔しくて、彼以外に認められたいなど思ってもいないのに私が男であったならと思ったものでした。
ちっとも女の子らしく振る舞っていなくても、何も私はそんな私が嫌いなのではありません。
軍略や政治のことを考えていても、私は自分が女の子であることに誇りを失ってはいません。
女であるのにと自分が言われているからかもしれませんが、私自身は性別に拘りを持ってはいません。
貴族も力を持っていなかったものですから、伝統や仕来りというものが残っていなかったせいかもしれませんね。
そういった時代を反映するような存在、彼はそうとも言えるのでしょうか。
能力だけを見る方法は効率的なものに思えますが、品は少しもないものなのでしょう。
他人にどう言われても自分のやりたいことを貫き、自分がありたい自分でいるその姿勢は、彼の好きなところであるに違いありません。
特に何を言うこともないようで、歌でも詠もうと筆を持った私の手元をただ見つめています。
「なんですか?」
「なんでもない」
「それなら見ないでくださいよ」
「嫌だ」
こんな調子でいるものですから、やりづらいったらありません。
『妹よ背よ なにと違へむ 笑ひたる ゆりを誓へる つまにてあらば』
心に思うでも口にするでもなく私が文字にしているものを、彼は物珍しがって見ているだけなのでしょう。
筆があったから私はそうしただけで深い意味などないのですが、それでも彼は珍しいことがあると必ず見ているような人です。
「咲くの字の方が、綺麗じゃないか? 雅心というのはあまりわからんが、俺はあの字が好きだ」
「は?」
彼は見ているだけとばかり思っていましたから、意見を言われるというまさかの事態に、私は思考が停止するほどに動揺しました。
「そこまでおかしなことを言っていたか?」
私の視線をどう思ったのか、撤回しようと口を開いた彼を止めます。
「確かに、そちらの方が素敵ですね」
『妹よ背よ なにと違へむ咲■ひたる ゆりを誓へる つまにてあらば』




