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29、30



 初心 ~初めてだから~


 月という幻想的な力を知っていると、幻に魅せられてしまうというのには、僕にもそういうところがあることだろう。

 もしかしたら、僕が見ている彼女の姿にも、僕の瞳にだけ映る幻というものが存在しているかもしれない。

「んだが、あたしもわがる。最初に会ったとき、とんでもねぇ坊ちゃんだって思って、そりゃ今でも変わらずに思ってんでけど、やっぱり世界が違いすぎて、幻なんでねぇがなって時々思っちまう」


 平均や一般を知らないのだから、推測の域は出ないけれども、おそらく僕たちはお互いに極端なのだ。

 だから僕が思っていることは、彼女も思ってくれていることが少なくない。

 幻のような雰囲気など僕のどこに感じられたのだろうか。

「僕も、あなたに会ったとき、とても思いましたよ。かっこいい、憧れる、そして綺麗だ、と」

 驚いたように目を見開いてから、

「冗談はやめてけろ」

 そう眼を逸らされてしまった。



 性別 ~愛に理由なんて必要ないわ。夢にも、欲望にも、同じことよ~


「まあ、どうしたのよその恰好。彼氏に見てもらいたいんだったら、ちゃんと綺麗にしなくっちゃ駄目よ。女の子はみんな可愛いのよ。だけどね、綺麗になりたいっていう気持ちがなくっちゃ、目を引く綺麗さは出ないの。内面から綺麗さが溢れ出したら完成、そうしたらみんな世界一の美少女なんだから」

 彼女に手を取ってどこかへと連れ去ったのは、女性服を着て、綺麗にメイクをした男性だった。

 背が高くすらりと痩せているので、並ぶと彼女が子どものようにしか見えなかった。


 いきなりこんなことをされるとは思っていなかったわけだから、僕も彼女もびっくりするばかりだ。

「えっ、その」

「彼女に任せてやってくれないか」

 止めようとしたところで男性に肩を叩かれて、もうどうしたらいいものか。

 お淑やかだとは言えない分だけ、彼女は強さというものを持っている。男の僕よりもよっぽど強いのではないだろうか。

 それだったら、一人で行かせても大丈夫だろうか。


 どうせ僕が一緒に行ったところで、何かができるわけでもない。

 権力を振りかざすのが限界で、僕一人の力だけで言ったら、誤差ですらないとまで言われてしまうことだろう。

 悪い人じゃなさそうだし。


 暫くして、帰ってきた彼女は見たことがない輝きを放っていた。

 服はあげているけれど、彼女自身が興味を示さないものだから、ドレスを着ている姿など初めて見たかもしれない。

 化粧までして、……普段の彼女だって十分に可愛らしいのだが、ここまで可愛らしいところは見たことがない。

 本当に、なんと美しいことだろう。



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