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 永久不滅 ~僕たち二人の愛は止まることを知らない~


「あれから、戦争のことについて改めて考えてみたのです。あ、亡くなったという旦那さん……」

 男性が私にまっすぐ寄って来て本を差し出していたのだけれど、途中で隣に立っていたあなたを見て、気まずそうに笑った。

「なんかそう言われるとおかしな感じだね」

「まあ、亡くなったと言われながら出て来るのだもの、そのとおりかもしれないけれどそりゃそうね」

 あなたは空気が読めない人だからそのまんまに笑って、それがおかしくって私も笑ってしまった。


 戸惑いながら、差し出された本を受け取る。

 どうやら中身は小説のようだった。

「これ、私が読むの?」

「無理強いは致しませんけれど」

 私の問いは嫌がっているように聞こえたのか、男性は私が読む前から回収してしまおうとした。

「いえ、どうしてと思っただけよ。読みたくないわけではないわ」


 こくりと男性は頷いた。

「戦争の惨劇を直接覚えているわけではありません。というのも、僕が幼いうちにもう終戦を迎えてしまって、それより先は幸い平和が続いてくれているわけですから。けれどこの平和が本当に続いていくのかはわかりません。だからこそ、他の世界の戦争の様子を見て、僕たちの戦争とは違う惨劇もまた描いて形にしたいと思ったのです。モデルとして使わせてもらったので、是非、読んでいただきたいと思ったのですけれど、どうしてという問いにこれで十分に答えられたでしょうか?」

 男性がしてくれた説明に、私は語るのとは別に、小説という形にすることもまた思った。


 物語形式にした方が、人々に親しまれるものだろうか。

 だからこそ教訓説話は数多く残っているし、お伽噺はなんらかの意味を持とうとしている。

 私は元々文系として進んできてはいたけれど、今更になってその道に戻りたいだとは思えなかった。文章を書きたいと思うような気分でもない。

 あなたがいてくれなかったら、小説だなんて発想は私は絶対に跳ね除けていたことだろう。

 しかし今こうしてあなたが隣にいてくれていることを思うと、あなたのサポートはしないがらも、私は私で文字を紡いでいくのも悪くないとも思えた。

 あなたの隣でなら、悪くないと思えた。


 私には私の選択があって、あなたにはあなたの選択がある。

 私には私の道があって、あなたにはあなたの道がある。


 だったら私はあなたにはできない方法で、私たちが見てきたものを遺していきたいと思う。

「素敵な小説ね。是非、私たちの世界でもいただきたいくらいだわ」

 いろいろなことを考えながら、どうやら短篇集らしいその小説の、私たちについて書いてくれたのだという八ページを読ませてもらった。

「僕たちの世界ではファンタジーとして風刺小説で終わることでしょうが、そちらの世界では装飾されたドキュメンタリーくらいになってしまいます。社会の状況が詳しくはわかりませんが、戦後間もなくの時期ですと、不味いのではありませんか……?」

 言いづらそうに男性は言う。


 言語統制は戦争と一緒に終わったという話にはなっている。

 とはいえ本当にそうであるとは思えない。

 内容を考えると、男性の言っていることは尤もとしか言えなかった。

「それじゃあ反対に、私たちについて書いてくれたところとは別のものを、使わせてもらってもいいかしら。まだ読んでいないけれど、興味はあるからこれから読むつもりなのよ。いけない?」

「それならどうぞ、是非是非、お使いください」

 快く許可をくれた男性に、私は深く頭を下げた。


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