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愛 ~それは偽りでも~
勘違いをできるのならそれは幸せなことだろうし、心から信じていられるのなら私はそれを事実だとしてもいいくらいだと思うのよね。
途中で疑ってしまったときに、何かに気付いてしまったときに、それはそれは心が苦しくなることだろうというだけで。
どこかで君が生き続けていると信じている、本当は罪なんてものもないのだと知っているような、そんなふりをし続けている私の姿がそこにあるように。
心から信じるなんてことは、なんて難しいことか。
毎年、桜を見に行ってしまう。
毎年、君を待ってしまう。
真実を私は受け入れることができようか。
嘘を信じ抜くことなどできないのだと私は知っているけれど、真実だと言われて私はそれを真実だと知ることは、絶対に受け入れるようなことはできないの。
結局は酒に溺れることでしか、私の心は救われない。
酒でなんか、本当は救われていないことを私は知ってしまっているのだけれど。
どうしたら忘れられるのかな。
約束のことを忘れて、堂々と約束を破れるのかな。
約束を破りたいのはおかしな話。
それでも私は約束を忘れてしまえたら、楽になれるとか考えるの。
君が会いに来てくれたなら、もっと楽になれるでしょうね。
ある意味での幸せと、本心から喜べるであろう幸せと。
どこかから幸せが流れて来て、私の元に幸せが訪れてしまうのだとしたら、酒に酔って私は待つとしよう。
私から動いても約束は果たされないことでしょう。
待っていることが私の役目でもあるのだから、これからも待っているとしましょうか。
もう私も大人なんだから、酒くらいは許してね。
夜酒 ~君の香りに溺れて酔うも酒の所為か~
この彼の言葉は私にはよくわかった。
「いけないってわかっているのに、それしか逃げる場所がないのだものね」
思わず私は話し掛けてしまっていた。
同じ境遇かもしれない人と話をしたら、少しは落ち着くんじゃないかと思えた。
「一番、楽な逃げ道だ」
酒瓶片手に返事をしてくれた。
「でもここは叶うことのなかった夢が、ありえなかった理想が、現実になり得る世界よ。もしかしたら、私たちの気持ち次第でやってきてくれるのかもしれないよ」
「なるほど。それじゃあ、僕も信じてみようか」
持っていた酒を呑み干して、それでもなぜだか酔えなくて、目は冴えきってしまっていた。
私たちは固く握手を交わしていた。
思わず、戦友のような気持ちになってしまっていた。
最後に微笑み合って、私たちは別れた。
とても初対面だとは思えなかった。




