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記憶喪失 ~一歩通行の恋心~
夜空 ~それを飾るもの~
「私たちのことを知っているのでしょう? どう思ったか、正直に聞かせてもらえないかしら」
自分で語るばかりよりも、意見を一つ、先に聞いておきたかったのはただの好奇心だ。
「悪とは何であるのか、善悪とはどのようなものであるのかと、疑ってしまいました。疑わずにはいられませんでした。今までの僕の感覚というもの、今までの僕が見ていたものというもの、あの美しい月さえも、全てが虚像でしかないような気がして……恐ろしくなりました」
「恐ろしく、本当に?」
「なんとなくは、ほとんどは本当です。恐ろしくもなりました」
聞き返した私に、言いづらそうに口をもごもごとさせている。
絶対的な善はどこにもなければ、絶対的な悪もどこにもない。どちらも相対的に、相手がいるからこそ成立するものなのであるから、当然のことだ。
だからこそ、絶対としてそこにあろうとする正義というのは間違いであるように感じられるのだろう。
「私は善人だと思う?」
初めて言葉を交わす人にこんな意地悪をするのはいくら私でも私らしいと誤魔化せることでもないだろう。
人との交流が少ないから、距離感がわからなくなってしまっているのだろう。
迷いに迷ってから答えを導き出してくれる。
「今の時点で、僕に対しては、善人だと思います。これからどうなるかはわかりませんし、他の人にとってどのような存在であるのかもわかりません。けれど僕がこの場で受け取れる印象としては、善人です」
これはまた上手い返しを見つけ出したものだと思って、私は少し悔しかった。
「そ、なるほどね。一時的にでも、たった一人にでも、善人だと思ってもらえるのは嬉しいわ」
いかにも上辺でしかない私の言葉を大きく笑われてしまった。
「憧れた星月のような美しさが、儚さが、切なさが、そんな魅惑が感じられます」
「大切な人が、そこにいるような心地がしているからかしらね」
虹色 ~濁ってしまった色~
私たちの世界は、私は、あなたは、どんな色を持っていたのだろうか。
どのようなキャンパスに、どのような色を付けているのだろうか。
私は何をしていたのだろうか。私は何になっていたのだろうか。私は、今の私は、ほらたとえばあなたと出会う前だとかとは、どれくらい違っていたのだろうか。
進んでいた、色は足されているばかりだった。
それなら私はどんな色を足して、どんな色を創り出していたのだろうか。
客観的な目で私は私を見ることができない。
私たちが生きていた世界の全体を客観的に見ることなんて、できようはずもない。
だから私にはわからない。
キャンパス。恐らく最初は白だったであろうキャンパス、恐らく黒へと染まり始めているであろうキャンパス。
今の私はどうなっているのだろう。
見たいような、見たくないような気がした。




