18 紙同会 六人衆と決着し無頼漢を屠るのこと
前回までのあらすじ
雪村ゆきは田舎の高校一年生。
ある日出会った半透明の神様に教えられ、超人的な能力を身に付けました。
それから神様に命じられ小国紙同好会を作り、同じ能力をもつ仲間を集め始めます。
その後運命に引き寄せられて、明、直実、六郎、仲良、四郎、泉、博行が入会してくれました。
そして今、荒くれ者で有名な野球部六人とのホームラン対決が続いています。
さて、それから物語は一体どうなるでしょうか?
しばらくして、小国沢明と上岩田仲良が球拾いのため外野に行き、雪村ゆきはピッチャー、森光四郎はキャッチャーのポジションについた。
ゆきの本気の投球練習を見た原朝雄たち野球部六人は、自分たちの敗北を予感した。ゆきの球は、それだけ速かったのだ。キャッチャーの四郎は、ゆきの投球を半分以上取り損ねた。
実際、朝雄たちの攻めは、六人とも三球三振で〇点に終わった。ゆきの要した投球数はきっちり三×六=一八球だった。全球ストライクだったのだ。
朝雄たちは強打者揃いで、秋の県大会と北信越大会では六人ともそれぞれホームランを複数本放っていた。朝雄たちがふがいなかったのではなく、ゆきがすごかったのである。
両チームはホームベース前に整列し、お互いに礼をした。一対〇で、紙同会(小国紙同好会)の勝利。喜び合う会員一同。しばらくして朝雄がゆきに話しかけてきた。
「完敗だった。一番初めにお前にホームランを打たれたときに、もう負けは決まっていたんだな。」
「いいえ、最後のあなたを打ち取るまで、勝敗は分からなかった。ぎりぎりの勝利よ。」
「そうか。勝ち負けはともかく、俺は野球を楽しませてもらった。こんなに楽しかったのは久しぶりだ。」
「私たちも楽しかった。ありがとう。」
「いや礼を言うのは俺たちの方だ。お前らのおかげで、チームもまとまったしな。ありがとう。そして、今後とも俺たちをよろしく頼む。」
「うん。よろしくね。紙同会は、きっと楽しいよ。もちろん甲子園でも優勝よ。」
「ああ、『池田高校』も『PL学園』も倒してな。」
ゆきと朝雄は握手をした。その後ろから三桶良平が握手を求めてきた。
「よろしく頼むぜ、スーパーピッチャー。」
「こちらこそ。あ、でも甲子園は自力で頑張ってね。」
良平に続いて苔野島清、太郎丸頼三、小栗山友成、大貝慶次が順番に握手を求めてきた。それぞれがゆきに賛辞を惜しまなかった。ちなみに頼三は握手のとき不思議な短い歌を歌った。それらを眺めていた仲良は、明にこうつぶやいた。
「こいつらは不良も逃げ出す無頼漢共、朝雄ですら持て余したほどの奴らだ。俺でもサシでやり合ったら勝てるかわからん。それが一撃で雪村に降参した。俺達はとんでもない奇跡を目の当たりにしたのかも、いや、雪村が奇跡そのものかもしれないな。」
「そうだな。あいつといると退屈しないで便利だ。」
「便利か。もっといい評価があると思うが。相手の土俵で勝てるというのは、全く大したものだ。信じられん。どれだけ力量差があるというのか。・・・まあとにかくだ、一つ言えることは、この時点で紙同会は上小国を制覇した、ということだな。」
「制覇ねえ。俺たちはただ会員を集めていたんじゃないのか?」
「わが高校の最強グループを傘下に入れたんだ。結果としては、同じことだろう。今、紙同会の会員は朝雄たちを加えて一三人になった。一騎当千の能力者が一三人だ。強大な力が集まったんだ。そしてその力は、雪村の指導の下で益々強くなっていく。」
「いいじゃないか。弱いよりは全然いいと思うぜ。」
「まあそうだが、なんとなくアンバランスな気がしてな。力の均衡がやぶれる、すると何かが大きく動き出す・・・。どうだ、なにか思い当たることはないか?」
「まあ、そうかもな。でも、そうじゃないかもしれない。わからんよ。」
「おい、世界を支配する謎の組織はどうなった?お前が言ってたことだろう。東西冷戦の黒幕は!」
「あ、忘れてた。そういうジュブナイルな設定だったな。あはは。」
紙同会室は最高に狭くなった。一四人分の椅子がなんとか配置され、木戸と窓は換気のため開けられた。ホームラン競争の後、一同はミーティングの為に集まったのだ。
紙同会は、ゆき、明、山野田直実、仲良、四郎、諏訪井泉、島屋敷博行、朝雄、清、良平、頼三、友成、慶次、そして顧問の吉田六郎を合わせて、総勢一四人になった。
ゆきは立ち上がり、大勢を前にして張り切って発言した。
「それではこれより、紙同会の臨時ミーティングを行います。まず始めは、新入会員が六名いるのでお互いに自己紹介からしましょう。」
その日新入会員たちは、紙同会の表向きの活動と、秘密の奉仕活動について、そして超能力と神々について説明を受けた。先輩会員たちにはおなじみの、心と力は同じもので、それを集めたものが神になる、というような話である。
彼らは自分たちの力に半ば気付いており、また先ほどゆきのスーパーピッチングを体験していたため、わりとすんなり納得したようだった。そしてゆきの見たところ、まだ彼らの中に[憑神]がついている者はなかった。
一週間後の土曜日の午後、天気は曇り、紙同会は引っ越しをしていた。
原朝雄たちの勧めで、今までの木造校舎の狭い会室から、野球部部室の一角を間借りすることになったのだ。間借りと言っても今までの会室の数倍広く、上下水道も整備されていて、快適そうであった。荷物などはそんなになかったので、作業はすぐに終わった。
その後みんなでお茶になった。午後三時になろうという時、校舎から戻った慶次が雪村ゆきに小さな四つ折りの紙を手渡した。さっき上小国の在校生に渡されたというその紙には、こう書かれていた。
「一年一組、苔野島ときわ、諏訪井泉の両名の身柄は預かった。苔野島村の大塔塚跡で待つ。 渋蛇会」
ゆきは椅子から跳び上がった。朝雄にその紙を渡し、自身は外に駆け出した。
ゆきは走った。自転車は使わなかった。ゆきのフルパワーには耐えられないと判断したからだった。走りの速さにも自信があった。
グラウンドを横切り校門から出ようという時、一人の女子生徒に呼び止められた。ゆきは走りながら、彼女の腕章が[生徒会]のものであることを確認した。
「あなた、小国紙同好会の雪村さん・・・」
ゆきは校門を走り抜けた。後ろで[生徒会]の彼女が叫んでいる。ゆきは全力を出した。飛ぶように駆けた。一歩一歩が数十メートルはあった。半分砂利道のような簡易舗装の道には、ゆきの蹴った足跡がくっきり残った。
苔野島村の大塔塚跡は、上小国高校から車で一〇分ほどのところにある。全開のゆきの足なら、一、二分でいける道のりである。途中人気が少なかったため、ゆきはあっというまに大塔塚跡の手前まで来た。ほとんど呼吸は乱れていない。
そこは苔野島村のはずれにある、柏崎へ抜ける峠道の入り口付近。山際である。道路に面して、シャッター付きの作業小屋か車庫のような掘立小屋が建っている。その奥の畑に、高さ三メートルはある円筒形の石造りの記念碑が立っていた。周囲に人影が見える。得物を持った蛮カラ風学生服が一〇人くらいたむろしている。間違いない、[渋蛇会]だ。ゆきはうまく小屋の陰に身をひそめた。一番近い男からは、およそ二〇メートルほどだろうか。彼らは、まだゆきに気づいていない。
ゆきは躊躇せず一気に走り寄り、ボディブローを一人一人にお見舞いしていった。不意を突かれた不良たちは、良平にやられた古傷の影響もあり、ばたばた倒れてうずくまった。踏みしだかれる白菜、折れ舞う大根菜。ゆきが最後の一人を倒した時、聞き慣れた声がした。
「ユキユキ。ちょっと待って。」
声の方を振り向くと、記念碑の根本辺りに括り付けられた泉だった。
「泉ちゃん!大丈夫?」
「うん、大丈夫。ときわちゃんも無事よ。」
泉はそういってあごで隣の少女を指した。清楚な少女は無言で頷いた。恐怖で震えている。
「そう。良かった。本当に無事なのね。」
そう言ってゆきが二人に近づくと、不意に後ろから木刀が振り下ろされた。ゆきはぎりぎりのところでそれをかわし、手前に飛び退いた。そこには一人の大柄な不良が立っていた。
「てめえ、やってくれたな!」
「ユキユキ、気を付けて。そいつは上小国の番長よ。名前は忘れたけど、鎮生君がちょっとだけ強いって言ってた。」
「泉ちゃん、ありがとう。参考になったわ。」
「おいこのアマ、上小国の番長の名前を忘れただと?ならば教えてやろう・・・」
大柄な不良が泉にそう言いかけた時、ゆきの目にもとまらぬパンチが彼の腹に叩き込まれた。よそ見をしていたとはいえ、木刀を構えた相手の真正面からでも決まるほどの高速の踏み込み、まさに電光石火である。不良は無言でもんどりうってうずくまった。彼は畑の土をかみしめながら、
「せめて、名乗らせろ・・・。」
と不明瞭に言いながら気絶した。ゆきはそれを見届けながら、幾分ひきつった表情を見せてつぶやいた。
「初めて人に危害を加えた。恐ろしいことをしてしまった。私のこの右手で・・・。」
それから数分後、殺気立った紙同会の一二人の豪傑たちが大塔塚跡に着いた。数台のバイクや自転車に分乗している。朝雄の形相は鬼のようだった。その時そこで彼らが見たものは、畑にうずくまる一〇人の不良と、その傍らで手を取り合う三人の少女だった。
「ときわ!無事か!」
「朝雄君!」
二人は駆けより、手を握り合った。
泉の説明によると、事件の概要はこうだった。
[渋蛇会]は法末鎮生をもう一度グループに引き入れようと画策していた。まず彼らは泉に相談を持ちかけた。泉はそれを拒絶し、その態度に彼らは激高した。彼らは泉をさらって鎮生を脅そうと考えた。その犯行現場に、野球部のマネージャーのときわが遭遇してしまった。彼らはときわもさらって人質にし、ついでに目の上のタンコブであった野球部も脅そうとした。そして彼らのアジト兼ガレージがあるこの大塔塚跡に、鎮生と野球部を呼び出した・・・。
「まさかこんなに早く来るとは思ってなかったんだろう。奇襲になったわけだ。」
と小国沢明が言った。上岩田仲良が答える。
「まあ運よくってところだな。状況も把握せずに飛び出すなんて、雪村も兵法を知らん。」
「仲良君、兵は拙速を尊ぶっていうでしょう。」
「ユキユキ、あなた無茶だったよ。女の子一人で特攻するなんて。それに、人まで殴っちゃって。」
「あら、助かったから良かったじゃない。でも泉ちゃんがやってくれたらもっと良かったかも。」
ゆきは努めて明るく振る舞っているようだった。
「も、もちろん私はスケバンだから、本当ならこの人たちなんかバシバシやっちゃうけどさ。」
泉は続けてぼそっと言った。
「・・・できれば鎮生君に助けてほしかったのに。」
「あなたまさか、わざとさらわれたの?」
「ま、まさか!そうじゃないよ。鎮生君には心配かけたくない。・・・ただ、私はいつでも逃げられたのよ。荒縄なんてすぐ切れるし。ほら。」
そういって泉は足元の太い荒縄を拾ってブチブチねじ切った。
少々呆れ顔をしていた仲良が、その時思い出したように言った。
「そういえば、こいつら鎮生に連絡取ったのか?」
「そうね、彼は法末村にいるはずだから、電話でもしたんじゃないかしら。」
「電話か。だとすると、そろそろ・・・」
朝雄の声を遮るように、道の向こうからバイクの音が聞こえてきた。
ヤマハSR四〇〇が猛スピードで走ってきて、キッと一同の前で止まった。巨体のせいでけして小さくないバイクが原付のように見える。鎮生だった。
「泉。無事か。」
「鎮生君!」
泉は鎮生に駆け寄った。
「俺のせいでひどい目にあわせてしまったな。」
「ううん、いいの。小虫がたかってきたようなものよ。」
一同はその様子を静かに見守った。しばらくして鎮生はバイクの後部に泉を乗せて去っていった。彼は去り際に短く、だが丁寧にお礼を言った。空の雲は流れ、大塔塚跡一帯を傾いた陽が照らした。
明は振り向いて、のびている不良たちを見渡して言った。
「あーあ、せっかく紙同会一同の超戦力を試すチャンスだったのに。雪村ひとりで片付けちまって。俺たち紙同会調査部にとっての貴重なデータが。」
「明君、この不良の人たちは普通の人たちよ。私たちが本気を出す相手じゃない。私たちの本当の相手は、他にいる。」
「へえ、それは誰だ、教えてくれよ。具体的に頼むぜ。」
「それは今はまだはっきりしていない。けど、意外と近くにいると思う。遠くにもいるかもしれないけど。」
「どこにでもいるってか。お前が言いたいのは、敵は新たな[共鳴者]ってことか?」
「それもあるし、そうじゃないのもあると思う。それに、敵と決まっている訳じゃない。」
「相変わらず曖昧だな。」
「明よ、そう雪村に絡むな。まだわからん事も多いが、準備は怠らずやろうってことだろう。」
「ああ仲良、そんなことは分かっている。俺はただ、本気を出すべきターゲットが何かはっきりさせたいだけだ。そういうのって大事だろう。」
「明君、目の前のターゲットははっきりしています。」
「そうか、それはなんだ?」
「それはもちろん、冬の紙作りよ。」




