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病弱軍師 ~桜の花のように美しく散ることを彼が望まないのなら~
遥か遠くを見て、男性はそれでも力強い笑みを浮かべていた。
「戦争が当たり前になってしまうというのは、どういう状態なのかしら。長い戦争ではあったけれど、あれは結局一つの戦。戦争が始まる前は平和がずっと続くようなように思えていたし、戦時中に一時的な平和というのは訪れなくて、それで終わってからはまた秩序を取り戻していくの。多くの命を奪っておいて、まるで何事もなかったかのようにね」
そういうタイプの人には見えなかったのだけれど、やはり人は見かけによらないというもので、ゆっくりと頷きながら静かに男性は話を聞いてくれた。
十分に考えてから、話し出してくれる。
私とは全く違った戦争を見ているこの人の話を是非聞いておきたい、そうしなければいけないように考えた。
経験から語ることも大事だろうけれど、それに頼りすぎないこと、寄りすぎないこともまた重要であることを私は知っていた。
歴史に学ぶということを意識してきた結果なのだろうと思う。
だれも経験の中に戦争というのがないだけに、こうして戦争が起こされてしまったのだということに、今後は警鐘を鳴らしていきたいと思っているのだろう。
今後などあるものでもないだろうし、あるべきでもないのに。
戦場は知らないけれど戦争は知っている私が、全てを伝えていきたいと思っている。
私の活動が続いてくれて、戦争の抑止力として働いてくれることを願っている。ただ。
「戦争というのはどれもそうだ。いつもそうだ。人々の心を抉り、多くの兵たちの命を奪ってしまうことを、当然のものとして片付けてしまう。俺が生まれたときにはもう平和なんて、どこにも生き残っちゃいなかった」
一つ、彼は付け足す。
「戦乱の世にたった一人、戦禍を逃れ家の中で汚れも知らずに育って来た、清廉な少女がいたんだ。本来ならば最期まで清らかなまま生きていられるはずだったのに、俺はその少女の能力に惚れて、散々誘って戦の世へと引きずり出してしまった。それからすっかり彼女の生き様に、覚悟に、何度も惚れ直してきた」
「その少女というのは」
「俺の軍師として働いてくれていたんだ。新入りとしては異例の出世だから、古参としては不快になってもおかしくないだろうが、そうもしないような、だれからも愛される乙女なんだぜ。悪いことをしたとは思っているが、後悔は決してしていない。彼女が傍にいてくれたことを、俺は喜ばしいことであると思っているから。俺のせいで彼女が死んでしまったんだとしても、それを受け入れる覚悟を持てるくらいには」
私が戦争に気付いていながら止めようという努力をしなかったせいで、結果としてあなたは処刑されることになってしまった。
それを受け入れられる覚悟を、私は持っているだろうか。
胸の中で自問自答をいくつかしてみた。
私のため、あなたのため、世界のため、平和のため、あなたが蒔いてくれた平穏や救いの種を、立派に育てる。
残っていた甘えを追放することでしか、私の中にあなたの心を受け継ぐ道はないようだった。
まずは、あなたが生きたあの日々と同じくらい、私も強くならなくちゃ。




