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変化 ~種はいつの間にか植えてあった~
大切な人が事件に巻き込まれて被害者になってしまうのは辛いけれど、加害者にさせられてしまうことはなお辛い。それで消されてしまうことは、辛いよ。
わかる。私にもわかる。
戦犯とされたというほどではないけれど、連続殺人犯に仕立て上げられたのだから。
「ベタな登場ね。そんな悪戯で、私が驚くはずがないでしょ?」
けれど現実で叶えられなかった夢が、ここでは叶えられるの。
大丈夫。何も怖くもないの。ここなら全ての夢が叶う。
後ろにいるのは君であれと望んだから、私の後ろにいるのは君である。そうした夢と希望の理論を信じ込んで、私は背中の温もりに声を掛けた。
夫を戦犯として裁かれながら、孤独ながらも強く生きようとするこの人だって、夢の次元で幸せな結末を手にできることだろう。根拠はないけれど、私は確信を持った、そして祈った。
同時に、私の幸せを信じることでもあるのだろう。
振り向きもせず私は俯いていた。
信じた君の声を待って、黙り込んでいた。
「バレてしまったか。登場シーンは一回きりだから、とびっきりに驚かせたかったんだけれどね」
「ありきたりにも限度があるよ。私だって馬鹿じゃないんだから、学習くらいするし、なんでもかんでも無邪気に驚いてあげるほど献身的な乙女じゃない。知っているでしょ?」
「本当は気付いていたのに、驚いているふりなんてされても困る」
「まあ、そうでしょうね。馬鹿にしているとしか思えないものね」
久しぶりに会えたのだから、もっと感動するかと思ったのに、パニックでも陥るんじゃないかって思ったのに、意外と平気なものね。
一週回って、って奴かな。
声だけではなくて、やっと正面に現れて君は姿を見せてくれた。
「遅いよ。待たせすぎ」
「でも、約束は守ったでしょ。……お待たせ」
私の記憶より、少しだけ歳を取っているようだった。
「大人になったね。一体、いくつになったんだ?」
けれどより老けているのは私の方というものだろう。
「三十三よ」
「わお、一つ違いか」
「その顔でわおってのは、ただの外国人ね」
「わざとじゃないのをツッコまれると恥ずかしいな」
「むしろわざとだったらツッコんでなんかあげないわよ。君のボケを拾ってあげるだなんて、漫才師じゃないのだからね」
「意地悪だな」
「結構よ。そう、意地悪で結構。いつまでも、何年も何年も人を待たせるような君には、私みたいなのがお似合いでしょ? それに私くらいじゃないと、そんなに待っていられないもの」
「そうか。そうかもね。本当に待たせすぎてしまった。悪かった」
「怒っちゃいないわよ、馬鹿ね」




