12~15
夢大陸 ~届かない平安を求めて~
歌の文化が僕にはわからないし、どんな本でも見たことがないようなスタイルでの恋愛だと思った。
ロマンティックで、素敵なことだと思う。
「お教えください。そういったセンスのある方ではありませんから、憧れがあるのです」
教養がないわけではないが、芸術家的な感性は僕には足りていない。
つい、頼んでしまっていた。
「お任せください」
男女が会うことさえ好としない厳粛な文化なようだから、彼女は彼女で姫君と会っている。
彼女がいない状況だからこそ、彼女をときめかせたい一心で、僕は頼み込んでいた。
距離 ~背負う鎌倉の夢の夜に~
「いらっしゃいませ。あの、馴染みがないだろうと思うのですけれど、私の国の伝統的な菓子なのです」
客として入ったわけでもないのに、笑顔で歓迎してくれた。
僕のことを知っている店主であったら、僕が行ったときには奇妙なまでに笑顔で迎えてくれるのだけれど、だれにでも笑顔で対応するような店主は僕の知っている世界にはいない。
金を持っていない相手に媚び諂う人なんていない。
感動的になっていた僕に対して兄弟はなんでもないように笑っている。
それが当たり前になっているのだ、珍しがっている僕とは常識が違う。
「こんなに美味しいものがあるだなんて、知りませんでした」
読書では得られない情報を知れることが、僕は楽しくてならなかった。
「こんなに喜んでくれるなんて、こちらとしても嬉しくてならないです」
幸せに満ちた僕の世界で、平和を持っているのは僕のような人だけだ。
だれもが幸せであることこそ、本当の幸せなのだろうと僕は感激した。
春 ~桜の頃へ交わす想い~
愛 ~それは偽りでも~
ふと僕は彼女を見た。
真実の愛なのかな、僕たち本当に。
「すみません、真実の愛とはどういうものだと思いますか?」
困ったときには彼女に尋ねてみれば、なんでもポジティブに言ってくれると期待した。
こういう立ち位置に彼女を置くのは間違っていると思わないではなかった。
けれど僕はそういうものだった。
「愛に種類があんだが?」
「どうでしょう。ありませんかね」
「んなこと言われたって難しいことは……」
「困らせてしまってすみません」
僕は何をしているんだろうか、何をしてしまっているのだろうか。
正面から彼女を見られなかった。




