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4 雪村ゆき 小国沢明に神心力を説明するのこと

前回までのあらすじ


雪村ゆきは田舎の高校一年生。

ある日、バス停で半透明の神様に出会います。

神様が言うことには、ゆきには特別な力があるというのです。

そして数週間の高度能力成長期を経て、とうとうゆきは超人的な能力を身に付けました。

そんな時、幼馴染みの小国沢明が現れました。

かれは妖しげな力を使い、ゆきを苦しめましたが、最後にはゆきに破られました。

ところが彼は、自分が力を使ったことを知らなかったのです。

さて、それから物語は一体どうなるでしょうか?

 小国沢おぐにさわあきら小国紙おぐにがみ同好会の入会申込書をギターケースにしまってから、再び雪村ゆきを見て言った。その顔からはとぼけた雰囲気は消えていた。


「いろいろ荒唐無稽なことを言っているのは自覚しているか?」


「でも事実だから。」


「お前にしか見えない神と修行をしているということがか?そんな話みんなが信じるとでも思っているのか?」


「いいえ、みんなじゃない。仲間にだけ信じてほしい。」


真剣なまなざしのゆきに、明は茶化す風でもなく静かに言った。


「そうか。いや、なんというか。俺たちはまだ高校生だし、いろいろ不安もあるだろうしな。そういう空想が役に立つこともあるかもしれないけど。」


「空想じゃない。」


「・・・。雪村、現実を見ろ。町の高校に入ってからのお前はどうなってしまったんだ。結城野ゆうきの中学の頃お前はスターだった。いつも大勢に囲まれていて。バレーボール全国二位の中心選手だったからな。高校でもそのままバレーを続けると俺は思っていた。周りもそうだっただろう。でも今、やってないんだってな。」


「バレーはこの話に関係ない。」


「関係ないか。じゃあ今やってる和紙の、紙漉きってやつは関係あるのか?」


「紙漉きは、・・・ちょっと関係ある・・・。」


「まあ、お前のことだ。俺が口出しすることじゃないのは分かっている。周りがどう言おうが関係はない。ただ、お前はそれで本当にいいと思っているのか。」


「いいと思っている。」


「本心か?自信を持って逃げてないと言えるか?」


「もちろん。逃げてない。」


「・・・そうか。お前がそう言い切るなら、この話はやめにしよう。」


明はしばらくゆきから目をそらして何か考えているようだった。やがてつぶやくように言った。


「質問があるんだが。そのミヤさんというお前の守護霊は、今お前の横にいるのか?」


「そう。守護霊様というより[憑神つきがみ]さまという感じだけど、私の左に立っている。」


「で、お前にしか見えないし、聞こえないわけか。」


「あなたには見えないけど、見える人もいる。隣の六郎りくろうさんとか・・・。」


「じゃあその吉田のおっさんを仲間にしたらどうだ。そいつが見えてるなら。」


「六郎さんは同好会の外部顧問になってもらう。」


「そうか。よくいい大人を巻き込めたな。やるっていったのか?あのおっさんは。」


「まだ話してない。」


明はしばらく黙ってから、またゆきに質問をぶつけた。


「なあ、実際に見せてくれないか。お前の話の証拠かなんか。今ここで、お前の言う超能力を見せてくれたら俺も納得できる。」


「わかった。・・・でも何をしようかな。」


「そうだな。[生身なまみの操り]っていうのを見せてもらおうか。」


明は周りを見回し、足元に土地の境界を区切るコンクリートの杭を見つけると言った。


「この杭、けっこう深く埋まってるぜ。まさかこれ、引っこ抜けるか?」


ゆきはうなずき、両手で四角い杭を掴み、ずぼっと一気に引き抜いた。杭は五十センチ以上は埋まっていた。明はかなり驚いた。


「どう?」


「・・・すごい怪力だな。だが、杭が抜けやすかったのかもしれない。」


次に明は柿の木に実がなっているのを見つけて言った。


「あの柿、もげるか?」


ゆきは車庫の近くにあった大きな柿の木のそばに行った。やにわにズズッと音をさせて垂直に跳躍し、木のかなり上の方に実っていた柿をもいでから静かに着地した。柿の木の枝が少し揺れている。明には、ゆきが車庫の二階の窓より高く跳んだように見えた。ゆきは明の方に戻ってきて、いかにも渋そうな硬い柿を手渡した。


「はい柿。」


明は柿を見つめ、軽く握って感触を確かめた。


「ああ、薄暗くて見えにくかったけど、普通のジャンプ力じゃないな。」


「そう。やろうと思えば家の屋根にも跳び上がれる。」


明はため息をついてから言葉を続けた。


「今のは確かに世界記録以上の垂直跳び。まあ人間業じゃない。そんな身体能力持ってたんじゃ、高校の運動部なんかやってられないか。馬鹿馬鹿しいからな。」


「私の話、信じてくれた?」


「・・・いやまだだ。正直、見ただけじゃよく分からない。視覚は騙されやすいからな。柿だってそこらに転がってるのと区別できないし。もっと分かりやすく・・・。そうだな、次は俺を空高く投げられるか?」


ゆきはひょいと長身の明を抱え上げ、「はっ」と言って、驚いて固まっている明を真上に放り投げた。明の体は車庫の屋根くらいまであがってから落ち始めた。そして加速して地面にぶつかる前、ふわっとゆきに包まれるように受け止められた。


「これでどう?」


ゆきは明を抱えたまま言った。顔が近い。


「・・・ああ、信じる。お前の筋力はなにかすごいことになっているな。これが[生身の操り]か。しかし、上からの眺めはいいもんだ。」


明は目をつぶっていて何も見ていないことは言わなかった。


「超能力なんて、まるで安いジュブナイル小説みたいだが、まあ信じる。だからひとまずおろしてくれ。」


ゆきはそっと明の長い体を立たせた。明はしばらくして落ち着きを取り戻すと言った


「・・・だが、ひとつ忠告がある。」


「何?」


「いや大したことじゃない。その、高くジャンプするときなんだが、制服じゃない方がいいと思って。」


「・・・そうね。確かにちょっと跳びにくいかな。」


「特にひとに見せるときには。・・・といってもひとには見せないのか。」


明はゆきを見ずに言った。ちょっとした間があって、今度はゆきを見て言った。


「その力で、バレーをやったらよくないか?超能力がばれない程度にやればインターハイどころじゃない、全日本の代表選手にだってなれる。」


「力を出さないようにコントロールするのは結構大変だし、なによりそんなマイナスの努力をするなんて、頑張ってる人たちに悪い気がする。やってて楽しくない。」


「そうか。そういうもんか。」


「元々、小学五年生の時に無理やり親に体育館に連れて行かれて始めたことだし。私、寡黙で内向的だったから心配してくれてたんだろうけど。今思えば私、そんなにバレーボールが大好きってわけでもなかったんじゃないかな。」


「そうか。」


「今は他にやりたいことがたくさんあるし。紙作りとか、他にもいろいろ・・・。」


「まあ、周りは喜ぶんだろうがな。『ロサンゼルスオリンピック』金メダルとか。でも、本人がそう思うなら、それが大事かな。」


ゆきは無言でうなずいた。


「それで、お前が普通じゃないのは本当らしい。・・・ところで疑問なんだが、神っていうのは一体何なんだ?そのミヤさんとやらは何者だ?いろいろ説明してくれるんだろ?本人が。」


「ミヤさんがいうには、基本的に人がまつったものが神様だって。」


「ん?・・・それじゃあ、猫でも石ころでも人が祀れば神ってわけか。」


「そう。人がしろを祀ることで神様を作った。」


「人が神を作ったって?アベコベじゃないか?神が人を作ったの間違いだろう。」


「そういう教えもあるわね。私も始めは順序が逆じゃないかと思っていたけど。でもやっぱり神様は人が作ったものよ。」


「・・・なんでそう言えるんだ。確かめたのか?」


「そう。」


「まさか、作ったのか?神を・・・。」


「神様っていうより、小鬼って感じだったけど。」


挿絵(By みてみん)


「ミヤさんって神もお前が作ったのか?」


「違う。ミヤさんは八〇〇年以上前から神様だし。私が作ったのは、小鬼の神様。私の分身みたいなもの。」


「で、そいつはどうした?今ここにいるか?」


「何日か前までは歩いたり鳴いたりしていたけど、もう消えてしまった。ごく小さな力しか与えなかったから。今はまたただの小鬼のキーホルダーに戻った。」


「キーホルダー?それを神にしたのか。どうやって神にしたんだ?」


やしろを建てて祀った。厚紙の小さな社だったけど。」


「それだけでキーホルダーが神になるのか?」


「それだけといっても、本当にかしこまって祀ることはそんなに簡単じゃない。あと正確にいうと、キーホルダーは入れ物で、そこに込める[御魂みたまの力]が神様になる。社を建てて神様を祀るということは、力を依り代に集めて神様を作る工程のこと。」


「・・・ちょっと待て。わからなくなってきた。祀って超能力を集める?」


「あなたのいう超能力とは、[御魂の力]のこと。それは人の心の別名。そして神様とは、人の心の集合体。」


「超能力は心で、心の集まりが神・・・。じゃあ神と、お前の超能力、[御魂の力]とかいってるやつは・・・、」


「そう。それらは元々同じもの。[御魂の力]の源は、[御魂]という、いわば生き物の「超生命活動」。それはきつく張ったつるを振わせたようなもの。そしてそれは心、思い、精神、信じる気持ちを生む。それが[御魂の力]。まるで[弦打つるうち]ののようなもの。太古より人々はその自らの小さな[御魂の力]を依り代に集めることで、大いなる神々を作り出してきた。そしてときには強く激しく振える常ならぬ[御魂]を持つ者が現れ、強大な[御魂の力]を自在に操ったという。」


「という、って。ミヤさんとやらがそう言ったのか。人の心が超能力って。ちょっと頭が痛くなった。まあでもわかった。とにかく神の中身とお前のその力は同じものってことだな。お前は特にプルプル激しく振えているんだな。」


「・・・そう。「御魂の力」と神様の中身は一緒。人の心のこと。」


「だから、お前がキーホルダーを祀るとそいつが動き出すわけだ。プルプルと。」


「神様はプルプル震えないし、それに正確にいうと、依り代は動かない。動くのは神様だけ。」


「・・・じゃあ、その小鬼の神は普通の人には見えないってことか?お前の横の神と同じで。」


「・・・そう。」


「なんだ。じゃあ結局俺には何も見えないってことか。」


「明君は[共鳴ともなり]という種類の「御魂使い」だけど、神様は見えないみたい。」


「是非見てみたかったんだがなあ、その神。んで、俺には何の力があるんだ?さっきちょっと言ってたな。」


「あなたの力は、美しい音楽で魅了する力、かな。」


「・・・。それは俺の努力の成果じゃないか。お前の力に共鳴したんじゃないと思うが。」


「より正確に詳しくいうと、特殊な音色を奏でることで聴いた者の脳に快楽を与え、行動の自由を奪う力。」


「そんな力、俺にはない。」


「ある。さっき使っていたから。」


明は黙った。実は心当たりがあった。数日前、部活動中にある問題が発生していた。軽音楽室で明の演奏を聴いていた女子生徒数名が、失神して保健室に運ばれていたのだった。しばらくしてベッドで意識を取り戻した彼女達は、何事もなかったかのようにまたすぐ明の演奏を聴きたがった。

 結局女子生徒達は後遺症もなく無事だったため、明はこのことを特に気にしていなかったが、ゆきに言われたことでふと思い出した。あれはなにか不思議な力のせいだったのか。彼は自分の力を半ば自覚せざるを得なかった。それは彼にとって苦痛だった。


「俺の出す音は、聴く人を痺れさせるということか。文字通り。」


「そう。」


「危険だと思うか?俺の演奏は。」


「・・・そう思う。」


「俺はもう人前でギターをやらない方がいいと思うか?」


「明君。正直にミヤさんが言うことを伝えるけど、あなたの奏でるすべての音には、そういう力が込められている可能性がある。そして、その力はこれから益々強くなっていく。」


「・・・ギターだけじゃないってことか。歌も、手拍子もか?」


「そう。」


「今しゃべっている声はどうなんだ?」


「普通の声は大丈夫みたい。音楽とは違うのかも。」


明は少し黙ってから、言った。


「俺は音楽が好きだ。ロックだ。憧れのロックスターがたくさんいるんだ。その人たちに近づきたい、できれば自分もそうなりたいと思っている。今まで、そのために毎日練習をしてきた。楽器ももっと出来るようになりたい。ドラムも、ベースも、キーボードも、トランペットも、バイオリンも、ホルンも、できればシンセサイザーだって。発声練習だって。オリジナルの作曲も始めたんだ。『ロッキングオン』も隅から隅まで全部読んでる。とにかく全部を音楽につぎ込んできたんだ。少しずつだが、上手くなっていると思えてきたところだ。」


「明君。他人に聴かせなければいいんじゃない?音楽をやめろと言っているわけじゃないから。」


「人に聴かせない音楽なんて、なんの魅力もないさ。俺の好きな音楽っていうのは、ロックっていうのは、大勢の心がひとつになれる装置なんだ。」


「・・・そう。まるで神様みたい。」


「ああそうだ。ロックスターってのは、神みたいなもんだ。」


しばらく沈黙が続いた。


「すまん、なんか、強く言った気がする。冷静沈着な俺がうろたえるところを婦女子にみせるとは。不覚だ。」


「冷静沈着というより、ぼんやりっていう感じだけど。でも気持ちは分かる。打ち込んでいたものを取り上げられるということは、とてもつらく悲しいこと。」


「・・・妙に理解があるな。ああ、・・・お前もそうだったわけか。」


「今は明君の話。」


「はぐらかしたな。・・・とりあえずまあ、音楽については後で一人で考えたい。もうちょっと考える時間が要る。・・・で、まだほかに聞きたいことがある。」


「うん。」


「その、俺は、お前の[共鳴り]ってやつか?」


「そう。」


「俺は修行をするとお前みたいなことが出来るようになるのか?」


「多分、できない。[共鳴り]には制限というか癖みたいなものがあるから。明君の力は特殊な音を出すことに特化している可能性が高い。」


「俺はそれしかできないのか。」


「それはわからない。能力も成長して守備範囲が広がる可能性はあるみたいだけど。ああそうそう、自身の[御魂の力]に影響されて基礎体力は大幅に高まるって。」


「まあ確かに、最近腕力が強くなった気はする。鍛えてもいないのに、相撲取りのような女子生徒を抱えたときに、妙に軽い気がした。これはあれか、[生身の操り]か?」


「いえ、[生身の操り]は効率よく体を利用する能力の一つよ。基礎体力が上がるのとは違う。」


「そうか。・・・で、俺はお前から[共鳴り]の力をもらったのか?これは元々お前の力なのか?」


「私のじゃない。私は切っ掛けを作ったけど、[御魂の力]そのものは明君から出たもの。」


「そうか、なんかほっとしたかな、少しだけ・・・。」



 その日すっかり暗くなってからも、かなり長い間二人はそこにいた。明はゆきの伝える情報に非常に興味を示した。特に神という存在、[御魂の力]、平安時代の皇族であるミヤさんなどに興味があるようだった。しかしそれは、音楽を取り上げられるかもしれないということへの不安を軽減するための態度のようにも受け取れた。

 夜九時近くになって明は帰って行った。明はその帰り際にゆきにこう言った。


「雪村とこんなに話すのって、初めてかな。まあ小さいころは覚えてないが。あと、ちょっと思ったんだが、お前って不思議な声してたんだな。」


ゆきはその時、自分が明と流暢りゅうちょうに話をしていたことに気付いた。[以心伝心いしんでんしん]を使っていたのかどうか、ゆきには思い出せなかった。

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